20話 決戦前日②
「良かった。元気出たみたいだね。」
マッサージ室から出た後、エデンは温泉に向かうことした。明日のロアとアリスの戦いに全力で当たるためにも英気を養おうと思ったのだ。
「にゃあ。」
その途中で白い猫アルマに声をかけられた。
「やぁ、アルマ。一緒に温泉入る?」
アルマは首を振る。温泉は好きではない。それよりもユリの魔力が今どのように見えたか確認したいとのことだ。
「うん…魔力SSのままだったよ。」
アルマはそっかぁ…と落ち込む。彼女は何かと自分を責める節がある。ユリの魔力がSS。つまり青の魔法陣を持っている自分同様、魔力SSを持っている彼女もまたロアに狙われ続けるということだ。
「どういうことだ?今のあいつにはアルマの魂はないんだろ?」
話が聞こえてしまったのかユリのお付きユーキが近づいてくる。
正直彼には隠しておきたいことだった。聞かれてしまっては仕方がない。
「ユリちゃんの魔力が時の魔石を飲み込んだ影響で魔力SSのまま時が止まってる。」
時の止まった魔力SS。それはどんな高質な魔法でも永遠と使うことができるものだった。魔法の才能がない彼女では器用さとなるだけであるがロアは違う。
ロアに能力交換の魔石でそれを奪われるようなことがあったのならそれだけで世界が崩壊に向かう可能性がある。
ユーキがその意味を理解したのか息を呑む。
「お前、それをわかった上であいつを明日の戦いに連れていくつもりだったのか?」
「……。」
返事をしないでいるとユーキが舌打ちをしてユリのいるマッサージ室に向かっていった。アルマと残される。
「……怒るのも当然だね…。」
ユリが戦いに参加することで彼女を危険に晒すだけではなく魔力SSを奪われ世界が崩壊するかもしれない。同時にグレイとシロナの助かる可能性が少しでも上がるかもしれない。自分の願望のために世界を道連れにすることも厭わない。それに躊躇しなくなったのは自分の本質が勇者ではなく魔王だからなのだろうか。エデンは自嘲する。
「にゃあ。」
アルマが一緒に温泉に入ろうと誘ってくれる。
「…うん、入る。アルマはほんと不器用で可愛いね。壊したくなる。」
「!?」
エデンは「嘘だよ」と笑い愕然としている彼女を抱っこして温泉に向かった。内心、アルマを殺したかった魔王ディーンの気持ちがわかる気がするのだった。
◆
ユーキはマッサージ室に足を踏み入れた。
「すぴー…すぴー…」
ユリはマッサージを受けながら寝落ちしていた。一気に気が抜ける。
その寝顔は起こすのも躊躇われる程に安らかだった。過去にひとりで残り半年の間隠れていたのだ。漸く落ち着いたのだろう。
寝ている彼女の横に座る。起きたら話をしなければならない。
ロアはユリの異変を知らない。アルマが生きているのであればユリの魔力がSSで止まっているとは考えもしないはずだ。
明日の戦いについては彼女のためにも世界のためにも間違いなくユリを連れて行くべきではない。アレキサンダーの天空の神殿にでも置いていくべきだろう。
ふとアレキサンダーに言われたことを思い出す。
自分が何故雑魚な彼女を危険な旅に連れ回しているのか。
なんとなく彼女からもらった足跡の手紙を広げてみる。
この手紙は彼女が待ち合わせ場所を指示するために使ったものだ。他にも何らかの気持ちが込められている気がした。手紙の裏表を観察する。やはり何の文字も書かれていなく猫の足跡が押されているだけだ。
「わかるかよ。」
いくら見ても解読できずため息を吐く。
ユーキは元来他人との関わりを断つ傾向のある人間である。そのため、他人の気持ちを推し量るのは苦手であった。
自身の心境にもまた鈍感である。
人間や魔物をどんなに殺そうとも感性が働かない。まるで生まれつき機械的にものを壊し続けられるよう特化されているようだ。
それでもユリやモンペンと滅茶苦茶な旅をするに連れて多少思うようになってきてはいるが。
理由は特にないがこの手紙に隠されている意味については自分で気づかなければならない気がした。
ユーキは寝ている彼女の横でその手紙を見つめ続けた。
⭐︎終章に移行します。
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