第4話 〜ルイの場合〜

〜ルイの場合〜

 

 「この間ね、通ってるお教室で、そんな喋ったことのない人とバス停で偶然会ってさ。」

 彼女は飲んでいたカルーアミルクが甘すぎと、しかめっ面をしたので、ジンバックを注文してあげた。

 「で、その人が何?」

 「なんか疲れた顔してて。子供を図書館に連れていくところだったらしいんだけど。」

 ウェイターがカクテルを持ってきたので彼女の方にと促した。

 「それで疲れてますね、最近どうですか?って思わず聞いちゃったの」

 俺はタバコに火をつけた。

 彼女も紫煙の誘惑に勝てず、話しながらテーブルにおいた俺のタバコを一本取り出した。

 「あたしの全部吸っちゃった。一本ちょうだい。」

 彼女はニコッと俺に笑った。

 「しょうがねえな」

 俺は仕方なく内ポケットからライターを取り出した。

 シルバーのライターは、ピンという小気味いい音をたてた。

 「色々話していくうちに、とうとうと不満が出てきてさ。ほぼ旦那の不満だったわ。」

 ツマミの生ハムを1枚口に入れ、俺はワインを飲む。

 「なにそれ、めんどいやつ?」

 彼女はタバコを吸い終え、ジンバックを飲み干した。

 「面倒なやつ。けどそれがさ、適当に聞いてるふりしてたんだけど、最後の一言が衝撃的でさ。」

 「なに?」

 こうなの。

 「旦那が大変な男でさ、あまりに酷いことをするから耐えられなくて男性不審になりそうだって。もう女の人でもいいかなあって」と。

 「泣きそうになってるのよ。子供3人もいてよ。普通そこでなんで女の人でもってなるのかわかんないけどすごい爆弾ほりこんできたわよ。」

 それはルイが女にも男にもモテる顔してるから。

 とは言わないでおいた。

 興味はないのだが、主婦が百合に走りますみたいな企画物のAVとかあるんかな?と、くだらないことを想像してしまった。

 「そしたらさ」

 ここからが彼女の爆弾だった。

 「なんかあたし、その言葉が琴線に触れてさ。クラってなって。」

 「へ?」

 「いいの?みたいに思っちゃって」

 「え?」

 「え?」

 え?じゃねえ、乗っちゃうのかよ。

 俺はまた言いかけそうになった言葉を飲み込んだ。

 唐突だったので黙ってルイを見つめていると彼女の目線は俺から外れていった。

 そしてまた俺のタバコをかっさらう。

 「ふぅ。誘ってもいいのかなって思っちゃうじゃない。初めてだし。あたし未知の世界だし。」

 「不思議じゃねえだろ。ありがちだこの世は。」

 しばらく会話が途切れた。

 俺はワインを飲み干したので、ウェイターを呼びウイスキーを、彼女にはモスコミュールをと頼んだ。

 「いろんな色香があるからな。」

 「とりあえず、ストレス発散にと思って買い物に誘ったのよ。お昼も一緒に食べたり、彼女結構楽しめたみたいで表情もよくなってね。」

 俺はウェイターが持ってきたウイスキーのグラスを少し傾け中の液体をコロコロと揺らした。

 「モールの屋上に公園みたいなとこがあって、そこでしばらく話してたの。で、あの時の話をしてみたの。」

 俺が鼻息荒くなりそうだな。

 「私でもいい?」

 ルイは彼女に冗談めかして聞くと、彼女はうなずきそうですねと、か細く答えたらしい。

 それを聞いたルイはゆっくり優しく彼女の太ももに手を置いた。彼女は少し驚いた表情をしていたがあまり抵抗はなかった。

 「こんなことも?」

 とルイは彼女の耳元で囁く。既に彼女の頬には緊張と高揚で薄いピンクに色づいていた。

 ルイは彼女の開いていく中へ舌をトロリと流れ入れた。さっきお茶した時に飲んだ甘いカフエモカの味がした。

 「で、どうなった?」

 「ナイショ」

 ふふっと微笑みながら、琥珀色したカクテルを飲んだ。


 ルイには癒しを与えられるオーラがあるようだ。

 その彼女が限界なんだろうなと感じたルイは、抱きしめてあげたかったのかもしれない。どんな形でも、そう言うのを自然としてあげれるルイに、俺は特に手を貸してやらなくてもいいと思った。人間愛ってやつ、か?続きを個人的には聞きたかったが。

 「ありがとうっていわれた。抱きしめてキスして。あったかいって。」

 「ふーん、感謝されてんじゃん」

 俺はトロリとしたウイスキーを口に含んだ。

 「そうね」

 ルイはあったかい微笑みを浮かべていた。

 たまにその彼女に会うと、明るく元気にやっているらしい。ルイを見つけると、ハニカミながら声をかけてくれるみたいだ。

 

 

 完

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