可能性、あの大空に【試作】

デルタイオン

 

人の気配を感じる。


私はやっと感じた。


全てを終わらせる事はできないから、君だけは答えを教えよう。


いや、君だけに···





【オルシュム 最前線 17:37】






「······い············きる···············し········起きろ!」


「ハァーー!?」


息をおもいっきり吸い、漂う体を感じた。


雨の音が区切られながらも耳に聴こえる。


「これで最後ですからね!?」


「グァ!!」


突然刺された注射器の痛みと共に記憶が甦る。


突如出現した敵機からのタックルでAIがほぼ反応出来ず、ビルの壁へと機体が衝突して気絶した所まで。


そこまで思い出せると連鎖反応が起きて記憶を全て取り戻した。


「ハァ···ハァ···状況は······?」


「ハッ!現在の状況は······見ての通りとしか···」


「見ての通り···か···」


壁を使ってなんとか立ち上がり、周囲を見る。


景色だ。


そう、戦場の景色。


私の機体はビルに半身を埋められ、僚機は手足が垂れてオイルを滴らせ、コックピットはプラズマで焼かれており。今は雨に濡れながら水蒸気か何かをこの黒い空へと昇らせている。


道路は元から戦車の爆発や自爆でクレーターが出来ているが、それに抉れたように左右へと坂を作るほどにデカイ何かの通り道があった。


向かう先には高層マンションの瓦礫。


あそこにはHQがあった。


地下数階の所にあるHQ。


多分。投降しているのだろう。


捕虜の扱いは知っている。

アイツ等の扱いは···


「助けてください。」


突然、泣きそうな声で兵士が私に助けを求めた。


「······何故だ?」


「なにも思わないんですか?」


「·········」


「あなたそれでもパイロットですか!?」


それに私は反応して兵士を睨む。


「チガウ!!俺は、そんな奴じゃない。パイロットでも、兵士でも······」


「······じゃあ、なんなんですか?」


「·········」


「なんなんですか!!あなたは!そんなに命が惜しいのですか!?なんであなたが生き残ったんですか······あの人なら···私達を助けてくれたのに······」


その言葉に私はやっと理解した。


死んだのだ。あの機体の中で。


「もう、いいです。私だけでも任務を遂行してみせます。」


「そう報告すれば良いのか?」


兵士がヘルメットを外した。


白っぽいロングヘアーに青色の目が記憶に刻まれた。


「ええ、そうです。伝えておいてください。私は、これでも帝国の兵士なので···」


その目には諦めが無かった。


覚悟と、強い意志。


それが見えたような気がした。


「···エネルギーカートリッジは?」


「え?」


「エネルギーカートリッジ!!それの残量だ。」


頭を掻きむしり、ポケットのマガジンを引き抜く。


「えっと、残り2個で。本体に差しているのが残量28%です。」


「なら、もう全部持って行け。」


私は3つのカートリッジを差し出した。


帝国陸軍のカートリッジはほぼ同じ形状で、形状が違っていても移し替える事ができる。


私のは1つだけハンドガン用のだが。他のは大容量エネルギーカートリッジ【アクセルスーツ専用】だからアサルトライフルには確か規格が合うはずだ。


「···他人に戦わせて逃げるんですか。」


「嫌味を言ってる間に仲間は死ぬ。経験者からの忠告だ。」


「······ッ!」


目尻に涙を溜めながら彼女は走った。


その背中を見送った私は空を見上げた。


「······何がヴァルキリーだ。クソ野郎め·········」





【HQ バウンドホテル 地下4階】






銃撃とオゾン発生装置が唸るエンジンの音が反響する。


地下とゆう事もあり、巨大な兵器筆頭である【プロメテウス】や【ベルフォロード】などといった人型兵器は無く。地上では白兵戦や工作任務が主な人が顔を見合せながら存分に闘えるのだ。


しかし、それは時と場合によっては恐怖よりも酷い空間にもなる。


戦意も無く。ただ隣で肩を合わせた人が死に。少しずつ袋小路へと押し込まれてゆく戦場など、恐怖以外にどんな言葉を使ったとしても。その言葉が意味するのは現実で会ってはならない運命だ。


圧倒的物量。ワンマンアーミーの質。


それがだんだんと殺されていくネズミによって証明されていく。


段々と減る懐にあるマガジン。

白兵戦に持ち込まれて死ぬ兵士。

ブービートラップに引っ掛かり死んだ兵士。


そんな地獄が、とてつもなく小さな空間で行われていた。






【第638号線 地上】






「もう楽にしてくれよ。お前、死んだなら俺はどうすれば良い?」


消えた英雄の墓場に銃を置いた。


イニシャルさえ刻まれてないハンドガンだ。


「もうこれ以上付き合う必要はねぇだろ?姉さん。」


残った足の親指だけを手に持ち、なんとか見付けた手の小指を墓に埋めた。


この親指でもう一つ墓場を作る予定だ。


「姉さん···俺より先に死ぬって約束してくれたじゃ無いですか······」


苦笑いに涙は無い。


ただ一発の実弾から抜き取った薬を手に取った。


姉に内緒で買った自殺薬だ。


効果は抜群で、ゆっくりと痛みや吐き気。過呼吸で脳の隅っこから足の爪先まで毒が回る物だった。


酒と飲むと決めたので酒を飲み始めた。


「······なんだよ。ラムネかよ」


しかし飲む。


ただ飲み、薬を持ったその時。


手が止まった。


「·········」


そして、とある機体を見た。


帝国の主力量産機【ベルフォロード】


その被弾面積と軽装甲による機動力。そしてコストダウンによる主力の座に長年居座っている量産機。


26年前から変わり変わらず。どんな戦場にも敵味方関係無く倒れ伏している機体だ。


最近では更なるコストダウン実現の為にジャンクの装甲をリサイクルしてる環境に優しい機体だとも言い始めた。


現場兵士からしたら堪ったもんじゃないが。


その機体の瞳には光は無い。


今の私のように。


気持ちが変わり、その機体の座席に座る。


いつも通りの固いシートで安心した。


ふと、全てのボタンが待機状態になっている事に気がついた。


つまりまだ生きているかもしれないのだ。


ちょっとした運試しに生きている事に賭けて起動シーケンスを開始した。


エンジン起動。油圧チェック。メインバッテリー解放。パスワード【ヒトミシリ】。ムラサメの死亡を確認。サブAI構築完了。相互思考開始。全シーケンスの終了を確認。


「·········」


そこまでして彼は手を止めてエンジンの熱を抑えた。


同時に回転数も低下して限界電力になり、LEDライトが点いた。


「全シーケンスが終了して···その後どうする······?」


その驚愕な思考に私は戸惑った。


そして、どうする?


「······そして。そして···」


[やってみると良い]


[いつも同じ結果には飽きるだろ!?]


[思ったなら行動しな。心に従わないと先に壊れるぞ]


[お前は私のだ。そして、私は私のだろう?]


突然記憶がフラッシュバックする。


空を飛んでいた気分だ。


「···喰われたんだ。」


エンジンの回転数が急激に増加する。


「闇に、彼女に。」


機体に瞳に光が灯る。


コックピットの武装コマンドに付箋紙があった。


【ユー・ハブ・コントロール】


「······アイ・ハブ」


機体が起き上がり、瞳に付いていた欠片が落ちた。


「コントロール」


そして、水蒸気が顔を包み込んだ。


その瞳は紅く輝いていた。

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