9話 ロア戦④

--間違ってなんかない!


エデンの前に立ち、ロアの言葉を否定したのは白いモンスターペンギンモンペンであった。


モンペンは何を言ってるのだろう。エデンはぼんやりとした頭で聞く。


--こいつは俺達を守ってくれた!こいつは魔物の勇者だ!


「魔物の…勇者?」


力なく反復する。その意味がよくわからなかった。勇者とは一体何なんだろう。同じく悩んだことが二年前にもあった気がした。


ロアは嗜めるようにモンペンを見る。


「わからないようですね。勇者は魔物を殺戮する存在のことを言うのです。その方は勇者などではありません。人間を殺戮する魔王です。」


--違う!魔王はこいつの兄ちゃんだ!こいつは悪いことしてない!


エデンはモンペンの言っている意味が咄嗟に理解できなかった。


(え、兄ちゃんって誰?まさかディーンのこと言ってるの?僕がディーンだよね?あれ?)


エデンの不器用さとはこれであった。


エデンは魔王としての記憶と肉体が共有されていたために魔王ディーンと自分を切り離して考えることができないのである。


エデンという人格が生まれて二年。エデンは自分の意思で人間を傷つけたことはあっても殺したことはない、正真正銘の二歳児なのだ。


--金髪小僧、自分のことは自分で決めるんだ!勇者と魔王、お前はどっちなんだ!?


「…え?僕が選んで良いの?」


その場にいる全ての魔物の視線を感じる。自分の答えを待っているのである。


「僕は…」


エデンはすぐには答えられない。決められないのである。人間を守る勇者でありたい。でも魔物も見捨てたくない。


そもそも勇者とは何なのか。二年前、アルマに聞いたことがある。彼女は自分に言った。


周りを気にせず自分のなりたい勇者になればいいんだよと。


たしかに魔王ディーンと自分は別の存在なのかもしれない。だが、魔王としての殺戮の感触はしかとこの身に刻まれている。それに魔王ディーンを倒したのは自分だ。魔物達から魔王を奪ったことに変わりはないのである。


光の剣が強さを取り戻す。


「僕は魔王で勇者になりたい。人間と魔物を守る勇者になりたい!」


その場にいる全員が愕然とした。そんなこと出来るわけがないだろうと。


「うん。僕ら勇者一行だけでは無理だ。僕らは双方を守れる程器用じゃない。だから手伝ってほしい。」


魔物達は戸惑いを隠せない。食べた者に成り代わる特性を持つ魔物。その本質は雑魚だった。雑魚である故に他人に成り代わり生きていく。どんなに自分達が魔王を慕っても弱者を嫌う魔王ディーンは一瞥すらしてくれなかったのである。


対しエデンは弱者である故の強さをよく知っていた。一人一人の魔物に目を合わせていく。


「種族も力も関係ない!僕にはお前達が必要なんだ!」  


--あじゃ!


モンペンがびしっ!と敬礼する。それにペンギン達が続いていく。ロアの部下達も一人ずつ続き全員が地に平伏した。


その場にいる魔物全員がエデンを魔王で勇者であると認めたのだった。


一人を除いて。


その場に耳をつんざくような金属音が大音力で鳴り響く。ロアの歯軋りである。


「はぁ…?魔王で勇者ですと…?どちらにもなれない道化の分際で…

開き直るなあああああああ!!」


呼応するように大剣が急接近し突き刺そうとしてくる。それを反射し横に避ける。


「ロア、お前は受け入れられないだろうね。そうだと思ってたよ。」


敬愛している魔王が助力を求める。忠実な部下であれば真っ先に受け入れていたことだろう。しかし、エデンはロアのこの反応に全く違和感を持たなかった。


二年前の偽の宣告。今回の青の魔法陣と魔力SSへの執着。それが意味することは瞭然だった。


「お前は僕に成り代わりたいんだ。お前は僕を慕ってなんかいない。お前が慕っているのは自分だ!」


「あ?ああああ!?あああああああああーーーーーーーーーー!!」


ロアは頭を抱えながら叫んだ。叫び叫んで叫びまくった。その後呆れたようにため息を吐いた。


「やれやれ、相手に成り代わりたいというのも一つの愛の形なのですが、あなたには少々難しかったようですね。」


ロアの周囲に夥しい数の泥人形が湧く。決着をつけるつもりのようだ。


エデンは険しい表情で光の剣を構える。一切の余裕はない。自分の魔力は残り少ないのだ。この数を相手に無事でいられるだろうか。自信はないがやるしかない。


「お下がりください、勇者様。」


そんなエデンの前にロアの部下だった魔物達と、目をハートにしたペンギン達が立ちはだかった。




⭐︎次もロア戦とさせていただきます。

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