5話 アリス戦②


 ユリはアルマ共にアリスから逃げながらアヴァロンの城へ到着した。


能力交換の魔石により、アルマの筋力Cと体力Bはユリに入れ替わってる。とはいえ城まで走り通し限界だった。


雑魚の一生分を走り切った謎の達成感を味わいながらアヴァロンの城に入り隠れられるところを探す。


城の内部は入り組んだ造りとなっており人の喧騒が聞こえそうな程華やかだった。なのに、物音一つしない。


城の中の人々はすでに静止画のように石化していた。印象的なのは石化している人々が無表情であることだ。床には乾いた泥が至る所に落ちている。


この城を乗っ取るために、アリスが黒い霧で人々の生気を奪いロアが泥人形で襲撃し誰一人逃すことなく石化させたことがわかる。


そういえばここまでの道のりでも動いている人に会うことはなかった。


アヴァロンの王都周辺に住む全ての人が石化しているのだ。


これが、ロアとアリスが連携した世界なのである。


「……!」


恐怖から足が震える。自分達がこの戦いに負けたらこれが世界中に広がることになるのだ。


ぺろ


「ふひゃ!?」


不意にアルマに首を舐められ霰もない声が出る。


「ア、アルマさん!?首はちょっと!」


「にゃあ?」とアルマは首を傾げる。彼女なりに励まそうとしてくれたようだ。


気を取り直し城の奥へと進む。三階に上がった時、城の扉が開閉される音が響く。


『ふふ。お城でかくれんぼなんてすごいね。わくわくしちゃう。』


アリスも城へ到着したようだ。足音を立てないように気をつけながら適当な部屋に入ってみる。


そこはたくさんのゲームやお酒がケースに鎮座されている部屋だった。


「あ、グレイさんの部屋に勝手に入っちゃいましたね。緊急だし仕方ないけど。」


「にゃあ?」


アルマが何でグレイの部屋だって知ってるの?と、不思議な顔で尋ねる。


「え?何ででしょうね…。」


たしかに不思議である。自分はアヴァロンの国に来たのは今回が初めてだ。なのに城までの道のりも城の入り組んだ通路も迷うことなくここまで来た。


まるで誰かの記憶を継承しているかのようだ。


頭に映像が流れる。その通りに机の引き出しを開けてみる。


そこにはラッピングされた小さな箱があった。グレイが妹のシロナへいつか渡そうとずっと持っていたものである。


「グレイさん…。」


グレイが言っている気がした。妹を頼むと。自分よりも妹を優先する。どこまでも妹想いな兄だ。


ふと違和感を持つ。こんなことがわかるということは、つまり自分は今グレイの記憶を持っているということだ。何故、いつからだろう。


『ユリ?猫ちゃん?どこー?』


考えているとアリスの声が近づいてくる。


アルマが不安気に見つめる。


「大丈夫です。ユーキかエデンさんが来るまでここに隠れて時間を稼ぎましょう。」


雑魚の技、他力本願だった。

自分達だけでは鎌を装備しているアリスを捕まえることは難しい。しかし、ユーキかエデンがここに来てくれれば簡単に捕まえることができるのである。


『えー?どこー?どこにいるのー?』


部屋を移動する度、アリスが付かず離れず着いてくる。何かがおかしい。


「アルマさん…ひょっとして、私達の位置、アリスにバレてたりします?」


アルマはアレキサンダーの声を聞いているのか宙を見つめる。


そして、涙目で頷いた。


アレキサンダーの話では、アリスは魔力を感知することができるという。今、アルマの魔力は調和の力により無効化されており気づかれることはない。しかし、ユリの魔力は無効化されていない。そのため、アリスは自分達が隠れていてもユリの魔力を辿り正確に追いかけることができる。とのことだ。


城に隠れて追い詰められたのはこちらの方だった。アリスは今必死に隠れている自分達を面白がっているだけだ。彼女の気分次第で潰されるのである。


「ア、アルマさん、先に行っててください…。私がアリスを引きつけます…。」


魔力が無効となっているアルマだけなら逃げれるはず。しかし、アルマは首を横に振り拒否する。


「アルマさんっ…」


アルマは再度拒否する。仲間を見捨てるようなことができるはずがない。アルマは不器用な魔法使いなのである。


ぎゅっと抱きしめる。なんとかアルマと生き延びる方法はないのだろうか。シロナを助ける方法は。ユリは懸命に考える。



そして、一つだけ見つけた。



それは自分にもアルマにもかなりの危険が伴うことだった。一歩間違えれば今度は半年どころではない。二度と皆と会えなくなるのだ。


アルマが察したのかこくりと頷く。対しユリはすぐに決断できなかった。


ふとユーキに渡した足跡の手紙のことがよぎる。あの足跡には待ち合わせの他にもう一つ意味がある。不器用な彼のことだ。気づくわけがないだろう。こんな状況にも関わらず少し笑ってしまう。


「参りましょう、アルマさん。器用に、」


「にゃあ!」


雑魚達は最悪に立ち向かうのだった。

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