12話 決着

 アリスが黒い粒子となりユリの体から離れ消えた。神殿に封印されたのだろう。


脱力し目を開けないユリにユーキはすぐに『回復』の魔法を使い、筋肉痛と踵を治療する。


「にゃあ」とアルマが不安げにユリの顔を舐める。


「ユリ、起きろ。」


反応は返ってこない。


自分の元を去っていった彼女に対するものか、雑魚一人守れなかった自身に対するものか、よくわからない憤りを感じ拳を握る。


彼女からもらった足跡の手紙が脳裏を過ぎる。あの足跡には意味が二つある。一つは待ち合わせの意味。もう一つは、


「ずっと、そばにいたいんじゃなかったのか?」


「…はい、二言なく。」


「!?」


ユリが罰が悪そうに目を開けていた。





 ユリはアリスに精神力の戦いを挑んだ。しかしそれは建前で、アリスを宿した瞬間ユリは体の支配を自分から全て譲り渡したのである。アリスに一瞬でも抵抗しようものならユリの精神は間違いなく消滅してしまう。ユリの精神は0.1秒も戦わないことで生き延びたのだった。



 


 アルマが先に行ってるねと意識のないシロナの元へ行く。ユリはユーキと二人きりになった。


「……。」


ユーキは汗だくで疲れた様子である。セントラルでの戦いから急いでここに駆けつけてくれたようだ。そんな彼になんと声をかけたらいいのだろう。皆が必死に戦ったのに自分は一瞬も戦わなかった雑魚だ。何を言っても分不相応に思えた。


ユーキもまた罰の悪い顔で無言でいる。


せっかく話す時間をもらったのに刻一刻と時が過ぎていく。


よし、謝ってしまおう。ユリは口を開いた。


「す「足、大丈夫か?」


「あし?足!?だ、大丈夫です!」


「本当に大丈夫か?」


「大丈夫です!」


強がるも全身が震えてしまう。アリスが味わっていた地獄をユリも共有していた。思い返しただけでユーキに抉られた右足が痛みだした。


「…そうか。」


また微妙な静寂が訪れる。


どうやらユーキも負い目を感じているようだ。


尋常じゃなく痛かったが彼が負い目を感じる必要はない。そうしなければアリスに勝つことはできなかったのだ。


それはきっと自分が戦わなかったことも同じなのかもしれない。


形は違うがユーキはユーキ故の戦いを、自分は雑魚故の戦いをしてそれぞれ戦い抜いた。それなら言うべきことは謝罪ではなかった。


「「お疲れ様。」」



 ユリはユーキと共に横たわっているシロナの元へ行く。シロナは息をしているものの動く気配はない。数週間に渡りアリスを宿したため、精神が壊れ廃人となっていた。


「廃人程度よくあることだ。ここは俺に任せろ。」


意外にも今回案があるのはユーキだった。


「お、珍しい。それではお願いします。いやいやいやちょっと待って!?なんで剣抜くんですか!?何をするつもりですか!?」


「なんてことはない。目を瞑っていろ。」


「乱暴なことしないでください!」


ユーキが不機嫌な面で引き下がる。


そこにロアを肩に担いだ勇者エデンが『転移』の魔法で姿を現す。体中が切り裂かれ息も上がりボロボロだ。


「やほ…皆無事でよかったよ…。」


「エデンさん!?大丈夫ですか!?」


「ちょっとつらいかな…アルマ…回復してくれる…?」


アルマは首を横に振る。調和の力でまだ魔法が使えない。ユーキに頼むと良いよと言っていた。


エデンとユーキは苦虫を5匹程噛み潰した表情になる。


「ほら回復。できるならさっさとやんなよ。」


「お前にはバナナで十分だ。」


エデンとユーキの間で盛大な火花が弾ける。


睨み合う二人に構わずユリとアルマはシロナを目覚めさせる方法を考える。


アルマがあれを渡してみたらと提案してくれる。


「あ、そうですね。」


この状態のシロナに渡して意味があるのかはわからない。でもきっと兄グレイはそうしてほしいのだろう。グレイの引き出しにあった箱の中身をシロナの手の上に置く。


それは青い宝石の指輪だった。黒い長髪で青い瞳をしているシロナによく似合うものだ。


だがユリは女性としてえっと思った。兄から妹へ指輪を贈る。一体これはどういうことか。


案の定それを純粋な目で見る男がいた。エデンである。




「ふーん、シロナちゃんとグレイって結婚するんだね。おめでと。」



バキッ


宝石の指輪は握り潰された。


「シロナさん?」


ユリは恐る恐るとシロナの顔を覗き込む。


麗しく端正な顔立ちは般若のように変貌していた。

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