6話 ロア戦②


 セントラルの防壁内にて。ユーキはエデンと共にロア、部下の魔物達、泥人形達と戦い続けていた。


当初50人程いた魔物達は武器を奪われた挙句飛び道具として扱われ約半数が地面に伏している。


エデンは『雷の大剣』の相手を続けている。太刀筋の読めない剣撃に防衛で手一杯なようである。


余裕のないエデンに泥人形が襲い掛かる。


ユーキはそれを阻止するべく何度も投げられグロッキーとなっている魔物を再び投げ飛ばす。投げられた魔物は泣きながらエデンの周囲にいる泥人形を5体巻き込んだ。


「この鬼畜が!」


怨み言と共に別の魔物が斬り込んでくる。その攻撃を重心の移動でかわし魔物の手から剣を奪い取る。


「……!」


剣を持った瞬間これじゃないという感覚が沸き起こる。やる気が起きない。持っているのも億劫になり直ぐに剣を捨てた。


「さて、どうするか…。」


気に入る武器もなく、ユーキは周囲を見渡す。魔物達は怯えたように後ずさった。


ロアは石化の雨を降らせつつ雷の大剣を操作しそれ以上の算段を見せない。自分達の魔力切れによる戦闘不能を狙っているのだろう。


ユリ達が逃げた先を見る。鎌を装備したアリスに追いつかれるのは時間の問題だ。直ぐにでも追いかけたいが防壁に丸く囲まれそれができない。


どうにかできないかと考えていると防壁の遠くに砂煙が現れる。


「?」


そして地鳴りと共に響く平たい足音。


ペチペチペチペチペチペチペチペチ!


それはモンスターペンギンの大群であった。ざっと100匹程いるのではないかというペンギンが砂煙が立つほどの勢いでこちらに向かってきているのである。


その先頭で群れを率いているのがモンペンであった。


--弟!石になった家族が見つからないんだ!仕方ないから合流しよーぜ!


「石化したペンギン達はユリが助けた!それよりその後ろの連中は何だ!?」


--わからん!なんでか着いてくるんだ!





 モンスターペンギンは群れで行動する習性がある。昨夜のこと、モンペンは石になった家族を鳴きながら探し続けた。その声に群れから離れた逸れペンギンが加わる。次に少数のペンギンの群れが加わる。そのように合流を繰り返した結果、モンペンは100匹の群れを率いるリーダーとなったのだった。





 防壁を見たモンスターペンギン達はさらに加速する。丸い球体の壁。中には泥人形が詰まっている。なんだあれは楽しそう過ぎる。ペンギン達は目をハートにしていた。


--おら!入れろ!


--お前らだけずるいんだよ!


ロアの防壁に総勢100匹のモンスターペンギンが次々に体当たりを決める。


「何なんですか貴方達はあああああああああ!?」


ロアが甲高く悲鳴をあげる。想定外の事態にパニックを起こしていた。


そうこうしている内に防壁の魔法は100匹のペンギンアタックに耐えきれず砕け散った。


--遊ぼーーーー!!


ペンギン達は戦場になだれ込み泥人形と一方的な遊びを始める。石化の対象は一つの種族を選択することになる。ペンギン達は魔物であるためロア達魔物と同様、泥人形に触れても石化しないのだ。


悲鳴をあげるロアと狼狽える部下達と泥遊びに夢中なペンギン達。戦場は大混乱となった。


離脱する好機である。


「エデン、俺はユリ達を追う!あとは任せる!」


「いいけど!ユリちゃんとアルマに何かあったら君を斬るからね!よろしく!」


エデンは雷の大剣の相手を必死に続けている。このマイペースなペンギン達と共にエデンはロアと戦い続けなければならないのだ。


エデンが両目でウインクをする。


瞬間、エデンのことを考える全てが面倒になる。ユーキはユリ達を追うことにした。


--おっと!弟よ忘れ物だぜ!


モンペンが剣を咥えて寄ってきた。


それは顔が映るほどに滑らかな剣だった。以前血肉に塗れ悪臭を放っていた物と同一とは思えない、器用に手入れされた自分の剣である。


差し出されたそれを握る。ようやくしっくりときた。


--お嬢の臭いはあの城から漂ってるみたいだ!


「わかった。モンペン、お前はエデンを頼む。」


--あじゃ!


モンペンはびしっ!と敬礼をした。


ユーキは『身体強化』の魔法で身体能力を強化し、アヴァロンの城へと走る。



 道中。ユーキは彼女のことを思う。雑魚を大事にする方法は今でもわからない。やりたいことがあるならそれをできるだけ叶えてやる。不器用かもしれないがそれで良いと思っていた。しかし、結果はこのザマだ。


雑魚を自分の危険な旅に付き合わせるとはこういうことなのだ。アレキサンダーの言うように彼女は保護すべき対象なのかもしれない。


だが、誰かを殺すことでしか誰かを助ける手段を知らなかった自分に器用な彼女は選択肢を与えた。血塗れの剣を手入れしたように、自分を公正したのだ。


『身体強化』の魔法を重ねて使用する。走る速さが増し、全身に軋むような痛みが走る。


ようやくこの旅の答えを得る。


世界の謎を暴き人や魔物を気まぐれに救う。自分はそんな旅を続けたいのだ。


彼女と共に。


『身体強化』


ユーキはアヴァロンの城へ全力で向かった。


彼女は手紙の返事に気づいただろうか。




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