第13話

 フェイロンは武道でいう型の動作を始めた。詩音はこの行動に強烈な予感を感じ取った。


「縮地ッ!!」


詩音は一瞬で相手との距離を詰め、フェイロンの方を阻止せんとばかりに攻め立てる。右、左、膝、蹴りを高速で繰り出す。対するフェイロンは躱す、受ける、殴られるを繰り返しながら、型を進めていく。そしてついにその時が来た。


「詠唱が終わりました。あなたもこれで終わりです! アネモイ・リリーフ」


街の上空が黒雲に覆われ、風が吹き雨が降り始め、次第に強くなっていった。


「これ、台風か?」


「まもなくここに嵐が起こります。それもこの街をすべて吹き飛ばしてしまうほどのね。これで街ごとあなたを消して差し上げますよ。さあ、どうします! あなたならこれをどう切り抜けますか!」


「街が無くなるレベルの台風か。早く何とかしちまわないとやべぇ。これが通用するか、一か八かやるしかねえ!」


詩音は技を打つ体制に入る。


「コォアアアアアアア」


大きく呼吸をし、腰を低く落とす。両腕を胸の前で交差させ、気をためる。


「島原流、気錬点掌波きれんてんしょうは」


気錬掌波を一点集中させ伸ばした両腕から放つ。そして光線が飛び出し、黒雲に向かい射出される。その後に上空で衝撃波による爆風が起こり、黒雲は四散していった。


「ハァ……ハァ……いけたか……」


「な……私のアネモイ・リリーフがいとも簡単に……」


「別に簡単じゃなかったぜ。完成する前だったからだ。それより、お前がでかい魔法を出したんだ。こっちもお返しと行こうか!」


詩音はまたも縮地で間合いに入る。そして連続で技を打ち出す。


「島原流、旋風」


まずは回し蹴りの三連発。フェイロンは2撃目までは受けきるが、最後はまともにくらってしまう。フェイロンの体制が崩れたところへ追撃を放つ。


「島原流、閃拳」


フェイロンの腹部に光速の拳を打ち込む。そして、腹を抱え、悶絶しているフェイロンの顎を蹴り上げ宙に浮かす。着地したところで技を打ち込む。


「島原流、炎鉈」


炎に包まれた足でかかと落としを決める。着地したフェイロンはこれを反射的に受け止める。しかしあまりの威力に腕ごと叩きつけられそうになった為、のけぞるようにして受流す。


「それを待ってたぜ」


詩音はフェイロンの左太ももに飛び乗り、回転する。


「島原流、独楽こま


回転の遠心力を使い、フェイロンの側頭に後ろ回し蹴りを叩きこむ。回転の速さ、そして足に集中させた気により威力が増し、フェイロンの頭蓋骨を砕いた。


「ゴハッ…………」


フェイロンはもう立つことができなかった。


「これだけくらってまだ生きてるとは、流石だぜ」


「もう、立つどころか指を動かすこともかないません。こうして話しているのがやっとです。詩音、あなたは本当に強い。私の完敗です。ですが、とても楽しかった」


「ああ、俺もお前みたいな強い敵とやれて幸福だ」


「そう言っていただけると幸いです…………そろそろ辛くなってきました。詩音、あなたが楽にしてくれませんか?」


「ああ、わかった。じゃあな」


そう言うと詩音は手刀でフェイロンの頸椎を折った。




 戦いを終えた4人は合流した。


「ルナ! 詩音! 無事だったか!」


「ええ、私は大丈夫です。クレアさんたちも大丈夫そうですね。詩音さんは……大けがじゃないですか!!」


ルナは切り傷まみれの詩音をみて絶叫した。


「いやただの切り傷だし」


「だとしても数が多すぎます! 相当激しい戦いをされていたんですね」


「まあな。相手は魔王軍幹部だったみたいだし」


「それはなんともう……すごいな。そうだ、クリスタ、詩音にも回復魔法をかけてやってくれないか。この重症でも治せるだろう?」


「ええ、お安い御用です。ですがまずはここに戦いに巻き込まれ負傷した人たちを集めましょうか」


「先に詩音を回復してからでいいのではないか?」


「一度にまとめた方が効率もいいですし。詩音さん、それまで待てますよね?」


「えっと」


クリスタは声に凄みを出して言う。


「待てますよね?」


「うっす」


「ではクレアさん。けが人を探しに行きましょうか。ルナさんは詩音さんと待っていてください」


そう言うと二人は行ってしまった。


「やっぱやばいかなあの人」


「そ、そうですね……術士としては優秀そうですけど、性格が凄そうです……」


「だよなあ。あれって結構ドSなとこあるぞ絶対」


「そうかもしれないですね……」


「まあでも、俺はあいつにパーティーに入ってほしいな」


「そうなんですか?」


「ああ。クリスタのやつ、ああは言ってるが怪我をした人たちを助けようとしてるし、それにクレアの鎧がへこんでいたが本人は怪我が無かった。あれはクレア自身が丈夫ってのもあるかもしれないが、クリスタが回復魔法をかけてくれたんだろう。だから根はやさしいやつだと思うな」


「確かにそうですね。クリスタさん、了承してくれるといいですね」


ルナと詩音が話していると、クレアたちがけが人を連れて戻ってきた。


「おーい! 連れてきたぞ!!」


けが人は重症が10人程度で、あの戦いにしては少なかった。


「おい、俺たち怪我してんだぞ。その場で治してくればよかったのに……」


市民たちは少し不満なようだった。


「一度にやれば効率がいいんです。みなさん、そこに集まってください。詩音さんも」


「おお」


クリスタは詠唱を開始する。


「ゴッド・ブレス」


すると、全員の怪我が一瞬で完治した。


「おお、すげぇ」


詩音は驚きの声を漏らす。


「クリスタさん、上級回復魔法まで使えるんですね」


「さ、これで治療は終わりましたよ」


「ありがとな。クリスタ。それと、戦いも終わったんだ、返事を聞こうか」


「パーティーの件ですか。あなた方面白いですし、お供したいのは山々なのですが、まだ術士の免許を取っていないので……」


「その件は大丈夫だぞ」


学校側から一人の老人が歩いてきた。白髪に長いひげを生やしており、神父のような服を着こなす老父だ。


「校長先生」


「まずは皆さんにお礼を言いたい。急な魔王軍幹部の襲撃に際し、よくぞこの街を守ってくれた。校長兼市長としてとても感謝している」


「当然のことをしたまでだ」


「いえいえ、とんでもないです」


「いやぁ、照れますなぁ」


三者三様の反応を返す。


「いや、あなたたちの健闘のおかげだ。あとで礼はしっかりとさせてほしい。それと」


校長はクリスタの方を見る。


「クリスタよ、お前はこの戦いに巻き込まれながらも仲間を支援し、そして上級魔法、ゴッド・ブレスでけが人を治したその功績から判断し、お前に回復術士の最高位、一級術士の免許を与えよう」


「本当ですか!?」


「ああ、だからその3人の仲間に加わり、活躍して参れ!!」


「はい! ありがとうございます!」


「良かったな、クリスタ。というわけでよろしくな」


詩音は握手をしようと手を伸ばす。


「はい、こちらこそ」


クリスタは詩音の手を握り返した。


「しかし疲れたな。詩音、今日はどこかに泊まって、明日帰らないか?」


「今日といわず何日か滞在しよう。いくつか建物壊れてるけど出店はやってるかもだし。俺、まだここの食べ物全部制覇してねぇもん」


「いい案だ。ではそうするか」


「はい!」


「美味しいお店、紹介しましょうか?」


「マジか! よーし、明日は食べまくるぞ!!」


「「「おー!」」」


その後4人はパルスの街を満喫し、数日後に王都へ帰るのだった。

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