第3話 〜ハツミの場合〜
〜ハツミの場合〜
いつものカフェ。
今日は涼しいので、外のテラス席は、とても心地良さそうだ。俺はいつもの席に着く。
もう夕方だ。
今日は午前中に仕事がたくさん詰まっていて多忙だった。
クライアントに会いにいったりと移動もあり、昼食もままならずに過ごした。
どうにか残業することもなく終わる目処がたち、いつものカフェへに来たのだ。
夕方は俺が好きな時間だ。
このカフェから見える夕焼けのオレンジ色に照らされた並木道、遠目に見えるビル群がノスタルジックな気分にさせてくれる。
そしてこのカフェは夕方からバルに変わり酒も出す。
いつもの、先ずは一杯はこのバルのクラフトビール。とても美味しいく、せわしない日々から俺を、解放してくれる魅惑のブラウンがかった金色の液体。
つまみも注文し、のんびりとまどろんでいた。
「こんばんは。こんな時間に珍しいですね。」
背後からそう声をかけてきた女性。
「ちょうど今来て飲み始めたところ。ハツミはバイト?まだ早くないか?」
彼女は俺の向かい合わせの席に座り、持っていたテイクアウトのカップに入ったバニラフラペチーノをテーブルにおいた。
「今日は道混むと思って早めに出たら意外に早くついたのでちょっと時間つぶしに。そしたらここに座ってるのが見えたので。」
彼女はニコッと微笑む。
「あ、そういえば先週こんな事があってあたしやばいかもなんです。」
「ヤバい?変なものでも食ったの?」
「まさか。実は店の常連さんがちょっと厄介でして。」
彼女は少し困った顔をしてた。
俺はワインを注文する。
「常連さん、あたしにちょっかい出してきて、それが…」
話はこうだった。
彼女の働く居酒屋によく来る常連さん。
歳の頃は30代後半、今奥さんと離婚調停なう
らしい。というか、ほぼ離婚が決定するらしく、
マンションも出なきゃならないらしい。
店のママとその常連との会話が耳に入る。
口出すようなことはしないが、かなりズボラで
いい加減な男みたいだ。
毎回店に来るたびに必ず彼女をからかってくるらしい。
まあそれも接客として笑って受け流すしかないし、
さして害はなかった。けれどある時、
飲みに誘われて仕方なくサシで飲みにいったらしい。
そして酔っ払って、原付では帰れないからしばらく
休んでいきなと家に招き入れられた。
「じゃあまさかやられちゃったわけ?」
ハツミは首を左右にブンブンと振り
「いや、それはなんとか免れました。あっちも酔ってたし」
ハツミはうつむいてため息をついた。
「たぶん、ママに知れたらあたしクビです。
私がもっとしっかりしてなきゃいけなかったのに。
ちゃんと筋通して客と店員の線越えちゃいけなかった。
ママに恩義あるから、ギリギリで止めれたけど、
やっぱり、流されてそんな状況にさせた私がいけなかったんです。へたこいちゃいました…」
店のママは彼女に本当によくしてくれたらしい。それを裏切る行為をしてしまったとハツミは後悔していた。
「その離婚男が悪いけど、ハツミちゃんもまずったね。クビ、時間の問題じゃね?」
俺はつまみの生ハムを摘んで食べ、ワインを一口飲んだ。
「あーーーん、そんな身もふたもない言い方…」
ハツミは頭を抱えテーブルに突っ伏した。
「人生勉強できました…」
「ま、客だから無下にはできなかったんだろ?
仕方ねえよ。けどママは商売に関しては厳しいから
そりゃクビにするしかないだろ。
けどしっかりとハツミちゃんの芯の気持ちを
話せばいいじゃん。
ママそう言うのわかってくれるから。」
勢いよく顔を上げ俺を見つめるハツミ。
「そうですよね…ちゃんと伝えます。頑張ります。
あ、そろそろあたし行きます。」
そう言うと立ち上がりカバンを肩にかけた。
ハツミのカバンからアルバイト情報雑誌が見えた。
恋愛といえない少し厄介な人間模様は、
ちょっときびしく、面倒くさく、甘くもない。
けどしっかりケリをつける。
それは彼女の人生勉強になるだろう。
俺はまたワインを頼んだ。今日のは少し甘いな。
ジャケットの内ポケットからスマホを取り出す。
メモ欄を開き、飲食店の名前がずらっと書かれている。
俺は甘いなと、呟いて電話をかけた。
「あ、店長?お久しぶりです。
以前にホールのバイト探してるって言ってたよね?
もう埋まった?まだ?
あ、じゃあ知ってる子いるから紹介してもいい?」
ほんと甘いな。
彼女の置いて行ったバニラフラペチーノを
一口飲んでみた。
「甘っ。」
完
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