11話 アリス戦④
アヴァロンの城にて。アリスはユリに宿りシロナを鎌で殺そうとしたところ、隠れていたアルマに能力交換の魔石を使われある能力を交換させられた。
『なにこれ。』
振り上げた鎌がすぽんと手から抜ける。体が言うことを聞かない。それだけではなく猛烈な痛みが全身を襲い始める。立っていることすら出来ずその場に倒れる。
『え!?痛い!?ていうか体が動かない!?なにこれ!?何の魔法!?』
アルマが「にゃあ」と答える。
筋肉痛だよと。
『筋肉痛!?ただの筋肉痛!?』
アリスは狼狽える。全身の自由を奪い強烈な痛みを与え続ける。こんなのは筋肉痛の範疇ではない。高度な状態異常の領域だ。
◆
アリスがユリの体に宿る少し前のこと。
ユリは器用にもアリスから隠れながら筋トレをしていたのだった。
腕立て100回、腹筋100回、プランク1分、そしてその場での静かな全力疾走。
アリスがユリの体に宿った後、アルマは能力交換の魔石でアリスと自分の『体力』と『筋力』を交換した。それにより、ユリの体は再び体力Eと筋力Eの雑魚な体に戻った。
再び雑魚に戻った筋肉は体を酷使した反動をいっきに受けプチっと壊れたのである。
◆
『何なのこの体雑魚過ぎるんだけどぉ!』
アリスはようやく宿ってはいけない体に宿ってしまったことを悟り泣き始めた。
「にゃー!」
アルマが抵抗できないアリスの顔面を高速で引っ掻き始める。時折はずしてしまうが量打てば当たると言わんばかりに引っ掻きまくる。
『痛い!たまに痛い!地味に痛い!あ、そうだ!シロナおねぇちゃんの体に戻れば…!』
こんな何の取り柄もない雑魚の体なんて捨ててさっさとシロナの体に戻ろう。そうすればこの奇怪な状態異常から解放されるはず。
しかし、何故かユリの体から出ることができない。
(え?なんで!?何で出れないの!?私ユリとの勝負に勝ったよね!?)
そう、自分が宿った瞬間ユリの精神は消えたのだ。
0.1秒も保たずに。
『ま…さか…』
その時、アリスはある可能性に行き着く。精霊の勝負がまだ終わっていないとしたら。ユリの精神がまだ消えていないとしたら。
それならば勝負が終わらないためこの体に縛られ続けるのも納得できる。
だが、いつまで?戦う対象であるユリの精神が見当たらないこの状況でどうやったらこの勝負に勝てるのか。
アルマに顔を引っ掻かれ考えがまとまらない。そんな困り果てたアリスに、
ついにアリスにとっての最悪は到着した。
「…この状況は何だ?なんでユリがアルマに引っ掻かれている?」
銀髪の剣士ユーキである。その時すぐに策が浮かんだのは長年人々の絶望を追い求め続けた経験によるものだったのだろう。
『ユーキ、たすけて…。アルマさんにアリスが宿って私を殺そうとしてるんです…。』
「にゃ!?」
ユーキはすぐに剣を抜き駆けてくる。
『ありがとうございます、ユーキ…。』
アリスは顔を伏せ悪魔のような笑みを浮かべる。やった、これで助かると。これでまだ遊べる。
しかし、ユーキはアルマの横を通り過ぎ自分の背中に片膝を乗せてきた。壊れていた背筋と腹筋か押し潰されさらに悲鳴をあげる。
『いだああああああ!?』
「ユリ、頑張れ…!」
これ以上何を頑張れと。アリスは泣きながら抗議しようとした。
ザクッ
『イギャアアアアアアアアアアアアアアア!!』
アリスは絶叫した。ユーキの剣が右足を足の裏から貫いたのである。
筋肉痛の比にならない焼けるような激痛。動かなかったはずの体は勝手にのたうち回り逃れようとする。しかし、上から固定されておりそれが叶わない。
雑魚なせいか意識が遠くなる。そこに『回復』の魔法がかけられ体が少し楽になる。この男が迷惑なことに剣を刺しながら回復してくれているのである。
『なんなの!?何がしたいの!?』
「っ…!頑張れ、ユリ!絶対に負けるな…!」
『だから何を!?あ、やだ!』
少しずつ剣が捻られていく。貫かれている足底よりギギギっと軋む音が鳴る。
『…やめて。』
その時、手を差し伸べてくれた心優しい旅人のことを思い出した。彼に宿り彼の友人を殺す時、同様にやめてと言われた。自分はそれを「なんで?」と笑い聞き流したのである。
パキッ
踵の骨が砕ける虚しい音と同時にアリスは吠えた。
回復の魔法により体は再生と破壊を繰り返す。意識を失うことも許されない地獄だった。
叫びながらアリスは理解した。
これが絶望だと。
この男は自分がこの体から出るまでこれを続けるつもりだ。自分が負けを認めない限りこれが永遠に続くのである。
『ああああああああもういやああああ!!神殿に帰して!!勝負なんてもういいから!!全部私の負けでいいから!!』
アリスは精霊との勝負から降り、黒い光の粒になってユリの体から出る。
ぐいっと自分の神殿のある方角に引っ張られていく。ユリとの当初の取り決め通り負けた自分は神殿に封印されるのである。
それもいい。それがいいと思った。少なくとも今より絶望から離れることができる。
ああ、でも、やはり、
『もっと遊びたかったな…。』
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