15話 食べ放題①


 その後、グレイはシロナと共に石化した人々や魔物を解除して回った。石化している者がいないことを確認すると、躊躇なく精霊の契約を終了させ石化の力を手放したという。


それぞれが落ち着いた頃、ユリ一行と勇者一行はグレイ達の招待を受け、アヴァロンの城での立食パーティに参加することになった。





 会場には豪華料理が整列している。ユリは着いて早々デザートコーナーに吸い寄せられた。彩り豊かなケーキ、ふわふわのシフォン、手作りの生チョコトリュフなど、種類が豊富であり一つ一つが丁寧に作られているようだ。ユリはそれら全てのデザートを少量ずつ皿に取った。


ラフランスタルトを口に運ぶ。瑞々しい甘さとクッキー生地の香ばしさに全身がとろけそうだった。


「そんな甘ったるいもの、よくいきなり食べれるな。」


呆れながら牛乳を手渡してくれたのはユーキだった。


「好きな物を好きなだけ食べれるなんて今日くらいしかないじゃないですか!せめて三日分くらいは食べさせてください!」


「それで三日なのか…。」


ユーキとしばらく会場を眺めながら食事をする。モンペン達や勇者一行はそれぞれ好きなところに散っている。皆がどう過ごしているか、後で様子を見に行きたいところである。


観察するような視線を感じてユーキを見る。


「あの、何か?」


「返事に気づいてないのか。」


「え、返事?何のことですか?」


「別に。少し風に当たりに行く。」


ユーキが会場の外に向かって歩き出す。


「あ、どうぞ行っててください。私はもう少し食べてから行きますね。それでは後で。」


「……。」


一気に怪訝な顔となったユーキがヨーグルトをごってりとよそい始める。


「あ、急に何をするんですか!?やめてください!私には私のペースがあるんです!」


「知るか。お前にはカルシウムが必要だ。」


「あ、もうそこらへんで許してください!ひどいですよ!」


大量ヨーグルトの試練をなんとか突破し、ユーキとは一旦別行動となった。



 次に海鮮コーナーへと向かってみる。そこにはマグロの刺身を大皿ごと持ち去ろうとしているエデンの姿があった。


「わぁ…」とドン引きする。


「やほ、ユリちゃん!君は何食べてたの…うわ…」


大量のデザートが乗っているユリの皿を見て、エデンもまたドン引きしていた。


「よぉ!」


「わぁ!?」


いきなり背後から声をかけられる。不意打ちが成功して笑っているのはアヴァロンの王子グレイであった。


「グレイさん!?もーびっくりしたじゃないですか!」


「はっははは!よく来てくれたな、ユリ!…あれ、エデンはどこいった?」


「ここだけど」とエデンはテーブルの下から這い出てくる。いつの間にか移動していたらしい。


「エデン、何してんだ?」


「わかんない。体が勝手に動いたんだよね。」


天然な行動にグレイは「相変わらずだな」と苦笑する。ユリは気がかりに思っていることを聞くことにした。


「グレイさん、体の調子はいかがですか?」


「違和感はまだあるな。なんせこの体はロアのものだからな。魔力を使いすぎると意識が遠くなるし、戦う時は気をつけないとな。」


「そうですか…。」


不甲斐なさに俯く。今、グレイはロアの体を支配することでここにいる。グレイは自分のせいで中途半端に、しかも魔物の身となって生きているのだ。


もっと良い方法が他にあったんじゃないか。そう思わずにはいられなかった。


不意にがしがしと乱雑に頭を撫でられる。


「わっ!?わっ!?」


「なんでしょげてんだよ。お前のおかげで俺は妹にも友人にもまた会えたんだ。これほどに嬉しいことはない。ありがとな、ユリ。」


「君は毎度よくやってくれるよね。ありがとね、ユリちゃん。」


グレイとエデンより会心の笑みを向けられる。成人男性二人の笑顔は凄まじい攻撃力だった。不覚にも顔が熱くなる。


「わわわわわわわたしにはユーキががががががががが」


「ユリ、どした?」


ユリは逃げるようにアラカルトのコーナーへと早足で向かった。





 グレイはエデンと二人になった。作戦開始である。


「エデン、親父がお前に挨拶したいと言ってたんだ。一緒に行こうぜぇ。」


作戦とは他人の好意がわからない天然勇者に家族ぐるみの付き合いをさせ先に外堀を埋めてしまおうというものだった。


やんわりと、だが逃さないといった意志を込めながらエデンの肩に手を回す。


「……っ。」


エデンの全身が急激に強張る。


「どした?」


「わ、わかんない…なんか急に悪寒が…。」


エデンは全身に鳥肌を立てている。手を回した肩や首にはさらに別の異変が起きていた。


蕁麻疹である。


「「……。」」


お互いに呆然とする。生理的な拒絶反応だった。


「…エデン、俺はロアじゃない。だ、大丈夫だからさ、行こうぜ?」


「ご、ごめん、ちょっと今日は体調が悪いみたい。また今度ね。」


エデンは手を振り払いマグロを持ってそそくさと去っていった。


「…マジかよ。」


グレイは絶望し頭を抱える。エデンに拒絶されたこともショックであるが、こんな状態で妹とエデンの間をどうやって取り持てというのか。


グレイの苦難はこれからも続くことになる。

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