第112話 司書室の中③
「あの、一つお尋ねですが、ランチはまだ済んでいませんか」
そして、顔が赤くなるほどの恥ずかしい気持ちをどうにか誤魔化すように、話題を変えたルーナがいる。
「うん、まだ済んでないよ。というのも昼休みに入ってすぐ会いにきたから」
「そ、そうですか」
と、どこか嬉しそうに目を細め——誘ってくれる。
「ではこれから一緒に食べませんか。あなたの分もありますよ」
「そう誘ってくれるのは本当に嬉しいんだけど、ルーナの放課後の分を食べちゃうのはなぁ……」
夜遅くまで図書室で読書をするため、普段から二食持ち運んでいることを知っているベレトである。
そのうちの一食をもらうというのは、どうしても気が引ける。
「その点はお気になさらず。本日は一食多めに作ってきましたので」
「えっ? そうなの?」
「はい。変わらず質素な容器ではありますが」
コクンと頷いた後、背を向けたルーナは入れ物の中から編み込みの箱を一つ、二つ、三つと発言を証明するように取り出した。
「あなたがそのように言うのはわかってましたので」
「……な、なんかそこまでお見通しだと恥ずかしいなぁ。って、今朝図書室にきてほしいって言ってた理由ってもしかして」
「ご用意していたから、という理由もあります」
「それ言ってくれてよかったのにっ!」
最悪、ルーナが作ってくれた料理が無駄になっていたかもしれない。
そんな結末もあったからこそ、自然に気持ちがよりこもってしまうが、ルーナは至って冷静だった。
「
「……」
「ふふ、ではお一つどうぞ」
「あ、あはは。も、もうルーナには勝てないなぁ……本当」
箱を手渡され、ありがたく受け取るベレト。
「あなたとこのような関係になった今、当時のことをお話ししたくありまして」
「そう言えば、あの時もルーナからご飯をもらったよね。後々、ルーナの手作りだって聞いた時はビックリしたよ」
「とても嬉しかったですよ。美味しそうに食べていただいたこと」
「……なんだかしみじみするよ。当時は悪い噂が特に酷かったのに、今と変わらず優しくしてもらったり」
過去のことだが、あの時のことは鮮明に思い出すことができる。
ベレトにとってそれほどにありがたかったこと。
「いえ、それはこちらのセリフです。わたしはあなたがこの図書室で悪さをしにきたのではと疑いました。監視をするようにも言いました。それでも嫌な顔を一つせずに接していただけましたし、わたしのことを気遣ってくださいました」
「気遣うようなことまではしてなかったような」
「『当たり前のことをしている』となっているあなたなので、記憶にないのも当然かと」
「はは、実際そうだといいな」
食事をするために隣り合った席に座り、当時のことを思い返しながらやり取りを続ける。
「あと、これは今更なんだけど、ルーナって本当すごいことしてたよね。身分的にも怖い相手なはずなのに、図書室を守る行動を取って」
「無論、捨て身でしたよ。決めつけではありましたので、完全にわたしに非がありましたから」
「はは、やっぱりそうだったんだ」
身分が低いからこそ、身分差というのは一番に理解しているだろう。両親からも厳しい説明を受けているはず。
それでも立派に戦ったというのは、この場所を心から大切に思っているということ。
「ですが、あの時……勇気を出して本当によかったです。あれをキッカケにあなたと素敵な関係を築くことができ、エレナ嬢やシアさんとも仲よくなれましたから」
「そう言ってくれてありがとう。俺もそう思ってるよ」
隣から視線を感じ、目を合わせるベレト。
しかし、会話の内容が内容だっただけに、お互いがすぐに顔を逸らすことになる。
「……あ、あの、お食事をする前にもう一つだけ」
「お、なに?」
「本日の放課後のことですが、わたしは読書で忙しくなります。なので放課後は図書室に立ち寄ることなく、エレナ嬢やシアさんにお時間を使ってもらえませんか。……趣味を優先することをすみません」
ルーナらしすぎる、と感じる言い分。
少し仲良くなっただけでは、この意図を察することはできないだろう。
「ねえルーナ。ちなみに他に言いたいことがあったりする?」
「
「さあ、それはどうだろうね」
やはりだった。
最後の最後で言われてしまった。エレナと同じようなことを。今朝のシアと同じようなことを。
身分や立場を抜きにして全員が全員、トラブルが生まれないように考えてくれている。
本当にいい恋人を持てたと感じる一幕。
そして、恋人が作ってくれたサンドウィッチは今まで以上に美味しく感じたベレトだった。
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