13話 ロア
アヴァロンの城の部屋にて。
ロアは目を覚ます。体は魔封じの鎖で縛られており身動きと魔法を封じられていた。目の前にはエデン、アルマ、ユリ、ユーキ、アレキサンダーが揃っている。
「これはこれは皆様お揃いで。それで、私を捕まえてどうなさるのです?」
ロアは愉しげに目を細める。この結果もまた想定していたことだった。
エデンがだるそうに口を開く。
「ロア。一応聞いとくよ。お前はグレイが助かる方法について何か知ってる?」
「はははははははっ!何を言い出すかと思えばあなたは本当に天然ですね!私がグレイの姿をしていることが何を意味しているのかもう忘れたのですか!?」
自分がグレイの姿をしているということは、グレイは自分に食われ死んでいることを物語っているのだ。
それなのにお人好しなこの一団はグレイを諦めきれないのである。
つまり、自分がグレイの姿でいる限り負けることはないのだ。
「はははははっ!グレイを助ける方法ですか!?そうですねぇ!たとえばこんなのはいかがですか!?私がグレイとして生きてあげるんです!私物真似は得意なんですよ!あなた方が望むグレイを完璧に演じて差し上げましょう!ははははははははっ!!」
ロアは思う存分笑った。目の前の一団をどんなに笑おうとも自分は死ぬことはないのだ。
「5番だね」「にゃあ」「5番ですかね」「5番だな」
「へあ?」
一団の予想外な反応に笑いが止まる。
「ロアさん。グレイさんを助ける方法については実は考えがあるんです。それにはまずアルマさんの魔法であなたの魂を別のものに宿さなければなりません。あなたの態度で5つの選択肢の内どれに宿すか決めることになってました。」
「は!?馬鹿な!助ける方法などあるはずがない!」
「グレイさんを食べたのがあなただからこそあるんですよ。」
ロアは衝撃を受ける。自分ですら考えられない方策をユリがすでに見つけている。こんな田舎の娘が策士である自分の上手を行くなど信じられないことだった。
「ちなみにこれが1番でした。」
ユリがお人好しな顔でペンギンのぬいぐるみを見せる。
「にゃあ」と、アルマが人懐っこい顔で猫じゃらしを振る。
「3番だ」と、ユーキが何とも思ってない顔でそこらにあった小石を蹴る。
「4番」と、エデンが無感情な顔でトイレットペーパーを見せる。
ロアは絶句する。魂の宿り先の候補は生き物ではなく物。全て物だった。
「そ、それで、5番目の選択肢とは、な、何なのですか?」
バン!
豪快な音を立て部屋の扉が蹴り開けられる。
姿を現した人物はロアが騙しアリスを宿らせ散々利用してきたシロナだった。
麗しい顔は吊り上がり、ふっくらと艶やかな唇からは歯が剥き出しとなっている。
「5番目の選択肢はこれよッ!!」
般若シロナがどかっと投げて寄越したのは鍛錬用のサンドバッグだった。
「ひいいいい!?」
ロアは狼狽える。これからサンドバッグとして殴られながら過ごせというのか。しかもしばらく使うつもりなのか新品である。
突如訪れた危機に頭がフル回転する。
そうだ。泣きながら命乞いをすれば人一倍お人好しなユリとアルマの心は動かせるかもしれない。
「遅いまんじゅう!ぼさっとしてないでさっさとやりなさいッ!私はこいつに用はないの!兄様に用があるのよォッ!!」
「にゃ、にゃあ…。」
アルマは怒り狂うシロナにすっかりびびってしまっている。これでは止まることは期待できない。ならば、ユリである。
「ちょっとかわいそうかもしれませんね…。」
--ユリ、君はなんて優しいんだ。
黒いペンギンアレキサンダーが微笑みながらユリの両肩に手を置く。
--ところで、私の意見も聞いてくれないか?君の背中を蹴って私の家族のペンギン達まで石化したゴミを生かすなど生ぬるいと思わないか?ここは大きい肉の塊にでも移して皆でバーベキューでもしないか?
「アレキサンダー?あの?」
不審な鳥と少女の会話をなかったことにして、ロアは最後にエデンを見た。
エデンの目は無感情だった。自分には嫌悪どころかほんの少しの感情を向けることさえだるい。そんな魔王ディーンを想起させる顔である。
それを前にロアに込み上げたものは笑いであった。魔王ディーンの一面を見たことに何の喜びも抱かない自分はたしかに魔王を愛していないようだ。
それよりも高揚するのは目の前の男を何度も屈服させられたことである。
「なんだ、そうだったんですか…くくくく…ははははははっははははははははははははははははははっ!!」
ロアは爆笑する。屈服させた時のことを思い出すだけでも愉快ではある。それ以上にこの男の苦悩がこれからも続くことを考えると心が舞い躍るようだった。
「また会いましょう、エデン…!人間と魔物を守れるように精々頑張ってください!私はいずれ必ずあなたに会いに行きます!あなたの大事な存在になりかわってね!くははははははっははははははははははっ!!」
「……ッ!」
ロアは狂ったように笑い続けた。それはまさに呪いのようだった。エデンの全身に鳥肌が広がっていく。
「にゃあ!」
アルマは急いで魂を移動させる魔法を唱えた。
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