第15話

場所は変わり、ギルド前の大通りにて詩音と啓介の勝負が始まろうとしていた。


「お前から言ってきたんだからな。どうなっても知らねぇぞ」


啓介は背中の魔剣カラドボルグを抜く。刀身は長く横幅も広い。片手では振り回すことのできなさそうなほどの大剣だ。鍔には赤い宝石がついており、啓介の手から流れ出している魔力に反応して薄く光っている。詩音はクレアの剣を構えた。右足を少し前に出し、軽く膝を曲げて背筋を伸ばす。剣は軽く握り切っ先を相手の喉に向ける。剣道でいう中段の構えといえば一番解かりやすいだろう。


「剣道やってたのか? お前。けどそれ竹刀でも日本刀でもないでしょ。そんな剣で剣道なんかできんのかよ。」


「剣の種類が違えば技が使えないなんてことはない。武はそんなに不器用な物じゃないし剣もそんな不便な道具じゃない。いいから来いよ。俺の言ってることがどういうことか見せてやるから」


詩音が本気になった。体から隙が消え、周りを圧倒するような圧力を放つ。


「じゃ、遠慮なくいかせてもらうぜ! カラドボルグ!」


啓介の魔剣が魔力により輝きだし、刀身の二倍はあろうかという長さのビームの様なものが魔剣を包んだ。啓介はそれを振りかざそうとする。


「一瞬で終らせるぜ!」


「ああ、一瞬だ」


刹那、詩音は右足を前に送り踏み込んだ。そして啓介が魔剣を振り下ろし始めるころには懐に潜りこんでいた。


「島原流、彼岸花ひがんばな


剣を左後方に引き、姿勢を低くする。そして下から上へ、首を狙い剣を振り上げる。首に当たるかというところで左側から時計回りに刃を当てながら一周し、終わったところで剣を振り下ろす。刃は皮を切るほどしか接していなかったため、啓介の首には切り傷がきれいに首を一周していた。


「え…………」


啓介は唖然とし、あまりの出来事に魔剣を落としてしまった。周りの野次たちも同じだったようで、魔剣が落ちる音のみが響いた。


「彼岸花の名の由来は相手の首から飛び出す鮮血が彼岸花に似ていたことだ。今回は殺さないよう手加減したが、お前、死んでるぜ」


啓介はショックで首の痛みも忘れ、膝から崩れ落ちる。そして、少し落ち着きを取り戻すと、詩音に質問した。


「こ、これが本当にチート能力じゃないってのか?」


「ああ。これは俺が生前から毎日死ぬ思いをしながら鍛えて身に付けた武だ。啓介、俺の言ってることが分かったか?」


「ああ。さっきはあんなこと言ってわるかった……いや、すみませんした。詩音、いや、師匠! 俺に剣を教えてください!!」


啓介は眼を輝かせて言った。


「ショックで落ち込むかと思ったらそう来たか……だがそう頼んでくるってことは、俺の言いたいことが分かってくれてよかった」


「はい! さっきの技、めちゃくちゃカッコよかったっす! 俺もあんな風にやりてぇなー」


「ほんとにわかってんのかコイツ……」


「詩音さん! やりましたね!」


ルナ、クレア、クリスタの3人が詩音のもとへ駈け寄る。


「なるほど。お前たちは師匠と強い絆があるんだな。さっきは誘ったりして悪かった」


「その件はもういい。それより詩音、貴様はこの勇者を弟子にとるのか?」


「え? まあ弟子かはともかく、教えてはやるよ。強くなりたいってやつは大歓迎だからな」


「おお! ありがとうござぁっす師匠!!」


「まさか詩音が剣術も心得ているとは驚いたな。詩音、私にも剣を教えてほしいのだが」


「クレアもか。いいぜ」


「恩に着る」


「クレアか。お前、俺が一番弟子だからな!」


「どちらでもよいだろうが」


「じゃあ二人とも、明日からやるか!」


「ハイ師匠!」


「望むところだ」


「なんだか丸く収まってよかったですね」


「もうちょっとやっててくれてもよかったのに。つまらないわ」


「ちょっとクリスタさん……」


その後詩音、クレア、啓介の3人は武器屋で木刀を買って帰った。




 次の日、詩音は二人の弟子と剣の練習に励んでいた。


「ヤア! ヤア!」


「ハッ! ヤッ!」


「いいぞ、その調子だ」


面の打ち込みが終わると詩音は休憩するよう指示した。


「やっぱりお前ら筋がいいわ。言ったことすぐできるようになるんだもん」


「そ、そうか。やはり人にそういうことを言われるとうれしいものだな」


「そうすか師匠! もっと特訓して強くなったらアーレス祭に出たいっすね!」


「アーレス祭?」


「え、知らないんすか?」


「知らないな」


「詩音、アーレス祭を知らないのか」


「まあこっちに来てあんまり経ってないし」


「じゃあ仕方ないっすねー。あ、俺説明しますよ! これ聞いたらきっと師匠喜びますよ!」


「聞いてみたいな」


啓介はアーレス祭について説明しだした。


「アーレス祭っていうのは4年に一度、ちょうどあとひと月後にアテネで開かれる、世界から自分のことを最強だと思っている男たちが集まって本当の最強を決める大会っす。どうすか? 出たくなったでしょ」


それを聞いて、詩音は高ぶりを感じた。


「すっげー面白そうじゃん。いいな、出てみてぇー」


「なら出たらいい。アテネへいくのなら私もついていこう。ルナやクリスタも誘ってな。アテネか。あそこは綺麗な景色を一望できる観光名所と、あとはやはり食べ物がうまい! ああ、楽しみになってきた!」


「遊びに行くわけじゃないんだがなぁ。とにかく、アテネへ行けばそれに出られるんだよな? なら行くしかねえな」


「師匠も行くんすね。俺、アテネに別の用事があっていくんですけど、一緒に行きませんか?」


「お、いいじゃん。そうしよう」


「じゃあ2週間後に出発しますか」


「おっけー。じゃあ今日はこのくらいにして、俺はルナたちに伝えに行くわ」




 詩音とクレアは帰宅後今日決まったことについて話した。


「アーレス祭ですか。詩音さん、応援してますね!」


「お、ありがとうなルナ!」


詩音はルナの頭をワシワシ撫でる。ルナはまんざらでもなさそうに、なされるがままになっている。


「詩音さんがボッコボコの治しがいのありそうな体になって帰ってくるところが見れるんですね。期待してます。」


「なんでボコボコにさせるの前提なんだよ……」


「二人とも賛成のようだし、アテネりょこ……アーレス祭にいこう!」


「さっきアテネ旅行って言おうとしたよね」


クレアが顔をそらした。


「では旅の準備をしていきましょうか。2週間後アテネに出発できるように」


「おー!」




 2週間後、


「遅いっすよ師匠!」


「早えなぁ啓介。おはよう」


啓介とその仲間たちは馬車の待合所で詩音たちを待っていた。


「おはようございます師匠! 馬車来てますよ」


「おう。それじゃあ出発だ!」


詩音たちは馬車に乗りアテネを目指した。

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