第2話 〜キミコの場合〜


 今日は月曜日。

 

 朝のカフェテラスの前を会社に急ぐ人、学校へと焦りながら走る学生。

 

 人々が足繁く往来する。

 

 そんな忙しない光景を顧みながら俺は、

 

 いつものように新聞を広げ、コーヒーに

 

 タバコという次第だ。実に優雅なひととき。

 

 目の前には、少し派手目でスタイルの良い女性が同じくコーヒーを飲み、タバコをふかしていた。

 

 朝からまたごねてさ、早く行けっつーのあいつは。

 

 かんちゃんまた?

 

 そ、朝からアニメ見せろって。保育園遅刻するっつーの。

 

 大変だな毎朝。

 

 彼女が朝からバタバタする光景が目に浮かび、苦笑するしかなかった。

 

 シングルの彼女。仕事前にいつもコーヒーを飲みにここにくる。

 

 いわば1日の始まりの燃料とでもいうか、

 

 今日をまたスムーズに走るためのエンジンならしをいつもここでする。

 

 今回の男やばかったって。また負けたわ。


 この場合の負けたは別れたという意味だ。

 

 この間手上げてきたからさ、応戦したら勝っちゃってさ。

 

 勝ったのか。

 

 俺はまた苦笑いをした。

 

 彼女は強い。けれど、乙女なのも知っている。

 

 やっぱ年下はシングルの気持ちわからないのよね。

 

 俺が聞く限りではもう15人くらいは連敗している。

 

 これは彼女には言わないでおこう。

 

 キミコちゃんのパワーを上回る人はそうそういねえよ。

 

 彼女はいつも言われ続けていると言わんばかりのニヤリ顔で俺にいう。

 

 ほんとウケるわそれ。人生守ってほしい人探してんのにこっちは。

 

 ほんとウケる。とはまた本人に言ってはいけない。

 

 根性ないやつばっか。


 頬杖をつく彼女。


 そりゃ誰だって最初はビビるわな。

 

 時計をチラッとみた彼女はまだ余裕があるようで、

 

 椅子の背もたれにもたれかかった。

 

 あたしだってこんな生活ビビってるわよ毎日。

 

 けど、1人じゃないんだから。

 

 捨てるわけにもいかないしな。

 

 そうよぉー、もらったもんは粗末にはしないよ。

 

 けどかんちゃんにいつも当たり強いんじゃね。

 

 あいつチビのくせに負けてないからね。

 

 ふふっと笑うキミコ。

 

 俺もつられて柔らかい笑顔になる。

 

 朝の日差しがそんな頑張ってる彼女に差し込む。

 

 あ、もう行かなきゃ。強くて気合入った男どっかにいたら教えてね、じゃ。

 

 そう言って彼女は、チャイルドシートのついたママチャリに跨り元気に走り去った。

 

 俺はしばらくその姿を頼もしく見つめた。

 

 ジャケットの内ポケットからスマホを取り出す。

 

 メモ欄を開き、沢山の名前が書いてあった。

 

 しょうがないな。

 

 キミコみたいな、良い子大事にできるやつ探してやるか。

 

 そんなことを呟いてまた俺はタバコをふかす。

 

 完

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