16話 食べ放題②
ユリはアラカルトのコーナーへ進む。
「ユリー!こっちだー!一緒に食べないかー?」
手を振って呼んでくれたのは勇者一行の剣士マイであった。アルマとボドーも一緒である。そのテーブルにはお肉料理、魚料理、サラダ等多彩な料理が乗っている。二人と一匹で適当に盛った料理を仲良く突っついていたようだ。
元気そうなマイとボドーの様子に安堵する。石化していたが特に後遺症はなさそうだ。
「青龍さんには能力交換の魔石は返せたんですか?」
「いや無理だった!青龍は白龍に改名した!」
マイが悪びれもせず堂々と言い放つ。結局アルマは能力交換の魔石を吐き出せず消化してしまったらしい。それに伴い、青龍は白龍として生きることを決意したようだ。
「そ、そうでしたか…。今度青龍さ…白龍さんにお礼言わなきゃですね。あの魔石のおかげでシロナさんもグレイさんもアルマさんも助かったんですからね。」
「にゃあ!」
魔石を亡き者にした不器用な猫アルマがぜひそうしてあげてと鳴く。
「それにしてもアルマったら普段不器用なくせに死んだふりするなんて驚かせてくれるよな。まぁ少し考えてみればわかることだ!最強であるお前が死ぬはずがないもんな!」
マイが高笑いする。それをボドーは優しい眼差しで見つめていた。
「マイ、疲れただろう?もういいんじゃないか?」
「何言ってるんだ、ボドー君。私は別に疲れてないさ。」
「マイ、ありがとな?お前も辛かっただろうに前を向き続けるのは大変だったよな?」
「……。」
マイの瞳よりぽろぽろと涙が溢れていく。
「全然大変じゃないさっ…だって私よりもエデンの方がずっと苦しんでたっ…良かったっ…アルマっ…アルマ生きてたっ!」
マイは堰を切ったように大声で泣いた。まるで半年分貯め込んでいたものが溢れてしまったようだった。
ボドーとアルマもそれにつられ泣く。二人と一匹は互いの存在を確認するように抱きしめ合い泣き続けた。
ユリはそっと別れ、城の中庭へ向かった。
城の中庭、バーベキューコーナーでは100匹のモンスターペンギンがステーキを食べまくっていた。
--んまぁぁぁぁ!
--よくわからんが人間ってすげーー!
モンスターペンギン達は肉をご馳走してくれる人間にすっかり懐いている。
ペンギン達が食欲旺盛であるため料理現場は戦争状態となっている。そこには油塗れになりながらステーキを焼く王女シロナの姿があった。
「シロナ様!新しい肉が届きました!」
「今は手が離せないわ!誰か捌きなさい!」
シロナは上品なドレスに油が飛び散るのを省みる様子はない。料理人全員が必死に手を動かしている。
「手伝いますよ。」
「ユリ!?でも、お客様にそんなことさせられないわ…!」
「そう言わず。私、捌くのは得意なんです。」
ユリはナイフで牛肉をズバズバと器用に捌いていく。
「ありがとう、ユリ!」
「こちらこそです。この度はパーティに呼んでくれてありがとうございます。皆で食べ放題に行ってみたかったのでとても嬉しいです。」
「ふふ、皆にお礼したくて腕によりをかけて作ったの。どうだったかしら?」
「え、会場の料理ってシロナさんが作ってたんですか!?どれも美味しかったです!」
「お口に合ったようで良かったわ!たくさん食べてよね!」
シロナは気さくに笑った後、空を見上げる。夕時から始まった立食パーティであったがすっかり日が暮れ夜になっていた。夜空には無数の星が散らばっている。
「…あいつらは来なかったか…。」
シロナはどこか憂いを帯びた表情で呟いた。それを聞き思い浮かんだのはロアの部下の魔物達のことだった。石化を解除した後、やることがあるとそれぞれ散らばるように去っていった。彼らがどこにいるのか、今何をしているのか、それはわからない。だが、最近各所で魔物との共生を訴える人や人を攻撃しない魔物が増えているのは、彼らと関係があるのだろうか。
「いつかあの方々にも食べに来てほしいですね。」
「勘違いしないで。私はあいつらに散々やられた礼がしたいだけなんだから。」
シロナはやはり好戦的に笑った。
「ユリ、また城に遊びに来なさい。いつでも歓迎するわ。友達としてね。」
「はい、また来ます。シロナさん。」
シロナと別れた後、ユリは中庭の隅でまんまるに肥えた白と黒のペンギンの元へ向かった。
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