10話 ロア戦⑤


 大量に湧いた泥人形と戦うべく光の剣を構えるエデンの前にモンスターペンギン達とロアの部下だった魔物達が立ちはだかった。


「おやおや、共に魔王を救おうと誓った仲じゃないですか。それなのに裏切るなんて…一体どうしてしまったのですか?」


ロアは嘆くように息を吐く。どうしてしまったのか、それは魔物達のセリフであった。


エデンは魔王であり勇者である。人間と魔物を守ろうとする自分達の王を何故襲う必要があるのか。この後に及んでも戦いを止めようとしないロアの方が不自然なのだ。


「もうやめましょう!戦う理由はないはずです!」


--ね?ね?遊んで良い?まだだめ?


魔物達とペンギン達が必死に声を掛ける。ロアは「わかりました」と眼鏡をかけ直す仕草をする。


『石化の対象を人間から魔物へ変更』


すぐに部下の魔物達とペンギン達の石化が始まる。ロアは一人だけ雨具を装着していた。対し魔物達は雨具を着けず石化の雨に濡れながら戦っていたのである。


「うわぁぁぁぁ!?ロ、ロア様!?何を!?」


--うおおおおお!?なんだなんだ!?


体が石化を始め恐慌状態に陥る魔物達にロアは「お疲れ様でした」と冷淡に告げる。


ロアは最初から魔物達を切り捨てる算段を立てていたのだ。


「ロアアアアアアアッ!」


エデンは右手に光の剣を、左手に西洋剣を構え駆ける。魔物達の石化を阻止するためにもすぐに決着をつける必要があった。


雷の大剣が縦に回転しながら迫る。それを真正面から受けようとした時、


目の前に白い巨体が立ち塞がった。


モンペンが体が動かなくなる前に大剣を石の体で受け止め、そのまま抱え込んだのである。


「ギュウウウウーーー!」


「モンペン!?」


モンペンの全身に電光が弾ける。大剣はもがきその手から抜け出そうとする。


モンペンを手伝おうと部下の魔物達も石化しながら大剣を取り押さえていく。


「みんな!もういい!手を離していいよ!」


電流が全身に流れ続ける壮絶な苦痛。それでも魔物達は雷の大剣から手を離さなかった。


--頑張れ、勇



モンペンと魔物達は石化したその体をもって雷の大剣を封じたのだった。



「くっそだらぁああ!!」


エデンは激昂し泥人形を両の剣で刻みながら旋風のように疾走する。ロアの元に辿りつき剣を振るうも『防壁』の魔法がロアを丸く囲い阻止される。


『石化の対象を魔物から人間へ変更』


「はい、お疲れ様でしたーー!!貴方の負けです!なんせこれは魔力SSの防壁です!そのすかすかな魔力で突破できるわけがない!」


「ぐ…くそ…!」


なけなしの魔力と渾身の力を込め両の剣を叩きつけ続ける。しかし、防壁は硬く割れる気配がない。


「おやおや?魔物達がこれだけ体を張ったにも関わらず結局は負けてしまうのですか??

人間も魔物も守れないなんて貴方って本当に救いようのない雑魚ですね!でも安心してください!私は貴方の忠実な僕!貴方が石化している間に世界を破壊し尽くといて差し上げます!新しい魔王としてね!くはははははははっ!はははははははははははっ!!」


防壁を叩き続けるエデンに大量の泥人形が迫る。


もう魔力はほとんど残っていない。この防壁を今すぐに突破できなければ石化した魔物達を助けることもできず自分も終わってしまう。


「くそがぁぁああああ!!」


もっと力を込めて。もっと早く。エデンは全力で防壁を叩き続ける。その必死ぶりにロアはテンションがさらにぶち上がり爆笑する。


「はははははははははっ!!あっはははははははははっ!!ぎゃっはははははははははっ!!」



ピキ



「へあ?」


ロアが素っ頓狂な声をあげる。防壁にほんの少しのキズができていた。



エデンが剣を叩きつける度にそのキズから亀裂が広がっていく。


「ああああああああああああああああ!?」


ロアは想定外の事態にパニックを起こした。


ヒビが一直線に入った時、エデンは魔王の剣も勇者の剣も投げ捨てた。残り全ての魔力を自分の拳に総動員する。


「エデン…愛してるぜ?」


ロアがグレイの顔で微笑んだ。




「グレイを弄ぶなああああああ!!」




魔王勇者の拳が魔力SSの防壁を打ち砕いた。



拳の勢いは止まらずロアの顔面を殴る。


「アーーーーーーーーーッ!!」


ロアは甲高く悲鳴を上げながら吹っ飛び宙で5回転する。地面に倒れ伏し意識を手放した。


ロアが意識を手放したことで赤い雨がようやく止まる。泥人形がただの泥となってその場に広がった。


エデンは息を切らせながら周囲を見渡す。魔物の全てが石化しており動く者はいなかった。


「雑魚、か…。」


その通り過ぎて笑えてくる。たくさんの犠牲の果てにようやく勝てた自分を今まで一番強いと思っていたなんて身の程知らずも良いとこだ。


だがここで終われない。どんなに雑魚でも自分は人間と魔物の勇者になるのだ。


「グレイ、手伝ってくれて、ありがとう。絶対に、お酒、一緒に飲もうね。」


満身創痍な体でロアを担ぎアヴァロンの城へと向かう。


友人との再会を信じて。ひとりでは無理でも皆でなら魔物と人間を助けられる勇者になれる。そう信じて。




⭐︎次話アリス戦です。

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