第5話丸く収まる・・・?
「おぉ、大胆…。」
「うわぁ、陽にぃ積極的!」
私と陽は状況が飲み込めていない中、雪君と春君がわざとらしく声を上げた。その声で我に返った陽は凄いスピードで体を起こし、私を見下ろすように立ち私も体を起こしたがその場で座り込んでしまう。座り込んでいる私を陽は顔を真っ赤にして睨んでくる。
私だってまだパニックだし、それに、ファーストキスだったのに・・・。
グルグルと色んな事が頭の中で巡り動けないでいると陽は感情のままに叫び始めた。
「なっ、てめぇ、避けたりしろよ!!ちっ、あ~もう、最悪だ」
全面的に私が悪いみたいにいいやがって・・・。混乱していた頭や感情は陽の言葉により怒りに支配される。
「はぁぁあ?最悪だと?こっちだって最悪だわ!!」
「はっ、俺のがさいあ」
「てかそもそも、そっちが突っ込んできたのがいけないんじゃないの??
あんたも悪いでしょうが!?」
私が反論して来るとは思ってもなかったからか、私に強く言われ少し大人しくなる陽。このまま言い続けてプライドをボコボコにすることしか考えられなかった。
「いや、別に、仕方ねぇだろ!もとは、おっ、お前がこの家に来たのが行けねぇんだよ。」
「ほんとにあんたってバカだよね?私だって来たくて来たわけじゃないし、あんた達三兄弟がわがまま言ったせいでしょ!」
「うっ、いや俺は雪にぃと春から言われただけだし…。それにバカじゃねぇ!今度こそ殴んぞ。」
「人のせいにすんなーー!!それに分が悪くなったらすぐ脅して殴って…。」
私の怒りは最高潮に達していた。陽が傷つくことなんて考えもせず、とどめの言葉を言い放つ。
「ていうか、体格も力もあんた以下のうちに殴ることでしか反論出来ないなんて…。
か・わ・い・そ・う。」
陽の嫌いな上から目線に殴ることしか取り柄がないと言うような内容。言われた本人は無表情になり固まってしまった。私はもう疲れ切っている中、部屋の隅に移動して私達の喧嘩を見ていた雪君と春君が話しかけてくる。
「お疲れ様。陽に言葉でとどめを刺すなんて麗ちゃん成長したね。」
「ほんとすごいよ~、こんな陽にぃ初めて見る~。
面白すぎ、あはは。」
「こんなことで褒められても嬉しくないんですけど。」
雪君は私に労いの言葉を春君は笑いながら立ち尽くしてる陽の周りをグルグルと歩いている。正直あんなに言い負かしても気分は全然晴れないままの中、雪君が恐ろしい事を言い始める。
「そういえば陽と麗ちゃん、事故とはいえキスしてたよね?」
「えっ、いや、ちがっ」
「違くないよ~、僕もちゃんと見てたし。」
まるで最高のおもちゃが手に入ったと言わんばかりに輝く目が恐ろしかった。何か考えがあるのだろうか、軽く流して様子を見ようと思い会話を続ける。
「あー、まぁ確かにキスしましたけど事故ですから事故!」
「事故だけど麗ちゃん、ファーストキスでしょ?裕美子さん達に説明した方が良いんじゃないかと思ってね。」
「そうそう、事故とはいえ女の子の麗ちゃんには一大事だしね~。」
はっ、いやなんでファーストキスだって知ってるの??怖いよこの人達、それに嫌でも分かる、私は今雪君と春君から脅されているのだと。本当に性根が腐っている兄弟だ。
「言いたいことは分かりました。で、私に何かしてほしいことがあるんですよね?」
「まぁね。でも、俺の一存では無理だからまだ内緒。」
「はぁぁ、分かりました。頭に入れておきます。」
「麗ちゃんとまた会えるの楽しみだなぁ!」
またこの人達と関わるのは嫌だけど仕方ない。ともあれ話し合いも終わりの雰囲気だし、そろそろ帰りたいなぁ。
依然立ったままの陽を無視して帰りたいことを二人に伝えると意外にも了承してくれた。
「なら、僕達も父さん達の所へ行こうかな。」
「さんせ~い。一応謝っとかないとね!」
「もう、ちゃんと謝ってね?あと跡取り教育のことは自分らで言ってくださいよ。」
「ごめんごめん。じゃあ向かおうか。」
「あー、陽はどうします?多分まともにまだ話せないと思いますけど…。」
「麗ちゃんが言いまくったからね~、まぁ陽にぃなら置いて行って大丈夫だよ。」
「うっ、それは仕方ないっていうか。」
「父さん達にはそれとなく言っておくから、大丈夫だよ。」
「すいません、お願いします。」
こうして呆然と立ちつくしたままの陽を置いていき、雪君と春君・私で親の待つ部屋に向かう。なんとなく全員無言で歩き目的の部屋についた。私がノックをし部屋の扉を開けるとまだ泣いている当主夫妻にイライラしている母を宥めている父、異様な空間だった。声をかけずらい中、この二人は平然と声をかけ始めた。
「皆さん、お待たせして申し訳ありません。」
「父さん、母さん、何時間ぶり!」
春君の言い方が気になるがご夫妻はそんなこと気にせず、息子達の所へ駆け寄って来たので私は両親の元にしれっと移動する。
「あぁ、お前達ごめんな父さん達がせかしたから。」
「ごめんなさいねぇ、お母さん反省したの。みんなともっとお話しすれば良かったって。」
「いえ、僕達もわがままを言ってしまいすみませんでした。」
「さっきは酷いこと言ってごめんなさい。でも僕達、父さんと母さんのこと大好きだよ!」
こんなセリフを表情付きで完璧に言えるなんて私を脅しきた人とは思えない。鳥肌が立ってくる。
「うぅぅぅ、なんて優しい子なんだ。」
「ありがとう、お母さん達もみんなのこと大好きよぉ。
あら、陽はどうしたの?」
「あぁ、陽は会うのが気まずいって部屋に戻ったけどちゃんと話に行くって言ってたよ。」
「そうか、なら後でちゃんと話を聞かないとな。」
「えぇ、そうね、でももう今日は疲れたでしょう。二人もお部屋で休みなさい。」
「そうするよ、あぁ、今日はありがとうね。麗ちゃん。」
「麗ちゃん、今度は遊ぼうねぇ!」
感動的な再開を果たし、最後に爽やかな笑顔で意味深なセリフを言った二人。どれが本性なのか分からず、最後の最後まで怖かった。夫妻は二人を部屋まで届けてくると言ったのでこの部屋には音笠家だけになりお母さんからの質問攻めが始まった。
「なにあんた仲良くなってんのよ?大っ嫌いなくせに。」
「いや大っ嫌いだからね!?あっちが勝手に言ってるだけで…。」
「二人とも、そんな大っ嫌いって言わないほうが…。」
「あんたは」「お父さんは」
「「黙ってて!!」」
「あー、うん。そうだな、その、ごめんな?」
母と娘の息のあった言葉で父は落胆し静かになる。
「二年も会ってなかったのによく説得できたね?なにしたのよ?」
「いや、まぁ暴力とかはしてないよ!!でも、結構言葉で…。」
「あー、そのくらい大丈夫でしょ。逆に麗の言葉攻めでメンタル折れるならこの先キツイわよ。」
「そうなんだぁ。ふーん。」
なんかごめん、陽。
「ま、まぁ、麗はよくやってくれたぞ!丸く収まったし、今度美味しいものでも食べに行こうか。」
お父さんは私達のご機嫌をとるために必死なようで、お母さんはそれに乗っかりわがままを言い始める。
「丸くは分かんないけど…、美味しいものは食べに行く!」
「私、最高級なお肉食べたいわ。」
「母さんのためじゃなくて麗のためなんだからな。」
「はぁ、ケチね。」
「まぁまぁ、お母さん。」
両親とのいつも通りな会話に安心し、心が落ち着いていく。雪君の言ってたことはまだ分からないけど、今回みたいに家を巻き込むようなことはないと思いたい。
だが、今回の事が雪君達三兄弟の中でまだ丸く収まっていないことを私が知るのはそう遠くない事だった。
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