ヒトノイド・参ノ噺【ちょっきん!】

窓の外硝子に雨粒当たるマンションの一室。

よく聞けば深夜と変わらずPCキーを叩く音が扉の奥から漏れて届く。

「ちょっと。跳鯊。どうしようって言うのよ。父親の癖になんで鬼燈ちゃんが

先頭なのよ」

「しょうが無いだろ。僕に出来る事なんてないんだし。

鬼燈は手出し無用と睨むんだぞ?」

「良いから。これ持って。ほら。行きなさいよ。漢でしょ?」

「持つ言ったって。竹箒だろ?マンションの床を掃除するもんじゃないだろ?

あと胸押し付けないでくれ」

「安かったの。TVショッピング見てたら。つい買っちゃたの。

あと嬉しいでしょ?胸当たるの」

大の大人立ちの奇妙なやり取りを黙って聞いてた鬼燈はやれやれとばかりに

首を振る。

幼女の癖に戦さ場兵の様に息を整え鋭く吐き出す。


「頼申~~~~~~~~~~~~~~~」


「道場破りかよっ」

意気揚々と声を張った鬼燈の声に姉弟が声を合せて突っ込みを入れる。

戦々恐々とした雰囲気が一気に壊れる。

「貴方?どういう教育してんの?面妖のいる部屋に頼申って何よ?

肝っ玉太すぎるわよ」

「僕もそう思う。出会って数日だけど。鬼燈のセンスは可怪しい。

むしろ最初から可怪しい」

災難で或るはずの状況となれば人はよく喋る。

怖さを言葉で誤魔化そうとするのは人の常。

大人達が怯え震え軽口を叩くのを背に感じながらも鬼燈は扉を

押し開け中へと足を踏み入れる。

小さい体の後ろにはへっぴり腰で取り合えす竹箒を握る跳鯊。

更に後ろにはなぜが鉄製のお玉を握る姉かほゑりが続く。


「武志さん?判る?アタシよ。妻のかほゑりです」

最初に言葉をかけたのは夫と縁と契りを持つ人妻かほゑりである。

残念な事にひたすらPCの前でキーを叩く夫は無反応である。

「すっ。好きでしょ?私の体。胸もお尻も嬲るの好きでしょ?」

おどおどとそれでも声を張って呼びかける。

「嬲るとか言うなよ。子供の前で言うことじゃないだろ?」

あまり威厳のない保護者でも言うべきことはちゃんと言う。

「だった。久しいのよ。久しくしてないのよ。欲求不満にも成るわよ」

子供の様にかほゑりは駄々を捏ねる。

それでもかほゑりの夫は答えない。

PC画面が見やすいようにと暗く落とした部屋で指先だけを動かし

カタカタとキーを叩く。


どうすればそれを辞めるだろうか?

結婚し互いに愛し合ったはずの妻の呼びかけにも答えずひたすらPC画面に向かう。

対峙するべき相手が後ろに居ても男にとっては空気と同じなのだろうか?

「果?どうしたものか?どうやったらアレを止められるんだ?」

「無理よ?色々試したけどさ。叩いても殴っても駄目。

唯一辞めるのは視界を遮った時だけよ?」

「そレは僕も試したよ。でも止とまるだけだろ?止やめるじゃない。

止まるだけだ。あっ・・・」

夫と同じ様に機械音痴の姉とも違い愚弟跳鯊は少しは出来る。

少なくても仕組みは判る。

何かをじっと待つように部屋の真ん中で仁王立ちになる鬼燈の後ろで跳鯊は

がさごそ戸当りを見渡す。

渦も高くも積まれた専門書。散らばったペットボトルと宅配料理の空き箱。

それらを手で退け足でけとばす。

「あった。これ。これだ。これなら止めるだろう」

ゴミの山の隙間から見つけたのは一本の線である。少し特殊な太いケーブル。

掴んだケーブルの先を追いかけ手繰るとコンセントにたどり着く。

「よっこいしょっと」それは初めの勝利であり。

二番目に効果のあった策略であった。

黒い材質で光沢の或る一本のコード。それはPCと雷電網を繋ぐ回線コードである。

世には無線接続で雷電網とやり取りするPCも多いがそれでは本来の性能は

出し切れない。

物理的な有線接続に対し電波を介する接続方法は品質に劣化が生じる。

需要な通信や早い処理速度の通信を求めるなら有線接続が常識となる。


男の手が止まる。

見つめる男の眼の中に【通信エラー・雷電網との接続が切れました

確認して下さい】と文字が浮かぶ。

眼の前の画面が見えなくなった事も過去に何度もある。

何か硬い物で殴られた事も。

それでも時間が立てば画面は戻るから作業を再開出来ていた。

しかし通信エラーの文字が示すのは拒絶だ。

物理的に回線がきれたなら出来ることはない。


「何故だぁ~~~。何故こうなるんだぁ~~~。どおぉすればぁ~~~

良いんだぁ~~~」

男が上げたのは苦痛に満ちた悲鳴と困惑だった。

「何故止まるんだぁ~~~。止まっちゃ駄目なのにぃぃ~~~。

止まっちゃ駄目なのにぃぃ~~~」

人の喉がこんなにも嗄れ掠れたしゃがれかすれた声音を出せるのかと思うほどに

不快な音を出して唸る。

「僕です。貴方の妻の弟。跳鯊です。取り合えず話を聞かせて下さい」

声を張り上げ意図を伝える。

「御前ぇかぁ~~~。止めた?何故止めたぁ~~~」

姉の夫は・・・果たしてそれを夫と呼べるかどうかも疑問ではあるが。

椅子に越し抱えたまま。半身を無理に捻り跳鯊達の方を睨む。

「ちょっと。アレ。どうしちゃったのよ?そもそも人種ってあんな事できるの?」

「知らない。僕は学者じゃやないって。」

前に居る鬼燈の体を抑え後ろに下がりかほゑりの体も庇う。


異様にも体を撚る夫。

下半身は向こうを向いた椅子にきちんと座り腰辺りからグイと体を捻り

こちらを睨む。

「面妖者か・・・。」

この時初めて口から漏れた言葉が目の前の化物と類する物に名に

ふさわしいだろう。

ガチャンと音が響いて椅子が壊れる。

奇っ怪に曲げた長く伸び曲がる手が肘掛けを強く押し壊したのだ。

「御前かぁ~~~。優漢の癖にぃ~~~。邪魔するのかぁ~~~。」

聞きづらい言葉を吐き捨てる度に元人種の面妖者の形姿が变化へんげする。

細く長く伸びた腕を床に置けば指が骨張り鉤爪も生える。

まるで紐の様に胴が細く成れば顔がボンと膨らみ顎が外れ奥から赤いく

太い舌がダラリと垂れて涎が滴る。

それでも未だ。ねじった先の腰は反対側で床に尻もちをついたままである。


「貴方。私。かほゑりよ。貴方・貴方・貴方・貴方・・・」

呪詛の様に言葉を繰り返し背で庇う跳鯊の隙をついて面妖人と化した夫に

駆け寄ろうするかほゑり

「うわっ。すごい力だ。どうなってるんだ?」

ギリギリの所で掴んだかほゑり腰を掴むが

それも又、人外の力を四肢に込め踏ん張る跳鯊の体を引きずる。

「貴方。私の愛しい貴方・・・ああ・・・。側に行くわ。側に」

「なんてこった。可笑しく成ってたのはアレだけじゃないのか?

姉さんも魅入りられてたと言うのか?」

ジリジリと床に接する足が引きずられる。

少しづつ確実に面妖人とかほゑりの距離が詰まる。


「おお。我妻。かほゑり。なんと懐かしい。そして狂おしぃ~~~。

こっちへ来いぃ~~~。御前の〇〇〇〇に俺の〇〇を〇〇〇〇〇〇〇〇で

〇〇〇〇〇〇す。

其の次は・・・〇〇〇〇。〇〇〇〇〇〇〇〇〇を〇〇〇〇。

最後に〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇」

「ああ。素敵。貴方に〇〇〇〇〇〇〇〇されるなんて・・・」

「姉さん。ちょっと待って。冷静に。伏せ字多くてわけわからないし子供も

居るから」

もはや必死の形相で寧ろ情けなくかほゑりの腰にしがみつく

跳鯊のポケットの中でピリピリと音がなる。

「何なんだ?なにがどう知ったって言うんだ?


【警告・・・この世界に置いて特定の状況下で行われる行為と発言等に

置いて筆者が抱える諸事情に照らし合わせ諸問題となり得ると判断された場合。

いかなる言葉であっても正確に発生する事は出来ません。

又。どのような立場の者であっても必要によってペナルティが与えられます。

以上・六境世界管理委員会・第参鏡支部・自動音声読み上げ機能

配達担当モンチャミ・ピピン・シグ】


「何だ?こんな時に何だって言うんだ。兎か?あの兎か?ペナルティって何だよ」

顔を真っ赤にして引きずるかほゑりの腰にしがみ付きながら耐えつつもボヤく。

「プギャ」

「きゃ。痛い」

ゴツンゴツンと二度鈍い音が響く。

「うぐぐくぅ~~~」

「この歳になって拳骨貰うなんて・・・」

どうやらさっきの警告は本物だったらしい。深く考えるのは後だ。

それでも特定の言葉を無理に発声しようとしても正確には表現されないらしい。

しかも眼に見えない罰則も或るのも事実だ。

それが拳骨と言うのが何処か子供じみているが。

「痛いぃ~~~。痛いぞぉ~~~」思わぬ邪魔に頭を抱える面妖者。

其の隙にやはり頭を抱え正気に戻るかほゑりの腰を持ち上げ投げると

遠くへと飛ばす。


「御前だけはぁ~~~。許さなぁ~~~イイ~~~」姉を投げたばかりで床に

転がる跳鯊の脛を面妖者が掴む。

「待て待て待て。ちょっと待て」ギリギリと強く握られた向こう脛に激痛が

疾走る。

「嫌だぁ~~~。喰らってやるぅ~~~」

反対側の長い手が持ち上がると肩を掴んで一気に引き寄せる。

「だから待って。顔は駄目。顔は・・・商売道具だから・・・

色々事情もあるから・・・」

鉤爪のが付いた手で肩をグイと掴まれ引き寄せされた其の先で面妖人は口を

大きく開け放つ。

眼前に迫る面妖人顔が歪む。もはや人の顔形はどこえやら。

大きく丸く広がりぽっかり開いた穴口には禄に手入れもられされてない汚れた

乱ぐい歯がずらりと並ぶ。

絶対絶命とはこの事だろう。後。数秒で跳鯊の顔と頭は乱ぐい歯に砕かれる。


「待ってるんだけど?ずっと待ってるですのなの」

涼やかで愛くるしい声が必死で耐える跳鯊の後ろで聞き慣れた声が上がる。

「私奴がいくら愛くるしいて可愛い幼女だからって。

ずっと無視は良くないと思うの」

「子供ぉ~~~?お嬢ちゃん~~~?」

面妖と化けても意識も或るし連なる意識もある。

自分に子供はいなかった。

妻かほゑりとの間にもそれ以外でもを授かった事はないと思える。

「鬼燈。駄目だ・・・下がりなさい。危ないから」

この後におよんでも尚、子の身を案じるのは親の心であろう。

「あのね・・・。鬼燈はちっちゃいの。まだちっちゃいの。可愛いけどね。

だから。待ってたの。父者様がこうやって膝を付くのを・・・」


「えっ?待ってた。待ってたの?」鬼燈の言葉に耳を疑い振り向く。

その視界には凛と煌く我が子の立ち姿がある。

忘れかけていたが朝の起き抜けとなれば黄色時に白い花柄模様のパジャマ。

背中に背負うのは兎柄のピンクのリュックサック。

これが一番のお気に入りと鬼燈は言う

小さな左手には朱桃色の毛糸玉。そして右手にギラリと光るは鋼色の子供用の

安全はさみ。


「お嬢ちゃん~~~。粗相はだめだぁぞぉぉ~~~」嗄れる声で諌めるが

もとより言うことを聞くはずもない。

滑稽にも前座を務めたのはかほゑりと跳鯊であり鬼燈は真打ちである。

されど子供の小さい体では無理もある。

がっしりと掴まれる肩の面妖人の手を握りしめ。

又片方で反対の手を抑え込む跳鯊。

力の差はあれど拮抗せずとも容易くはない首相撲の面妖人と逆らう跳鯊。

「よいしょ。うんしょ」っと動けない跳鯊の腰に足を駆け背中のシャツをグイと

掴み梯子代わりの跳鯊の背中を鬼燈が昇る。

「あの・・・鬼燈ちゃん?手伝ってあげようか?お姉さんが?

はさみ持ってままとかじゃあぶないわよ?」

すぐ側までやってきたかほゑりが提案する。

あまりに可愛げであるが速さはないだろう?

況してや弟の顔が喰われるとなるとなおさらだ。

「手出し無用なのっ」きりりと眉毛をあ上げ鬼燈は真面目に宣言する。


「うんしょ。うんしょ。どっこいしょ・・・なの」

癖のある跳鯊の髪のけを掴み足を肩に乗せる。

グイと肩に圧迫が疾走る。それは小さく軽いはずの鬼燈の体が与える衝撃にしては

遥かに強い。


鬼燈が跳ねる。

ヒトノイドとしての跳躍は人の想像と面妖人の甘さを遥かに凌ぐ。

疾風の如くと言うものではない。まるで春の桜花が舞うように

秋に落ち葉が漂うに眼にする者の瞳にその姿を刻みながら。

ゆっくりと。初めに鋏が刃を閉じたのは面妖人の右手の上辺り。

「ぱっちん」声が響かせ跳鯊の肩に足を掛けると身を返して宙に舞う。

「チョッキン」無邪気な声が聞こえると面妖人の左手が力を失い力なく垂れる。

参度目に跳鯊の肩に足を揃えて着地するとそのまま高く跳ねて跳ぶ。

これもまた天井ギリギリの高さで身を返し堕ちる勢いそのままで面妖人の頭の上に視える糸を断ち切る。

「チョッキンなっと」最後の一本を切ると足を揃えて床に見事に着地を決める。


「主人は違えど、所詮は人形に違いないのですの。

操り繋ぐ糸を断ち切れば後は動かぬだたの抜け殻ですの。褒めて。

褒めて良いですの」

自分でも綺麗にかっこよく着地出来たのが嬉しいのだろう。

既に事切れ動かぬ面妖人に最後まで手にした毛玉を投げつける。

「すっごい。偉いわ。鬼燈ちゃん。さすが鬼燈ちゃん。ナデナデしてあげる」

「終わったのか?終わったと言うのか?それにしても肝が冷えたぞ。

それでどうなるんだ?これで良いのか?本当に?」

面妖人の束縛からやっと逃れ腰を抜かし床に転がる跳鯊。

其の顔には達成感と言うよりもヒトノイドの娘に助けられたと言う思いが

苦く残る。


「お姉さん達。ちょっと大事な話があるからTVでも見ててくれる?鬼燈ちゃん。

後・・・。あれ。亀甲縛りよね?何処で覚えたのかしら?」

言葉の後半は小声になる。

「父者様のね。安アパートの押入れにね。本が入ってるの。鬼燈。勉強したの」

「あらま~~~おしゃさまさんなのね。程々にするのよ」

女同士で耳打ち合い小声で笑う。


「亀甲縛りで或るが。それだけではない所が粋ある」

床に転がる面妖人。かほゑりの夫の姿を見下ろし何処か自慢気に跳鯊が告げる。

「アンタがやったわけじないでしょ?それでも色々やってくれたのは確かだし。

礼は言うわ。有難うね。跳鯊。後は片付けね。どうしようかしら?」

「すまない。長いあいだ迷惑を駆けてしまった・・・本当に」

事の最後に鬼燈の投げた毛玉は跳ねて転がり面妖人から人に戻った夫の体を

縛り据えた。

華江戸の罪人捕縛術として開いた一種の縄術は今の世でも通じる物がある。

鬼燈が何処で覚えたのかいかなる技なの知れぬがその手の才能も或るのだろう

上半身を固定する亀甲の他に足括りも後手括りもなされて入れると

成れば自分の意思では動けない。

「正か私自身も魅入られていたとは思わなかったわ」

ためた息を肺から大きく吐き出しかほゑりはうなだれる。

「しょうが無いさ。あの状況となれば無理もない。

縁を結び愛を刻めば誰もそうなるよ。姉さん」

「愛情ねぇ~~~?ないわ。もうこれっぽっちも愛なんかないわ。

どうしようかしら。コレ」

事実上の別れを告げれ言葉を黙する夫。弁解の余地など或るはずもない。

「正気を取り戻したと言うのか心を取り戻したとでも言うのか?

それでも色々疑問は残るな。」

「どうせ。録に何も覚えってないって言うのが落ちでしょ?

そんなことよりどうするかよ」

「おっしゃるとおり意識と記憶があっても曖昧で・・・

何の意味が或るのかと言われても・・・」

「要するにやっぱり進展はなしってことなのか?鬼燈なら何か判るかも

知れないけど。悪い方向へ転がるのも不味いしなぁ~~~~。」

床に転がる姉の夫を見下し跳鯊は愚痴る。

「そう言えばどうしてたのかしらね。生活用品とかPCとか?

もとより苦手なはずだし宅配にしても私は注文したことないし」

「それは勉強した。色々買い物は携帯のサイトでやり取りしてた。悪童会って奴だ」

亀甲縛りのままで床に転がっている癖にやたら横柄な態度にかほゑりは苛立つ。

「携帯のサイト。悪童会・・・。あの銀座路面電車事件の悪童会?

あんなのと繋がりが或ると言うの?」

「うむ。底の金庫に金がある。投資の方法も勉強したんだ。

金があれば奴らは何でもやってくれる」

この状況に置いても妻かほゑりに対して威厳のある態度と卑ひいる態度を

魅せるのは帝国男児の悪き習慣だろう。

軽蔑と下卑に塗れた表情を顔に貼り付け辺りのゴミを漁り型落ちの携帯を拾い

上げパタンと開いて画面を覗く。

後は私がやるわ。跳鯊。貴方も仕事或るんでしょ。

鬼燈ちゃんの面倒も見ておくから行ってきたら?」

既に興味がなくなったかと言うように夫の顔を一瞥もせずにスタスタと

リビングへと歩いて行く。

「跳鯊君。色々迷惑を駆けたとは思うのだが。私はどうなるんだろうか?」

不安に苛まれ体をよじる。

「確かに夫婦であった時期はそれなりに長いんだとは思う。

でも諦めたほうが漢らしいんじゃないか?

記憶も意思もあるんだろう?自分のして来たことくらい判るだろ?

それに姉さんは根に持つタイプだ。それも長く。しかも絶対忘れない。

つまりは・・・判るだろ?」

弟して長い時間を隣で過ごしてきた跳鯊だからこそ言える言葉でもあろう。

同時に宣告を告げた言葉でもあった。


「毎度。荷物の受け取りと掃除に来ましたぁ~~~。悪童会の者っす。」

元気でも或るが放蕩者のチンピラのような声が開けた玄関の向こうから聞こえる。

「あっ。大丈夫す。後はこっちでちゃんとやるんでお任せを。

奥さんは奥で休んでいて構いません」

引っ越し業者を装い作業着に見を包んだチンピラ男は

作業帽のツバ掴んで顔を伏せる。

後ろに立つもうひとりの女性も帽子を目深に被り顔を上げない。

直接、顔を見るのも観られるのも嫌う犯罪者の仕来りだろう。

「それじゃ~~~。お願いしますね。部屋はそこです」

なんとなく気配を読んですぐに背を向けると奥へとかほゑりも消える。


「わぉ~~~。色々とやってますね。

とりあえず、汚いおっさんから片付けますか?二貝崎先輩」

「こら。名前を呼ぶな。素人さんがいるんだぞ。御前はいつも軽率すぎるんだよ。

唐変木め」

「良いじゃないですか?どうせ偽名でしょ?それより終わったら

男妾BARでも行きませんか?好きでしょ?」

「煩い。このお馬鹿。さっさとおっさん。袋に詰めてしまいな。時間ないんだよ」

「ウィッス。どれどれ。うわっ。汚ねぇ。尻肉だ。面倒くさいし」

二貝崎と呼ぶ先輩女性に促されチンピラはかほゑりのズボンを下ろし尻に

一本の注射を打ち込む」

数秒もぜずに夫の体から力が抜けて深い眠りに堕ちる。

「さて。始めるよ」様子を観て取った二貝崎は声を上げる。


悪童会。

倭ノ帝国に置いても特に注目を引く犯罪集団。

あまりに有名な銀座路面電車事件は記憶にも新しい。

かほゑりを初め善良な市民が簡単には接触出来るわけもないが。

いざ、携帯のやり取りを始めるとそれは以外なほど簡単である。

事を収めた鬼燈が所望するバケツ大のプリンのカラメルを煮詰める間に

それはおわってしまう。

悪童会と浮き上がった携帯の宛先に要望を書き込む。

依頼内容も難しくもない。

かほゑりに取っては元夫となった男の処理。

流石に殺すとは行かないから社会的抹殺。

二度と帝國国内で生活できない様にする事。

それと今後出来るだけ長く働きかかほゑりが十分な生活が出来るように

生活費を送る事。

後は部屋に散らばる変な荷物の処理。其の全てを完全に破棄する事。

主に其れだけだった。


要望を送信し弐分も待たずに返事が飛んでくる。

依頼内容を了解した。今回の見積もり金額。支払いは現金のみ。

作業場所に封筒に入れて置いてくれと。

奥様の慰謝料は今後五十年分をと計算してと新規客祝を足して一括で

こちらで支払うと。

その代金を元夫の成り付けて悪童会への借金として支払わせると。提案もして来る。

金額が幾らになるかに興味など無く。

あいつと後腐れがないと成れば喜んでかほゑりも頷いた。


話が纏まるその後1時間もしない内に業者を装う二人組がマンションに姿を表し手際良く作業が進む。

それでも多少は手間取ったか?荷物が多かったのか。

「毎度っす。奥様。おわったんでぇ~~~。又ご贔屓に。あざっすぅ」

軽い声が聞こ終え全てが終わったのは跳鯊が帰ってると知らせた時間の30分ほど

前だった。


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