第100話 Sideアリア、サーニャ
ベレトやエレナ、ルーナが噴水前で雑談を交わしていた
「アリアお嬢様が心変わりをしないのは、正直意外でしたよ」
「えっ?」
「基本的に無気力でだらしない方ですので」
「
「事実を申し上げているだけですが」
レイヴェルワーツ学園の制服に身を包む公爵家令嬢——プラチナブロンドの髪を束ねたアリアと、専属侍女のサーニャは、馬車に乗って学園に移動しながらこんなやり取りを行なっていた。
「ですので、当日は『やっぱり面倒くさーい』なんて言葉を予想していましたよ」
「やる時はやるんだから、わたしは」
「もちろんそれは存じてますが、髪留めを一人で選ぶほど乗り気なお嬢様を拝見したのは久しいことでしたので」
「そんなに言わなくてもいいのに……」
「ベッドの上で
「でしたらわたくしはもうイモムシで結構ですわ」
「開き直らないでもらえますか」
偽りの姿と丁寧な口調を作るアリアにジト目で言い返すサーニャ。
側から見ればギスギスした会話をしているように思うが、これが二人の関わり方。
実際、心を許した者同士——二人きりの時にしか見せない会話でもある。
「まあ、お話を戻しますが、個人的には大変嬉しく思っていますよ」
「うん?」
「ベレト様にご興味を抱いておられることです。そのお気持ちがなければ、心変わりをして『面倒くさくなった』と言われていたでしょうから」
「そ、それはちょっと語弊があるよ……? 興味があるっていうか、直接お礼をしないと公爵家の面目に関わることだったり、わたしの素がバレているわけだから、しっかり念を押さないとだもん」
小さな手を合わせながら、もじもじと。
なんともわかりやすい様子だが、サーニャは見たままを口にはしない。
「そうですか」
たったこの一言である。
「絶対に信じてない」
「信じるようならば、アリアお嬢様の専属侍女は失格でしょう」
「そ、それなら突っ込むことないのに……」
「今後の転機になるかと思いましたので。また、ベレト様と親密になられることは大賛成ですので」
一昨日の晩餐会で素を認めてくれた唯一の男性で、喉を効果的にケアする方法まで教えてくれて、悪化するようならば、どんな責任も負う覚悟だった男性。
そんな彼に興味を抱かない方がおかしい話。
そして、アリアにとって蒸し返されるのはなんとも恥ずかしい話なのだ。
「学園でベレト様とお顔を合わせるかと思いますが、ご対応はどうされるおつもりなのですか」
「サーニャはどっちの方がいいと思う……?」
「バレているのですから、ありのままのお姿でお話をする方がよいでしょう。もちろん、ベレト様と二人きりの状況を作ったあとに、という前提は入りますが」
「わ、わかった」
こく、と大きく頷くアリアは、ピンクの目を見開く。
「一応言っておきますが、ベレト様にお気を遣わせるのではなく、アリアお嬢様からお誘いしてくださいね」
「そう言われると緊張してくるよぉ……。ベレト様と主にお話をしたのは、暗闇の中だったから……」
「リードはしてくださると思いますよ。なんせエレナ様やルーナ様、シアさんの御三方が惚れてしまうほどのお方ですから」
「もう恋人になってたり……」
「そうだとは思います」
『その手のお話をする』と聞いているのだ。断る理由が見つからないほどの令嬢達である分、これは当然の感想である。
「個人的には、アリアお嬢様もベレト様とくっついてほしいものですが」
「っ!?」
「現環境がアリアお嬢様にとって悪いものであるのは明白ですし、ベレト様ならば安心してお嬢様をお任せできますから」
「あ、あはは……。いろいろ言うね?」
「当然ですよ。アリアお嬢様の人生はわたしの人生でもあるのですから」
「ありがとう、サーニャ」
「いえ」
重たい感情とも言えるが、照れの表情を見せるアリア。
「サーニャがそんなにもベレト様のことを気に入っているのは改めて驚いたよ」
「確かに珍しくはありますね。可能であれば、私もお会いしたいくらいですから」
「わたしがベレト様とお付き合いできたら……サーニャは幸せ? さっきの言葉は、わたしにも当てはまることだから」
「まずはベレト様に釣り合うだけの努力をしてほしいものです」
「もー!」
相変わらずの会話をする二人が乗る馬車は、どんどんと学園に近づいていく。
公爵の家紋が入った馬車を見る学生は目を見開き、そのざわめきはどんどんと大きなものになっていた。
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