山舐めんな
そして俺達は何人ものプレイヤー達とすれ違いながら山へと向かっていったわけだが……
「道が……無いな。つーか、これ進めるのかよ……下草の量が尋常じゃないぞ……どうりで全然人が見えないわけだ。草原に人が集まっていたのにも、これなら頷ける」
おそらく、リアルの山を参考にしてこの山を作成したんだろうが……これはあまりにもひどい。笹のような見た目の、俺達の腰まであるほど長い草が、斜面一面に生い茂っている。そして不規則に並ぶ木々……
「ホントだよ。迂回しようにも一面これじゃあね……まあ、こういう人が寄り付かない所に、良いモノが隠れてたりするんだけど……行っちゃう?」
フライはどこか嬉しそうだ。冒険気質な所が、案外彼にはあるのだろう。
「いや却下だろ……確かに良いモノを見つけた時のリターンは大きいが、それはあくまで見つけられたらの話だ。そもそも、こんなの進めないだろ……シンもそう思うだろ?」
そう言って、斜面をジッと観察するシンに問い掛けた。しかし、返ってきた答えは俺の予想の真逆だった。
「いや、多分行けるぜ? ほら、あそこ見てみろよ………………結構オープンになってるだろ? 多分向こうまでそれが広がってる。下草は確かに邪魔だが、茨よりかはずっとマシだし、俺が先頭で草を踏んでおけば二人も来れるはずだ。あそこまでは休憩は無しで行けるぜ」
そう言って彼が指差した所を見たが、イマイチよく見えない。
「全然わからないんだけど……」
「俺もだ。なんでシンは見えるんだ?」
「そりゃあ、『遠見』のスキルを持ってるからな。俺はメガネ勢だからよ、裸眼でも遠くがハッキリと見えるスキルが欲しかったんだ。で、行くか? 出来るか出来ないかじゃねぇ、canかcan'tかだ! と冗談はここまでにして……ガチ目にどうする?」
俺とフライは顔を見合わせた。そして互いに頷く。そして彼へと向き直って、
「「行こう!」」
────
──「あ~、結構、疲れたな。シンがMVPって事で……ありがとな」
シンが先頭で草を踏んでくれたお陰で、俺達はバテたものの、何とかオープンまで行けた。オープンはシンの予想通り斜面の向こうまで続いている。当たりだ……!
「そうだね……シン、ありがと……でも、何であんなに軽々と進めるの?」
それは俺も気になった。まるでジャンプするかのように斜面を登り、一切の休憩無しでオープンまで着く……そして一切息切れしていない……
二人に視線を向けられた彼は軽く笑った。
「いや……これを言うのは何かアレだけど、言っとくぜ……この斜面は、かなり良心的に創られてる。それに、腿上げトレーニングと大してやってる事は変わらないぜ?」
「これが……良心的?」
「チョット……ボク……イミワカンナイ」
「ああ、倒木なんかが全然転がってねぇから踏み抜きの危険性もほとんどねぇし、茨とかじゃねぇから足が傷つく事もあんまりねぇ。木も高くてスギみたいなヤツばっかで低木も録に生えちゃいねぇから、腕を傷付ける事もあんまりねぇ。」
こんな事をスラスラ言えるシン……経験者は語るっていうやつか? 山にでも住んでるのだろうか……でも毎日俺と一緒の駅で降りてるよな……
「『踏み抜き』って……一体何なんだい?」
「それは俺も気になった」
「『踏み抜き』ってのはな……地面と垂直にある枝なんかを足で踏んじまって、グサッてなることなんだぜ。運が悪けりゃ足を枝が貫通しちまう。地面と垂直にある枝ってのは、倒木ならではだな」
「いやめちゃくちゃヤバイじゃん……」
「ヤバス……シンはなったことあるの?」
「いや、俺は枝バージョンはねぇ。まあ昔、回す方のコマの鉄心を踏んづけて刺さった事はあるけどな……案外痛くなかったぜ?」
「「嘘つけ!」」
ハモった。鉄心が刺さって痛くないとか絶対嘘だろ……上手く神経を外した? いや、無いに決まってる。
「なあ、雑談はここまでにして、モンスターを狩りに行こうぜ? ここは、男のロマンの宝庫だからよ。」
シンが体を伸ばしながら言った。
「まあ、そうだな。男のロマンってのはイマイチわからんが……」
「僕らがいつまでこのエリアを独占できるか分からないからね……さあ、モンスターシバいて、とっととガチ勢が来る前にずらかるぞ~!」
「お前いつから盗賊の頭領になったんだよ」
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