3章ー激闘! アーレス祭

第14話

 パルスでの戦いから数日が経った。詩音たちは魔王軍幹部討伐で得た多額の奨励金でクエストに行く必要がないため、しばらく休暇としていた。


「ルナ。そろそろ昼にしよう」


「そうですね。クレアさん。詩音さんを呼んできてください」


「わかった」


クレアは詩音に昼食の時間を伝えるためルナの家から少し行ったところにある広場に向かった。


「相変わらずだな、詩音」


クレアはトレーニング中の詩音に話しかけた。


「あれ、クレア。どした?」


「そろそろ昼食だ。それにしても休暇だというのにずっと鍛錬ばっかりではないか」


「そうは言うが、クレアもちゃんとやっとかないとなまるぞ」


「そ、それはそうだが」


「まあ、これは趣味みたいなもんだから平気だよ。んじゃ、戻ろうか」


「ああ」


ルナの家に戻ると良い匂いが鼻をくすぐる。


「いい匂いだ」


「詩音さん、お帰りなさい! 昼食の準備ができていますよ。クリスタさん。配膳を手伝ってくれませんか?」


「ええ。いいですよ」


4人は団欒して昼食を楽しんだ。だが、


「やっぱ4人だと流石に狭いな、この家」


一人暮らし用の小さな家で4人暮らす為、とても窮屈だった。


「メンバーが増えてにぎやかになったってことですし、いいことじゃないですか」


「でも狭いものは狭いぞ」


「そうだ。詩音は前の戦いで相当稼いでいるだろう。それで家を買ったらどうだ?」


「確かに家くらい買えそうなくらいもらったっけ。ありかもしれんな」


「では昼食が終わったら不動産に行ってみるとしよう」




 不動産にて、


「大きめの家が欲しいんですけど」


詩音が尋ねると不動産屋の店主がいくつか資料を取り出した。


「街中だとこの辺とかになるな。後は」


店主が一枚の資料を取り出した。


「これ、郊外の小高い丘に建ってるんだが、この屋敷はどうだ? 街から少し歩くのと少し年数がたってるがいい屋敷だ。今なら安くしとくぜ」


「うーん。皆はどう思う?」


「よさそうですけどね」


「一度見に行った方がいいんじゃないか?」


「私もそう思います」


「じゃあ、見学させてもらっても?」


「解かった。ついてきな」


4人は店主に連れられ屋敷に向かった。




 屋敷は見た目は古めかしいが、中は思ったよりもきれいで、なにより広かった。


「結構でかいな」


「そうですね」


「4人で住むには少々広すぎるだろうか?」


「掃除は大変そうですけど、狭いよりはいいでしょう」


「ここならひとり一部屋持てそうだな」


「詩音さんもプライベートな空間が欲しいでしょう?」


クリスタがからかうように言う。


「え? まあ、そうだな」


「一人で何するんですかね?」


さらにクリスタがからかう。


「うーん。腕立て?」


「はぁ。面白くないですねこの脳筋」


「なんで怒られたの!?」


「まあまあ。クリスタさんもそのあたりで。でも皆さんも気に行ったみたいですし、ここにしたらどうですか?」


「そうだなぁ。じゃあ、ここにしようか」


「はいよ。じゃあ、戻って書類を書いてもらうぞ」


詩音たちの新居が決定した。




 二日後、


「よし、引越し終わり!」


詩音たちは新居への引っ越し作業を終え、一息ついていた。


「大きなリビングに一人一部屋の個室、そして何よりこの大きな書斎!! わたし、感動です!」


ルナは専用の書斎を手に入れ大喜びだった。


「まだ空き部屋あるし、とりあえずは物置にするけど使いたいなら相談な」


「ハーイ」


詩音たちの新居でも新しい生活がスタートした。




 ある日のギルドはとても騒々しかった。


「どうしたんだ?」


ギルドに来た詩音たちは、周りの冒険者に騒ぎの訳を聞いた。


「おお詩音じゃねえか! 勇者さんがこの街に来たんだよ!!」


「なんと!」


「だが、なぜこのようなところに。勇者様はいま魔王軍と戦うため最前線にいるのではなかったのか?」


「さあな。だがここに来るなんて珍しくてよ。それでみんな大騒ぎさ」


「へー。どれが勇者だよ」


「あの方だ」


冒険者仲間が指をさす方向を見る。そこには一人の青年と二人の美少女がいた。青年は詩音と同じ黒髪で、頑丈そうな鎧を身にまとい、背中に大きな剣を背負ている。他の美少女はそれぞれ盗賊と魔法使いのようで、職業にあった格好をしていた。詩音の存在に気付いた勇者が詩音のもとへ向かってきた。


「どうも、俺、西 啓介にし けいすけ。勇者だ。お前は?」


「いきなりだなぁ。あ、右京詩音です。って、その名前もしかして日本人?」


「お前こそ。ってことはお前も転生してきたってことか」


「そうだなぁ。まさか勇者が同じ日本人とは」


偶然の日本人との再会に詩音と啓介は喜んだ。


「あ、ならお前は何をもらったんだ?」


「もらう? 何を誰から?」


詩音は話の意味が分からなかった。


「隠すなよ。お前も神様からチートをもらったんだろ? 俺はこの剣だぜ。魔剣カラドボルグってんだ。さあ、俺は見せたぜ。お前も教えろよな」


「いや、マジで神様とか知らないんだが」


詩音は困った顔をする。


「その顔を見るにマジっぽいな。なんかかわいそうだなぁ。そんなんで冒険者やってて大変だろ。魔王軍なんか来たらやばそうだな」


啓介は少し馬鹿にしたように言う。


「でも俺は魔王と戦うって決めてんだ」


啓介は詩音の発言を聞いて爆笑した。


「はははははは!!! お前、チートもなしにそんなのできるわけないだろ!」


「詩音さんは本気です! 笑われる筋合いはありません!」


ルナが話に割って入った。


「お前たちもそんな奴の仲間でいいのか? 俺とこいよ。少なくとも詩音よりは安全だぜ」


「性格悪いですねあの人。反吐が出そう」


「クリスタも大概だぞ……」


「啓介、お前剣の流派は?」


詩音が質問する。


「流派? しらねえよ」


「じゃあ、剣道でいいや。何段?」


「剣道なんかやったことねえよ! 何が言いてぇんだ!」


「だろうなと。いやさ、お前本当に勇者かと思ってたけど強いのはその剣か」


「どういうことだ」


「その剣からは強い物を感じるが、お前自身からは何も感じない。素人って感じ。つまりお前は実力がその業物に見合ってないってことだな」


「なんだと?」


啓介は見るからに激怒していた。


「こういうのって日本でも漫画でいっぱいあっただろ? 転生してチートで無双するってやつ。あれ見てて思ってたんだが、俺は自分の力じゃなく他人からもらった力でいい気分になってるやつが大嫌いなんだ。己が武器、己が磨いた技こそが本物の強さだ。お前みたいなのはすぐに力に飲み込まれる。剣の振り方も知らないやつが魔剣なんて扱えるわけがねえんだ。男なら、戦う者ならチートなんて使わず己の力で最強になれ!!」


「ぐっ、言わせておけば! ならお前はどうだっていうんだ!」


「俺か。そうだなぁ。クレア剣を貸してくれないか?」


「ああ、いいぞ」


詩音はクレアから剣を受け取る。


「島原流は剣術もあるんだ。啓介、かかってこい。俺が剣の振り方、戦い方ってもんを教えてやる!

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