8話 ロア戦③


 アヴァロンの国『セントラル』にて。エデンは光の剣でロアの前に立ち塞がる雷の大剣と戦い続けていた。


モンスターペンギン達がロアの部下の魔物や泥人形達と遊びながら気を引いてくれている。今なら雷の大剣に集中できる。


「くらえ!」


雷の大剣に素早く三連撃を繰り出す。大剣は連撃に弾かれるもブーメランのように高速回転し何倍にもなって戻ってくる。それを咄嗟に重さのほとんどない光の剣で受けてしまった。


重過ぎる衝撃に体を大きく突き飛ばされる。


「やば…!」


石化の雨に当たらないよう顔を庇う。しかし、これでは受身が取れない。このまま雨で濡れている地面に倒れては石化が始まってしまう。


「グエ!」


もふんと背中に優しい感触がする。後ろにいたモンペンがクッションになってくれたようだ。


「モンペン、助かったよ!ありがとう!」


--金髪小僧!よくもやったな!お前とは二度と喋らん!


プンスカと怒るモンペンの背後を突き刺さんと大剣が切先を向け迫る。


足、胴、肩、腕の全てに力を込め横から光の剣を叩きつけ軌道を変える。


「ぐう!」


衝撃で肩と腕が軋む。だが、ここで引いては周囲のモンスターペンギンが大剣の餌食になりかねない。大剣と全力で剣を合わせ続ける。


--金髪小僧…!


モンペンを含むモンスターペンギン達は自分達を守ろうとするエデンに注目しつつあった。


「アーーーーーーーッ!!アーーーーーーーッ!!」


それはロアも例外ではなかった。感動の涙を流しながらエデンに注目している。


「アーーーーーーーッ!!か弱き魔物達を守ろうとするそのお姿!!まさに崇め奉られ仰がれる魔物の王でございますッッッ!!」


大剣の動きも感極まったように滅茶苦茶な乱撃に変容する。様々な方向からの重い剣撃に腕が吹っ飛びそうだ。


「ぐ…!うざいな!僕は魔王じゃないと言ってるだろ!」


「は?」


熱く見つめていたロアの視線が急激に冷めたものに変わる。


「…自分は魔王ではないなどとまだそのようなことを仰るのですか?貴方様はこの後に及んでも我々魔物を無責任に見捨て勇者ごっこを続けるおつもりなのですか?」


「!」


ロアの言葉に頭から冷水を浴びせられたような感覚に陥る。大剣は横に回転するように連撃を続ける。ロアの声がやけに響いて集中できない。


「貴方は貴方に見捨てられた魔物達のことを少しでも考えたことはあるのですか?貴方は貴方を信じ付き従っていた魔物達を裏切り、貴方のために死んでいった魔物達の命までも蔑ろにしているのですよ?」


「……っ。」


言い返す言葉は見つからない。ロアの言葉は紛れもない自分が逃げてきた事実だ。手に握る光の剣が不安定に点滅を始める。


「私は後悔していますよ、我が王よ。二年前私が偽の宣告さえしなければ今もかの王は健在だった…あれさえなければ、このような間違いは起きなかったとねッ!!」


ロアは感情的に声を荒げる。何も言い返すことができない。大剣の力がいっきに増大したように感じる。受け止めきれず体の至る所が切り裂かれていく。


「臣下達が命をかけて王を取り戻さんとするのは当然の理。何度姑息と言われようと構いません。如何なる手段を使ってでも貴方の目を覚まさせます。それが私の忠義です。」


「……。」


最後までロアに言い返すことはなかった。


全てその通りだ。否定できる訳がない。自分は魔物達から魔王を奪い人間を守る勇者になった。残された魔物達のことなど考えなかった。


否、天然勇者の仮面を被り考えないようにしていた。自分は魔物も人間の命もどちらも守れるほど器用ではなかった。


「僕がやってきたことは間違いなのか…。」


手に力が入らない。


自分が勇者として人々を救ってきたことが間違いである気がしてならない。そもそも自分が生まれたこと自体手違いだったのだ。


アルマとの旅も、勇者一行としての冒険も、ユリ達との出会いも、もらったこの感情も、意志も、全てが間違いに思えてならない。


光の剣は今にも消失しようとしていた。





⭐︎次話もロア戦とさせていただきます。

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