19話 決戦前日①

 青龍のダンジョンにて。ユリがユーキとモンペンと共にダンジョンに戻るとエデンがアルマをおんぶをした状態で待っていた。


二人の仲睦まじい行為とは不釣り合いな神妙な顔つきに何があったのか訳を尋ねたところ、モンスターペンギン達が石化されロアの人質に取られたことがわかった。


「そんな…ひどいです!」


「最悪だよね。ロアに従うのは解せないけど、モンスターペンギン達を死なせるわけにはいかない。明日アヴァロンの国のセントラルに行こう。ロアとアリスと蹴りをつけるよ…!」


エデンは口調こそ普段通りだが全身から殺気が溢れている。モンスターペンギンを人質に取られたことに相当キレているようだ。


モンペンは思い詰めた表情をしている。無理もない。無関係である自分の仲間が巻き込まれた挙句惨い仕打ちを受けているのである。


--そっか…。皆は俺の家族を助けるためにロアと戦おうとしてくれてるんだな…。


「モンペン…」


--それなら俺は石化した家族達を見つけ出して元に戻しておいてやるぜ!


「モンペン?」


突然の展開に頭が着いていかない。まさか今から探しに行くつもりなのか。すでに夜遅く外は真っ暗である。


それに砕かれた家族を奇跡的に見つけたとしてこの不器用な鳥モンペンに家族の体を元に戻せるイメージが全く湧かない。


モンペンを止めるべきだ。結論が出た時にはモンペンの姿はすでに目の前から消失していた。


「モンペン!?」


モンペンは石化した家族を探しにダンジョンから出て行ってしまったようだ。


「モンペェェェン!!?」


ユリの悲しい叫びは家族を探すことでいっぱいになっているモンペンの頭には1ミリも残らなかった。



 マッサージ室にて。ユリはアルマと体を交換して元の人間の姿に戻った後、魔力で動くマッサージ機を受けながら呆然としていた。


明日はロアやマリスとの決戦である。モンペンがいない今自分ができることなど高が知れている。ただの足手纏いである。


不甲斐なさに涙が出てくる。


「うっぐすっうぇ」


「ユリちゃん。」


「はいどうかしましたか!?」


突然のエデンの来訪に慌てて涙を拭い起き上がる。


「急にごめんね。君にちゃんとお礼を言おうと思ってさ。」


エデンは気にした様子はない。情けなく泣いているところは見られなかったようだ。


「ユリちゃん、半年の間アルマの体を守ってくれて、アルマを助けてくれて本当にありがとね。」


ユリはその言葉に感慨深いものを感じた。自分の旅は勇者の力になりたくて始まった。その使命を果たした気がしたのだ。


「こちらこそ、勇者様の力になれて光栄に思います。」


「事が終わったら君に思いっきりお礼がしたいな。何かしてほしいことない?なんでも言ってみて?」


アルマを助けたかったのは自分も同じ。礼など不要である。しかし、エデンはお礼をしたくて仕方がないようだ。


「じゃあ食べ放題に行ってみたいです。」


「いいけど、そんなんでいいの?」


「はい!皆で行きたいです!」


「……。」


エデンは俯く。それを見て自分がまたしても無神経なことを口走ったことに気づく。


皆で食べ放題に行く。それがどれだけ難しいことか。


石化しているボドーやマイはロアを倒せれば恐らく助かるだろう。だが、エデンの友人であるグレイとシロナは絶望的なのだ。


アリスを宿しているシロナは精神を食われている。アリスを引き剥がすことに成功したとしても廃人となった彼女が残るだけだ。


それに、その兄グレイはロアに肉体を食われてしまっている。間違いなく死んでいるのである。


「す、すみません…私また…余計なことを…」


「ありがとう。」


「え?」


エデンは会心の笑顔だった。


「二人を諦めないでいてくれてありがとう。不器用な僕は戦うことしかできないけど君は違う。どんなに小っちゃな可能性も雑魚な君だから見つけられる。アルマも君のそれに助けられたんだよ。」


その言葉は温かく響く。戦うことができないからこそ、雑魚だからこそできることがある。そう言ってくれているのである。


「君の雑魚はステータスだね。」


エデンはそう言い残しマッサージ室から出て行った。


雑魚な自分が肯定された気持ちだった。胸が熱くなる。


戦う力がなくていいのだ。自分にはそれを担う最強の仲間達がいる。自分は器用な雑魚にしかできないことをすればいい。


グレイとシロナを助ける方法を探そう。今手立てが浮かばなくても良い。ほんの少しの可能性を見逃さないようにしよう。


「アルマさんの魂を交換する魔法…ロアの人を食べたらその人の姿と能力を得られる魔物の特性…能力を交換する魔石…記憶は魂に刻まれていて魔力も魔法の才能も同様である…」


ユリはマッサージを受けながらブツブツと考え続けた。

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