第4話世界一嫌いな三兄弟
三兄弟が陣取っている部屋からどす黒い空気が立ち込めているのが扉越しから伝わってくる。そのせいか扉の取っ手を掴んでいる私の手は少し震えていた。ヤバいって、こんな空気だなんて予想外だよぉ。でももう後には引けないず自分を励ます。
「大丈夫、大丈夫、いつもの麗でいればイケる。私は出来る子、私は出来る子…えーい!」
そのままの勢いで扉を開くと私と対面する形で三兄弟はそれぞれ椅子に座っていた。だが三兄弟は私だと気づいてないのか顔も上げず無反応。私は勢いよく開けた扉を静かに閉め、無言の三兄弟達に近づき意を決して話しかける。強気で行くのよ、どんな態度をとられても油断しないで…。
「久しぶりね、単刀直入に聞くけど跡取り教育を受けないってどういうつもり?」
声も震えることなく言い切れた。私が入ってきても興味を示さなかった三兄弟の視線が今ので一気に集中する、2年くらい会ってなかったけど顔だけは立派に成長したみたい。どう出てくるのか伺っていると私の1個上で長男の【寿々成雪 すずなりせつ】が返答してきた。
「麗ちゃん、久しぶりだね。綺麗になってびっくりしたなぁ、昔は男の子みたいでよく間違われてたのにねぇ。」
「雪君、ありがとう。でも今はその話じゃないしどうでもいい昔話は止めて。」
「ごめんごめん。」
雪君は結局本来の事には何も言わず私の反応を楽しんでいるようだ。三兄弟の中で一番物腰が柔らかく知的な雪君だけど人のトラウマを皆の前で言って辱めるのが好きで腹黒な性格もあり小さい頃から沢山の人を泣かせてきた。顔はシュッとしてて二重で切れ長な目、前髪が少し目にかかるくらいの黒髪短髪ようはイケメン。この人には知性で負けるから、頭の切れない単純な同い年で次男の【寿々成陽 すずなりよう】に聞いてみる。
「なんか言いなさいよ、陽。」
「あぁ?うるせーな、幼馴染だからって上から目線で聞くな。」
「はぁ、変わってないのね。」
「ふんっ。」
不機嫌になった陽は昔から腕っぷしが強かったせいか自分よりも強い人の話しか聞かず、そのせいで色んな人と喧嘩しまくった暴君。感情で動くからこそ、この三兄弟の中では一番話やすい気がする。喧嘩で鍛えた体に鋭い目つき、茶髪で無造作な髪形、人受けはよくないがこれもまた整った顔をしてる。きっと陽は話してくれないと思い私の1個下で三兄弟の末っ子【寿々成春 すずなりしゅん】に話を振った。
「春君はどうしてなの?」
「ん~、兄さん達が受けないって言うからかな~。
でも!麗ちゃんが可愛くお願いしてくれるなら僕考え直そうかな~。」
「えっ、本当に?」
「あはは!そんな訳ないじゃん、だって麗ちゃんもともと可愛くないから無理だよ?」
満面の笑みで非情なことを言う末っ子が私は三兄弟の中で一番やっかいだと思う。こうやって愛嬌を振りまいてから、地獄みたいなことを笑顔で言い出す悪魔みたいな精神をしていて怖すぎる。 まぁ見た目はぱっちり二重に小さい唇、黒髪マッシュの人畜無害そうな顔だけど。
三人共話をしたがらないし、性格は二年前よりも更にグレードアップしてる。だからって引き下がれないし、三人を挑発して無理にでも会話を続けることにした。
「三人共全然変わってないなぁ。確かにまだ跡取り教育はしない方がいいかもねー。」
「おいブスッ、てめぇなんだその言い方。」
「あぁん、誰がブスだって?いきってるだけで現実から逃げまくってる次男君?」
「なっ、てめぇぜってー許さねぇ。」
イラッとするような言い方をすれば陽は釣れると思ってたけど簡単すぎるでしょ。陽は寿々成家の次男として扱われるのを酷く嫌うので、怒りマックスに。図星をついた私をどうにかしたくて椅子から立ち上がった陽を雪君が止める。
「陽、少し落ち着け。それに麗ちゃんも落ち着いてくれないかな?
俺らが麗ちゃんを呼んだのは言い争うためじゃないんだ。」
「私は落ち着いてますよ。それに雪君達が私を呼んだ理由もなんとなく分かってます。
陽はともかくとして…。」
「ともかくってなんだよ!?」
「静かに!
雪君と春君は跡取りとして扱われるのが嫌でただの幼馴染として接する私を呼んだんじゃないんですか?」
「はっ、なんだよそれ…。」
雪君と春君はバレたかと言うような表情をし、陽は呆然としている。
「さすが麗ちゃん、音笠の血を引く者ですね。正解ですよ。」
「あーあ、2年前の麗ちゃんならもっと騙せて楽しかったのに!!」
「全く子供なんだから。今までのごねり方は私を呼び付けるためでしょ?
なら、後でちゃんと謝ってくださいね。」
雪君はニコニコと笑っていて、春君は少しむくれたような顔をしている。この三兄弟の気持ちが分からなくは無い私も音笠家の跡取りではあるから。でも流石にやり過ぎだしもう少しお説教することに。
「でも、私を呼び出すためとは言え教育を拒否する事は無かったんじゃないですか?
ご当主夫妻なんて凄く疲れた顔してたし。」
「まぁね、父さん達には悪い事をしたとは思うんだけどねぇ。ちょっとした反抗期をしたかったのさ。」
「そうそう!いつも良い子なんだから、たまにはね?」
「はぁ、どこが良い子なの。
反抗期は小さい頃からじゃなかったですか?」
「あぁ、あれは父さん達に向けてじゃないしもう時効じゃないかな?
優しい麗ちゃんなら分かってくれるよね。」
「はいはい、ここだけの話にしときます。
んじゃ、ちゃんとご当主達に教育受けるって言ってくださいよ~。」
「それはなぁ?」
「うんうん、また別の話!!」
「えっ、はぁぁぁ!?」
「っー、てめぇら俺のこと忘れるんじゃねーよ!!」
私の驚き声が響き、しばらく空気と化していた陽が怒鳴り声を上げる。雪君と春君はもうどうでもいいような顔をしているけど陽はまだ納得いってないみたい。
「ごめんね、相手しなくて。」
「うるせぇ!俺はぜってぇ受けないからな。」
「はぁぁ、わがまま言わないの!あんたもこの家の子なんだから嫌ならおじさん達ともっかい話しな。」
「もー、お前上から目線やめろや。」
怒りマックスになった陽は私を殴る勢いで向かってくる。他の二人は我関せずで見てるだけ、もう陽のこぶしを受け止めるしかないと目をつぶると殴られた痛みでは無く背中に強い衝撃を受けた。
「っー、、、」
思わず目を開けると目の前には陽の顔があり、唇には柔らかく熱い感触があった。
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