3話 アリス戦①
ユリはアルマと共にアリスと対峙した。アリスとアルマは調和の力で魔法が使えない。できるだけ穏便に済ませたいところである。
「アリス、大人しくシロナさんを解放してくれませんか?」
『ユリの体を少しの間貸してくれるならいいよ。』
「え、それで良いんですか?」
「にゃあ!」
承諾しようとすると、アルマがだめ!と遮る。ユリは魔法の才能が全くと言っていい程にない。それなのに上位の精霊であるアリスを宿したら少しの間どころか1秒も保たずに精神が壊れる。とのことだ。
「し、失礼な!1秒くらい保ちますよ!」
保たない!とアルマは断言する。納得できないがアリスを宿すようなことは考えるべきではないらしい。
それならアリスを説得することはできないだろうか。本質を知れればそれも可能かもしれない。
「アリスはどうしてロアに手を貸すんですか?」
『ロアお兄ちゃんが好きだから。それと、皆に生きるっていうことを教えてあげたいからかな。』
「え、どういうことですか?」
アリスは無邪気な笑顔で続ける。
『虚無の女王として生まれたからかな。私ね、生きている心地がしなかったの。そんな時にね、心優しい旅人さんがお友達と一緒に神殿に遊びに来てくれたの。旅人さんの体を借りてそのお友達と遊んだよ。その時面白いことが起きたの。お友達の命がね、消える瞬間強い輝きを放ったの。死にたくないって。体を借りている旅人さんもそれに共鳴し合うように輝いてた。殺したくないって。あの輝きこそが皆が生を実感するために必要なものなんだよ。』
ユリは相槌を打つのも忘れ絶句する。
『死にたくない。殺したくない。死なないで。殺さないで。そう思う時に命は強く輝くってこと、皆は知らないでしょう?人それぞれに個性があるようにひとりひとりにその人に合った絶望があるんだよ。皆が生を実感できるように私が個別に、その人に合う絶望をじっくり教えてあげる。私は楽しいし皆も嬉しい。素敵なことだよね!』
アリスは無邪気な天使のような笑顔で語った。虚無の女王アリスの闇を見た気がした。
アリスは人々を絶望に陥れることでしか生きている心地を感じられない。自分が狂った思想を持っているとは一切考えられないのだろうか。
いや、違う。アリスのわざとらしい幼い素振りを見てわかった。この精霊は自分が狂った思想を持っていることも周囲が望んでいないことも全て分かった上で『教えてあげる』と強制しているのだ。自分が楽しむためだけに。
まさに最悪な精霊である。説得なんて不可能だった。
「アルマさん、逃げましょう…」
「にゃあ…」
その場から早く離れたいのに足が震えてしまう。目の前の少女の狂気が怖かった。
『ふふ。ユリ達にも教えてあげるね。』
アリスは懐に手を入れる。折り畳まれた棒状の物を掴み振った。
ジャキン!
組み立てられたのは大きな鎌だった。アリスは慣れた手つきで鎌を回転させ片手に構える。
鎌を装備したことでひとり雑魚から卒業したアリスに、ユリとアルマは悲鳴を上げ大きく後ずさった。
『追いかけっこの続きしよう?30秒待ってあげるね。』
「み、短いです!5分で!」
『そう?じゃあ1分はどうかな?』
「もう一声!」
アリスと交渉を繰り返し、なんとか3分待ってもらえることになった。ユリはアルマと共にその場から逃げ出した。
アリスが待ってくれている間に少しでも遠くに行かなければ。しかし、ユリは体力Eと筋力Eである。すぐに息が上がり心臓が弾けそうになる。
先に進んでいたアルマが大丈夫?と気遣ってくれる。
「ゼェゼェ…ゲホッ…」
話すのもしんどい。走ってるつもりなのに歩く時と同じ速さになってしまう。このままではアリスに捕まるのも時間の問題だ。
「にゃあ…」
アルマが同情するように鳴く。雑魚は大変だね…できることなら自分の体力と筋力を交換してあげたい。と、言っていた。
その言葉に呼応しアルマが青く光る。飲み込んでいた能力交換の魔石が発動したのである。
「にゃああ!?」
アルマの体力Bと筋力Cがユリに入れ替わった。
「おお!こんなに走れるの初めてです!ありがとうございます!」
「にゃ!?げほっ…」
ユリは猫のように颯爽と走れるようになる。対しアルマは急に訪れた息切れと動悸に耐えきれず地面に伏した。
そう、アルマは魔法が使えないだけでなく体力も筋力も最低レベルで何の取り柄もない不器用な雑魚猫に成り下がってしまったのである。
ユリは威厳が地の底に落ち悲愴に暮れる最弱な魔法使いを抱っこして走る。
アルマが「にゃあ」と地を這うような鳴き声をこぼす。能力が入れ替わっている間はいいけど、能力を戻した時に体を酷使した反動があるかもしれない。できるだけ無理はしないように。と、忠告してくれていた。
「りょーかいです!」
しかし、平面を移動していてはアリスから逃げ続けるのは難しい。体力にも限りがある。どこか身を隠せるところはないだろうか。
それならアヴァロンの城はどうだ。
アヴァロンの城なら部屋も多く敵の侵入も考えて通路が入り組んでいる。時間稼ぎにはなるはずだ。
「そうですね!……え?」
ユリ達はアヴァロンの城へ向かった。
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