4話 ロア戦①


 防壁内にて。エデンはユーキと共にロアとその部下達50人と対峙していた。ユーキは剣を投げてしまったため素手である。


「まさかそのまま戦うつもりじゃないよね?」


「ないものはない。やるしかないだろ。」


構わず戦おうとするユーキに少し引く。ロアの部下である魔物達ならなんとかなるかもしれない。しかし、ロアは石化の雨で泥人形を召喚することができるのだ。泥人形相手に素手で戦っては石化してしまう。普段冷静な彼がここまで考えなしとは意外だった。


ロアがひとり雨具を装備する。


「僭越ながら、私が貴方様の夢と希望を打ち砕いて差し上げます。」


赤い雨が来る。エデンとユーキも雨具を装備し石化の雨に備えた。


『石化の雨』


時が止まった魔力SSのせいだろうか。血のように濃い赤い雨が降り以前と比べて泥人形が召喚される速さが増している。


ロアはそれ以上攻撃を仕掛けようとはしない。泥人形は魔力を込めなければ倒せない。長期戦になっては魔力に限りがあるこちらが不利だ。


「僕が特攻する。ユーキは援護に回って。」


「天然ザルと組むのか。なんとも心許ないな。」


「筋肉ゴリラ、それは、こっちのセリフなんだけど!」


エデンは剣を抜き、泥人形達を斬り伏せながら一気に駆け抜ける。立ちはだかるロアの部下達に剣を叩きつけるも同じく剣で受け止められる。別の方向から槍が突かれたため体を捻りそれをかわした。


「く…!」


自分達は赤い雨に当たらないように激しい動きはできない。対し、ロアの部下は魔物であるため雨の中を自由に行動することができる。その差は大きかった。


周囲に石化した人々やユーキがいるのに制御できない攻撃魔法を使うわけにもいかない。


ロアの部下達と剣を合わせていると泥人形が体当たりするように襲いかかってくる。


「!」


敵の盾が飛んできて泥人形を潰し阻止してくれる。ユーキからの援護である。


「ユーキ!ありが、うわ…」


ユーキを見てドン引きした。


驚くことにユーキは素手のままロアの部下へ立ち向かっていた。ロアの部下達は剣、盾、ハンマー、槍など幅広い武器を装備している。ユーキはそれらをひねるように奪っては泥人形に投げつけるといった珍妙な戦い方をしていた。


「ちょっとユーキ!?泥人形は魔力を込めないと倒せないよ!?物投げても無駄だって!」


「知ってる。だが面倒だ。魔力があるお前に任せる。」


「め、面倒…」


ユーキは泥人形の動きを阻止してくれるものの倒してはくれないようだ。まさに偏屈ゴリラである。


さらに、ユーキは敵の剣を奪い取ると「これじゃない」と捨てている。マイペースに武器の選別もしているようだ。


ユーキは当てにならない。それなら周囲を無視して敵の親玉を倒そう。エデンは魔物達の攻撃をくぐり真っ直ぐロアへ向かった。


「ロア、覚悟!」


ロアは不敵な笑みを浮かべたまま身動きをしない。その堂々とした姿が見た目と共にグレイと重なる。


妹想いな兄。自分の国のことをよく考える王子。そして、敵同士なのに酒を飲み交わし友人になろうと言ってくれたかけがえのない存在。


(グレイ…!)


ロアを目の前にしても剣を振るうことはできなかった。斬れる訳がない。


ロアがグレイの顔で微笑む。


「エデン、お前は本当に優しいな。それが一層、

愛しくて嘆かわしいんですよ。」


不意に横から大剣が振り降ろされる。それを受けようと剣を水平に構える。


「ぐあああああああ!?」


剣が大剣に触れた瞬間全身に電流が駆け抜けた。後退してそれを見る。


ロアの前に浮いているのは、身長を優に超える丈の閃光を纏った大剣だった。


「くはははははは!!私が何の策もなくあなた方と戦うとお思いですか!?グレイの技『雷の大剣』ですよ!鉄の剣に電流を纏わせ磁力で操作しているのです!剣士でもない私が剣を持ってもあなたには勝てないでしょうねぇ!ただし、思い通りに操作するとなれば話は別です!!」


自在に操作でき触れた相手を感電させる『雷の大剣』。それならば対抗する手は一つ。


「僕だって、いつまでも魔法を制御できないままだと思わないでよ!」


『光の剣』


青の魔法陣で光の剣を一本召喚する。制御できるのは一本が限界だ。魔法の剣なら金属ではないため感電しないはず。


エデンは普段使っている西洋剣をしまい、光の剣を構えた。


「それは魔王の剣ッッッ!!魔王様、魔王様あああああああ!!」


ロアの感極まった心を現すように大剣もジグザグに飛び交う。その動きが不規則で読めず眼前になって光の剣で受けた。


「うう!」


大剣は身軽に動くわりに重い剣撃を放つ。対し光の剣にはほとんど重さがない。容易く全身を弾き飛ばされる。


体勢が崩れたところを泥人形に狙われる。


「しまっ…」


それをユーキが魔物丸ごと投げてよこし泥人形の攻撃を阻止してくれる。規格外な滅茶苦茶ぶりに再びひく。


「ちんたらしてんじゃねぇ!」


「…ごめん。ありがと。」


一応の礼を返しながらも内心君もちんたら武器を選別してないでさっさと戦ってくれと付け足す。


思った以上に手強い。長期戦になりそうだ。






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