終章

1話 罠


 アヴァロンの国のセントラルとは二年前に王国軍と冒険団の抗争があった地点である。そこには炎で焼けた跡や破損した武器の破片などが落ちており当時の傷痕が今でも残っていた。


決戦の当日。ユーキ、エデン、アルマの後ろをユリは緊張した面持ちで歩いていた。昨夜青龍のダンジョンのマッサージルームにて、ユーキより話があった。自分の魔力SSは時が止まっている。だから気をつけろと。


自分の魔力SSが敵に渡ったら世界が崩壊するかもしれない。そのため、奪われないように気をつけながらグレイとシロナを助ける手立てを探さなければならなかった。



 ユリ達は指定の場所へ到着した。


「どうも。約束通りのうのうとお越しいただきありがとうございます。親愛なる我が王よ。」


ロアが恭しく一礼する。その背後には50人程の武装した部下が待機していた。アリスの姿はない。


周囲には石化した人間が散りばめられている。威力の高い魔法を放つと石化した人々が砕けてしまう可能性がある。エデンとアルマの魔法を封じる手が打たれていた。


その中には体の一部を砕かれたモンスターペンギン達の姿もある。モンペンが探しに出て行ってしまっていたがここにいるとは思いも寄らなかった。


「ロア、お前ってほんと姑息だね。」


「周到と言っていただきたいですね。相手は最強、当然の対策でしょう。さぁ交渉といきましょうか。」


ロアはエデンの嫌味を意に介さず続ける。


「こちらの要求は青の魔法陣と魔力SSの能力です。我が王、そこの雑魚、ここに来なさい。余計な動きをしようものなら速攻でモンスターペンギン達の石化を解きます。あ、今更とぼけても無駄ですよ。そこの雑魚の魔力がSSで止まっているのは一目でわかってますから。」


「!?」


ユリは絶句する。交渉どころか一方的な脅しである。ここにきて早速ロアの罠にかかっていたことを思い知る。ロアは初めから戦う気などなかった。モンスターペンギンを人質に取られた時点でロアの勝利は確定していたのだ。


「ロアァ…!」


エデンが怒りに震える。


「ぷくくくく…くははははははは!!はっははははははははは!!

…ほら、さっさとここに来なさい。モンスターペンギン達を見殺しにするのですか?」


エデンは悔しげに拳を握り足を進める。ユリもそれに続いた。


前回のようにどうにかしてロアから能力交換の魔石を奪えないだろうか。ロアを観察していると急に能力が交換される前の感覚が湧き起こる。


「え、あれ!?」


「まさか前回と同じ手が通じるとでも?雑魚で馬鹿とは救いようがありませんね。まずはお前の魔力SSをいただくとしましょう。」


ロアは能力交換の魔石を隠し持ちすでに発動していたようだ。


能力交換の魔石によりユリの魔力SSとロアの魔力Sが入れ替わる。それに伴い器用SSは器用Sになった。


「ははははははははっ!!素晴らしい!!これが時が止まった魔力SSですか!?雑魚には勿体ない力でしたね!!

…まだいたんですか?我が王との対話の邪魔ですよ。消えてください。」


ロアに用済みと言わんばかりに背中を蹴り付けられる。


「あぐッ!?」


蹴られた勢いのまま吹っ飛ぶ。背中から嫌な音が聞こえ下半身の感覚が遠くなった。ユーキが抱き止めアルマが『回復』の魔法をかけてくれる。痛みも感覚も一瞬で元通りになった。しかし、ユリはパニックだった。


「い、いいいいいまのがもしかして下半身不随!?というか魔力SSを奪われてしまいました!?どうしよう!?私のせいで世界が終わっちゃう!?」


「そういうこともある。」


「ないですよ!」


ユーキにツッコミを入れたことで少し平静を取り戻した。気を取り直し考える。能力が交換される際ロアの左の懐から異質な魔力が感じ取れていた。


「反撃です。」


ユリはパキッと手を鳴らした。





「ああ遺憾であります我が王よ!今までネズミのように隠れて人々を放置してまでいたというのになんなんですかこの体たらくは!?そんなんであなた様が勇者を名乗ってよろしいのですか!?」


「……うるさいよ。」


エデンはロアの罵詈雑言にひとり耐えていた。ロアがウザ過ぎて斬りたい。先に解放されたユリが羨ましい。


そこに風を切る音と共に棒状の何かが飛来し通り過ぎた。


ロアが「へあ?」と間抜けた声を発する。ユーキの投げた剣がロアの衣服の左端を切り裂いていた。破れた懐より能力交換の魔石がこぼれ落ちる。


「ユーキナイス!」


魔石を奪えるチャンスである。エデンはすぐさま魔石を蹴りアルマへパスする。


「がぼ!」


魔石はアルマの口にシュートされた。


ごくん。


「あああああああああ!?ああああああああ!?」


ロアが絶叫する。エデンも内心穏やかではなかった。


「やっちゃった?」


やっちゃったとアルマも頷く。人一倍不器用な彼女。飲み込んだものを吐き出すような芸当などできるはずもなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る