第6話悪夢再来

寿々成家に呼ばれた日、当主夫妻も休むとの事で私と母・父の3人で帰宅することに。お屋敷に来ていた祖父母は会長夫妻が心配なようで1泊することになった。


「はぁ、やっと帰れる…。早く車来ないかなぁ。」


さすがに今日は疲れたぁ、もう暗いよー。

玄関先で車を取りに行った両親を待っていると神宮寺さんが不意に現れ話しかけられた。


「麗様、本日はお疲れ様でございました。」


「あっ、いえ、神宮寺さんこそお疲れ様です!それに麗様じゃなくて麗で良いですから。」


「お心遣いありがとうございます。

ですが、呼び捨てでは失礼に値しますので麗さんでいかがでしょうか?」


「じゃあ、それでよろしくお願いします!」


麗さんと言ってくれた神宮寺さんの顔が少し赤い様に見えたけど、勘違いかな?

そのまま神宮寺さんは会話を始めるので、そんなことすぐに気にならなくなった?


「はい、承知致しました。

麗さんはお車をお待ちなんでしょうか?」


「あっ、両親が取りに行ってて…。」


「左様でございますか。

本来なら私が送ってさしあげたかったのですが、予定が詰まっていまして。」


「気にしないで下さい!

両親も一緒に帰りますし大丈夫ですよ。」


そう言うとタイミングが良いのか悪いのか両親が乗った車がこちらにやって来るのが見えた。神宮寺さんもそれに気づき会話の終わりを作ってくれる。


「では、また屋敷に来る際は必ず送迎させて頂きます。

私は仕事に戻りますので、麗さんお休みなさいませ。」


「来るかは分かりませんが、その時はお言葉に甘えて。

神宮寺さんもしっかり休んで下さいね。」


神宮寺さんも疲れているのに私に笑いかけお屋敷に戻って行く。早く帰りたかったのに、何だか名残惜しくなってしまう。神宮寺さんとの会話に浸っていると私を呼ぶお母さんの声が聞こえ現実に引き戻された。


「ほら、れい~!もう行くわよ~。」


「まっ、待ってよ!!今乗るから。」


急いで乗り込んだ私にお母さんは意地悪な顔で神宮寺さんとの事について聞いてくる。


「もう麗ったら、神宮寺まで懐かせるってどういうことなの?」


「懐いてるとかじゃないから!!

今日送ってくれてその時に打ち解けた?みたいな。」


「ふーん、まぁ良いけど。

神宮寺の女には早々なれないわよ?ふふっ。」


楽しそうに私をからかうお母さんが面倒くさくなり、お父さんに話を振る。


「もうっ、お母さんってば!!

お父さん早く帰ろ!!」


「あぁ、分かったよ。

母さんも静かにしなさい。」


「はいはい、分かりましたよ~。」


お父さんが車を出すと、やっとお母さんは静かになった。心が乱されたけど外の景色を見ていると落ち着いていき、疲れが出てきたのか眠くなる。

もう疲れたなぁ、頭動かないよ。

いつの間にか私は眠ってしまい、お父さんが運んでくれたらしく次に目が覚めた時には自分のベットに横になっていた。


「はぁぁぁ、ねむいーーー。」


学校は春休みで無い、2度寝したい所だけど今の時刻は8時。朝ご飯を食べないと怒られるのでのそのそと動きリビングに向かう。

お味噌汁のいい匂いがし朝ご飯の支度は完璧で両親は食べ始めていた。


「おはよ、お母さんお父さん。」


「おはよう。昨日はやっぱり疲れてたみたいだな。」


「おはよー、グッスリな麗を運ぶの大変だったのよ。お父さんが。」


運んでいないお母さんが自慢げに言ってくる。こういうお母さんには突っかからないのが1番の対処法だ?


「ありがと、お父さん。

でも寝たらスッキリしたし、大丈夫だよ!」


「なら良かった。そうだ、今日も父さん達仕事だからよろしくな。」


「また、あの三兄弟に会わないとなのかしら?奥様に付きっきりで居たいわ。」


「母さん!仕事なんだから諦めなさい。」


「2人とも喧嘩しないで…。

そろそろ出ないとじゃない?」


「あっ、そうだな、じゃあ片付け頼んでいいか?母さん、早くしなさい。」


「はいはい、じゃあ麗何かあったら連絡しなさい。」


「分かったよー、行ってらっしゃい!」


朝から騒々しい両親を見送り、1人ゆっくり朝ご飯を食べる。2人の様子から祖父母は日中は家に帰ってくることは無さそうで少しほっとする。まだ夢の様に感じる昨日の出来事、祖父母に色々聞かれても疲れてしまうからだ。


「うー、今日はもうゆっくりするぞ!」


Prrr r、、、


ゆっくりしようと決めた瞬間に電話が鳴る。家族からの電話だとすぐ出ないと怒られるので渋々向かう。この時電話機の表示を確認しなかった事をすぐに後悔した。


「はい、音笠です。」


「もしもし麗ちゃん?」


「はっ、えっ…。」


相手の声を聞いて、私は寒気がし昨日の悪夢が蘇る。


「昨日の今日でごめんね、雪だけど…。」


「あっ、いや、その大丈夫です。」


緊張で声が上ずってしまう。

どうして雪君が??昨日の事かな。


「なら良かった~。朝からで申し訳無いんだけど、今からこっち来てくれるかな?」


「あぁ、わかり…。

って、えっ??いっ、今から??」


「うん、今から。お願いしたい事があってね。」


「私じゃないとダメ…ですか?」


「断られちゃうと昨日の陽との事…。」


「分かりました。今から行くので黙っててください!」


昨日の事で脅してくるなんてやっぱり大っ嫌い。


「なら良かった~。送迎お願いしたからそれで来てね。」


ピンポーン、、、ピンポーン、、、


「えっ、あの!ちょ、切りますね!!」


もう今インターホンなんてツイて無さすぎ…。


「はいはーい!今でま…す、、、。」


玄関を慌てて開けるとそこには神宮寺さんが立っていた。


「おはようございます、麗さん。

雪様の命でお迎えに上がりました。」


「あっ、その、ありがとうございます?」


「とんでもございません。

車で待機してますので麗さんの支度が終わりましたらまたお声かけ下さい。」


そういえば寝起きのままの髪、着古した中学のジャージ姿、異性に見られたくないランキング1位の装いだ。

顔が恥ずかしさで赤くなるのが分かる。私は慌てて扉を閉め、その場に座り込む。


「もーーー、朝から最悪すぎぃ…。」


まだ夢の中だと思いたい地獄の朝を迎えた。

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