戦争の正当化と平和への祈り
白里りこ
War and Peace
平和への願いというものは、世界を変える力を持っている可能性があると、私は思っている。
これは、完全な夢物語ではない。
そのことを説明するために、まずは戦争について考えてみよう。
戦争とはどういうものだろうか。
暴力や喧嘩との違いは何だろうか。
暴力事件は各国が対応する権利と力を持っている。国家権力や法律という更に大きな力によって、事件を犯罪として裁くことができる。
ところが戦争だとそうはいかないようだ。国同士が武力を使い合っているわけだから、収拾がつかない。
定義から考えると、戦争とは、「宣戦布告が行われてから講和条約が結ばれるまでの、国家間の武力衝突」のことをさす。戦争中の国には戦時国際法という決まり事が適用される。
しかし、宣戦布告が行われないまま武力衝突が起きることや、国家であると認められない勢力が参加しているケース、一方的な虐殺なども多いので、この定義はあまり現実に即しているとはいえない。
虐殺を例にあげよう。現代の戦争では非戦闘員(民間人など)への攻撃が顕著に多いと言われている。これが一方的な蹂躙であることは明白である。
虐殺が増えたことの理由の一つに、航空機の発達によって遠隔地への攻撃が可能となったことが挙げられるだろう。つまり、空襲だ。
有名な空爆は、日本軍による「重慶爆撃」、ドイツ軍による「ロンドン爆撃」、イギリス軍による「ドレスデン爆撃」、アメリカ軍による「東京大空襲」それに「原爆投下」などである。
第二次世界大戦後の戦争でも、空爆はたくさん行われてきた。ベトナム戦争、湾岸戦争、シリア内戦、アフガニスタン紛争、ISIS(ダーイシュ)との戦いなどなど……。
さて、こんな風に虐殺などが横行して無法状態となっているのが戦争だが、ルールが何もないわけではない。
多くの場合は、「武力行使に正当性があるかどうか」が一つの判断基準になっているといえる。
一般的に、「他勢力による侵略に対する防衛戦争」であれば、武力行使の正当性が認められる。同盟国が攻撃を受けた場合に戦闘に参加することも、概ね認められる傾向にある。
戦争の定義が重要視されるのはこのためでもある。「その武力行使は正当なものか」ということが問われているのだ。
たとえ本音が自分の利益のためだとしても、建前として正当性を主張しない限りは、武力行使はほぼできないだろう。一見不当に見える攻撃でも、当事者には彼らなりの理屈があるものだ。
空爆で非戦闘員を殺傷し家々を破壊することの主な目的は、敵国の戦意を喪失させることだった。国民全員が戦争に協力する総力戦においては、相手の戦意を削ぐことが有効であり、これは戦争の早期終結のための効率的な手段なのだ……と、こういう理屈で、空爆を正当化していたのである。
また、二次大戦後でいうと、たとえばアメリカは、対テロ戦争だと称して、中東で武力を行使してきた。これは自国がテロにより脅やかされているということを理由にして正当性を確保しようとしていることになる。
冷戦期には、アメリカは共産圏との戦いだと称して、朝鮮やベトナムなど各地で熱戦を繰り広げた。これは世界に共産主義が広がることにより自陣営が危機に陥るということを理由にしている。
ところがベトナム戦争(1955〜1975年)では、アメリカ国内の世論が反戦を呼びかけ始めたことが、アメリカの撤退の一因になった。正当性の確保に失敗した事例といえるだろう。
国際世論や国際連合からの非難を浴び、軍が撤退した例も存在する。スエズ戦争(1956年)がそれだ。
エジプトがスエズ運河の国有化を発表したことに反発したイギリスとフランスが、イスラエルを味方につけてエジプトに進軍したのだが、これが国際社会から非難を受けたので、三者は撤退を余儀なくされた。
戦争に参加する国にとって、その正当性を主張することによって国内外の世論の支持を得ることは、重大な課題なのだ。
これは非常に重要な観点である。
逆に言うと、世論には戦争を阻止する力があるといえるからだ。
世論が攻撃を不当だと主張することには、攻撃を中止させる力すら秘めているのである。
つまり、一人一人が平和を祈念することは、決して無駄ではないのだ。
これが、私が平和への思いには意味があると思うことの根拠である。
……本来ならばどんな武力行使も正当ではないはずだ。人を殺傷することが正しいはずがない。どのような命も尊い……正当な殺人などない。そんな思いが真に世界中に届く日が来るのかどうかは甚だ疑問だが、平和について考え続けることには少なくとも意味があることだ。
もしかしたらその小さな思いが、一人の命を救ったり、世界をほんの少しだけ変えたりする力を、持っているかもしれないから。
戦争の正当化と平和への祈り 白里りこ @Tomaten
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