ユニークスキル『オヤジギャグ』がなんか強い

waissu

ネタスキル

 自転車を飛ばし、家に帰って風呂に入って飯を食って自分の部屋に入る。パジャマ姿の俺を迎えたのは、黒光りした、バイクのヘルメットのような物体。


 これは今話題の「世界初」のフルダイブ型ゲーム、『First World Online』をプレイするための機器だ。


 『First World Online』のメインクエストは『この世界を滅ぼそうとする魔王を倒せ』というシンプルなもの。しかし、プレイヤー達は色々と好き勝手に出来るらしく、自由度が非常に高いとの事だ。


 カバーにひびが入ったスマホを手にとって時間を確認する……今は六時五十五分か。『First World Online』のサービス開始時刻は七時丁度。まだ少し時間がある。


 最終確認だ。ケーブルよし、水分よし、腹よし、トイレよし、室温よし、宿題よし……完璧だ……。学校で宿題をやっておいて本当に良かった。後は待つだけ。もう一度時間を確認すると、七時まであと数十秒を切っていた。さて、そろそろだな……


 機器をかぶり目をつむる。頭のなかで秒数を数える。ちょっとずれるかもしれないが、そこら辺はどうにかなるだろう。あっちにはどんな世界が広がっているんだろうな……


3、2、1、「ダイブインスタート!」


────

──気が付くと真っ白な空間に立っていた。バランスを崩しかけるが、何とか安定させる。


『ようこそ、カンナベ ハヤト様。私はナビと申します』


 何処からか透き通るような声が聞こえたと思うと、俺の目の前に、ブロンドヘアの女性が現れた。まるで女神のような姿からは神々しさを感じる。


「どうも。よろしくお願いします」


『こちらこそ、よろしくお願いいたします。これより、本人設定、スキルとジョブ獲得、ボーナス割り振り、それから希望者のみのチュートリアルを行います。希望は後で取ります』


「了解です」


『では本人設定に移ります。まずは、名前の設定です。十五文字以内の名前を設定して下さい。なお、既に他者が設定した名前は使用出来ません』


 その答えは、既に考え済みだ。


「『クルハ』でお願いします」


 俺の名字、寒鍋の『寒(英語でクール)』と下の名前の『隼人』の『隼(ハヤブサ)』を掛け合わせて『クルハ』……まあ、『寒』を英語で『クール』なのは強引かも知れないが、まあ良いんじゃないか?


『わかりました……では、種族を決めて下さい。種族によって、スキルの獲得のしやすさなどの様々な事が決まります』


 ウィンドウが現れた。まあ、ヒューマンでいいか……エルフや竜人やスケルトンとかも選べるが、現実の自分と同じ種族の方が良いだろう。


『わかりました。続いてはクルハ様のアバターを作成します。』


 俺の目の前にウィンドウが現れた。性別はまあ、『男』、身長は……元より10センチくらい高く……顔は……自分のと変えないでいいや。髪は……長さは変えずに金髪にしてみるか……目は……黒でいいかな。


『わかりました。それではクルハ様、スキルをリストから3つ選択してください。なお、ランダム選択にすると、ユニークスキルを含めた全てのスキルの中から、ランダムで1つのスキルを獲得します』


「ユニークスキル? 所有者がただ一人のスキルって事ですか?」


『そうです。そして、ユニークスキルを獲得した場合は、ボーナスの割り振りが出来ません。初期値のままです』


 リストを見てみたが、『剣術』や『斧述』や『ヒール』など、所謂ノーマルスキルの様な物ばかり……


 ユニーク……オンリーワン……欲しい……俺もラノベの主人公みたいになれるかもしれない……が、スキル一個で初期値のまま……はキツいな。


「初期値っていうのは、具体的にどれくらいなんですか?」


『全てのステータスにおいて、10が初期値です。ボーナス割り振りは、それらに加えて10のボーナスポイントを割り振ることを言います。種族のレベルが1上がるごとに3のステータスポイントと2のスキルポイントが貰えて、それらを自由に割り振る事ができます』


 なかなか痛い線を突いてくるな……でも、ユニークスキルは欲しいしな……ここで大当たりを引いて無双できたら……


「ランダムでお願いします!」


『わかりました。貴方のスキルは…………』


 続きの言葉を待つ。頼む、ユニーク来い!


『……………………オヤジギャグです……』


〈ユニークスキル『オヤジギャグ』を獲得しました〉


〈ユニークスキル『オヤジギャグ』の獲得により、ジョブが『オヤジ』に固定されました〉


「は?」


 ちょっと待て………………ユニークスキル『オヤジギャグ』………………だと?


『ユニークスキルを獲得致しましたので、ボーナスの割り振りはありません。またジョブが固定されたのでジョブ獲得もありません。チュートリアルを行いますか?』


 固まる俺を無視して、新たな選択肢を突き付けてくるナビ。


「ちょ、ちょっと待ってください! 何なんですか『オヤジギャグ』ってどういう事ですか何でそんなスキルがあるんですかというかジョブが『オヤジ』って俺中学生なんですけど!?」


『その質問にはお答え出来ません。チュートリアルを行いますか?』


 遠回しに『知るかボケ』と言われたような気がした。俺も知るかよボケ。


「行い……ます…』


『ではこれよりチュートリアルを行います。まずは、ご自分のステータスを確認して見ましょう。〈メニューオープン〉と唱えれば、ウィンドウが現れます』


言葉がしりすぼみになっていくおれを他所に、ナビは説明を続ける……ああ切り替えだ! 切り替え!


「〈メニューオープン〉」


 さっき起きた事をとりあえず置いといて、言われた通りにそう唱えると、俺の目の前にウィンドウが現れた。


『ではステータスを見てみましょう。〈ステータス〉のところをタップして下さい』


 タップすると新たなウィンドウが現れた。

────────

〈ステータス〉

クルハ(ヒューマンLv1)

ジョブ『オヤジLv1』

体力10/10

魔力10/10

攻撃10

防御10

魔攻10

魔防10

敏捷10

ステータスポイント0

スキルポイント0


スキル

〈オヤジギャグ〉Lv1(ユニークスキル)

────────

 これがステータス……うん、全部10だな。このスキルのせいで……いや、ユニーク当てたよ? これだけ聞けば大当たりだよ? でもさ、この名前……明らかにネタじゃん。『ピエン』レベルじゃないよ? これ……


『詳細は、タップで確認できます。』


 俺が『オヤジギャグ』の所をタップするとテキストが出てきた。


〈オヤジギャグ〉Lv1(ユニークスキル)

あと10ポイントでレベルアップ

────────

(効果)

発動の意思がある時に、オヤジギャグを一つ言う事で、攻撃、防御の氷魔法、そして支援の魔法を発動させる事が出来る。


(効力)

掛けた文字列が最低で二文字の時にスキルが発動し、文字数が多ければ多い程、効力が増加する。一文で同じ文字列を3つ以上掛けた場合、効力が更に増加する。


(その他)

オヤジギャグかどうかは、専用のAIが判断する。また、掛けた文字列が、以前に一度でも発動させた事があるのと同じ場合、スキルの効果は発動しない。ただし、スキルのレベルが上がった時、これはリセットされる。

────────

 意外とちゃんと設定がされているんだな。そうじゃなかったら本格的にオワッてたかもしれない……


 その後、操作系のチュートリアルを進めていき、いよいよ終わったという所で……


『では、このモンスターを倒してみましょう。クルハ様は何度倒されても復活できますのでご安心下さい』


 俺の目の前に、緑色のゼリーみたいな奴が現れた。その上には横に伸びる緑色のバーが見える……うん、スライムだな。


 じゃあ、スキルの発動やってみるか……『スキルレベルを上げない限り二度同じのは使えない』のはかなりキツイ制約だが、仕方ない。


 種類は攻撃だな……標的はスライム……

「『(マス)を頂き(ます)』」


 すると、俺の目の前に突然いくつかの氷のつぶてが現れ、スライムの方へ飛んでいった。ピンポン玉くらいの大きさか? それって雹か……


『キュゥゥゥ……』


 全ての雹(?)を容赦なく、くらったスライムは、バーを緑から黒色に変え、キラキラと光るエフェクトとなって四散した。意外と結構な威力があるんだな……二文字だけど。


〈レベルが上がりました〉


 さすがはレベル1。敵を一体倒しただけでレベルが上がった。


『戦闘のチュートリアルを続けますか?』


 どうしようか、このまま一文字ずつ文字数を増やして威力を確かめるのもアリ……じゃないな……オヤジギャグの貯蓄なんてほとんど無いんだし。それに『あいつら』を待たせるわけにもいかないしな……


「いや、もう止めます」


『わかりました。これより転移を開始します。それではクルハ様、First World Onlineの世界をどうぞお楽しみ下さい────』

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