18話 調和

 ユリ達は勝負に勝ち、調和の王を従えることに成功した。


『女の子を投げるなどよくあんな卑劣な真似ができたものだな。君は人間の皮を被った悪魔か?』


「いきなり飛んで逃げた鳥に言われたくないな。そんな甘々な性格で勝てるとでも思っていたのか?」


『すまない、君がまさかユリをあそこまでど下手くそに投げるとは夢にも思わなくてな。』


「それが負けた鳥の言い草か?まぁその中身のない鳥頭では立場が理解できないのも当然か。」


ユーキとペン子との間で静かに火花が弾ける。ユリとモンペンは間に入り必死に二人を宥めていた。


ユリは内心泣きたくなる。ペン子はほとんど面識のないはずのユーキを何故かとてつもなく嫌っている。ユーキはユーキで自分を嫌っている相手と態々仲良くするような人間ではない。二人の間を取り持つのは困難だった。


諦め話を進めることにする。


「ペン子さん。あなたを宿すには私は力不足です。なので、アルマさんにあなたの力を貸していただけませんか?」


『そうだな。災厄はすぐそこに差し迫っている。急いで向かうとしよう。しかし、ユリ。君は私の主となったのだ。もっと堂々と命令したまえ。』


「友達に命令なんかしたくありません…。」


『君は相変わらずだな』とペン子は困ったように笑う。頭にペン子の龍の指がそっと乗っかった。


『ユリ、私も君を信じよう。君はこれから訪れる残酷な戦いに身も心も打ちのめされることだろう。だが、君達ならきっと器用に不器用に乗り越えられる。そう信じているよ。』


ペン子の龍の姿がアルマの元へ向かうべく光の粒子に変わっていく。


『しばしお別れだ。欲を言えば君に本当の名で呼ばれたかったな。』


「え!?ペン子さ…」


瞬間、ユリの頭に知らない情景が映る。崩壊していく世界にて。隣を歩いているのは白いモンスターペンギンモンペン。自分を乗っけてくれているのは黒いペンギンだった。


--君は相変わらず無茶をしてくれるな。君を守る私の身にもなってくれ。


黒いペンギンは困ったように、しかし満更ではないように笑っていた。ユリは日頃の感謝と彼の名前を言ったのだった。


ユリは光の粒子となってアルマの元に旅立つ彼に叫ぶ。


「いつもありがとうございます!アレキサンダー!」





 アルマのお墓のダンジョン改め青龍のダンジョンにて。エデンはユリの姿で寝ているアルマのそばで彼女が起きるのを待っていた。


自分が殺してしまったと思っていた彼女が今生きてここにいる。それがどれだけ嬉しいことか。


アルマが目を覚ます。


「あ、おはよーアルマ。」


自然と笑顔になる。ようやく彼女とお喋りができる。


アルマは返事をせずに静かに聞き耳を立てている。何かを察知したのか走り出した。


ずでーん!


アルマは一歩目で思いっきり転んだ。半年ぶりの人間の姿。人一倍不器用な彼女が走れるわけがなかった。


エデンはアルマをおんぶして彼女が行きたがっていたボス部屋へと足を進めた。


そこには黒い霧を口から苦しげに吐き出す青龍がいた。


「青龍ちゃん!?大丈夫!?」


『エデン君…黒い霧がダンジョンを覆ってるの…もうだめ…アルマちゃんを連れて早く…転移を…』


言い終える前にぴたりと青龍が止まる。自分達を見て口を歪めた。


『みーつけた!』


「!?」


青龍から黒い霧が一気に放たれ正常な空気を侵食する。青龍にアリスが乗り移った。それに気づいたと同時に急速に生気を奪われアルマと共に地面に臥していた。


「う…アリス…なんで…」


『封印されているダンジョンがあったからここかなって思ったの。一発で当たっちゃった。』


体に力が入らず意識が朦朧とする。このままではアルマも自分も終わってしまう。


その時、光の粒子が壁をすり抜け現れアルマに宿る。


アルマは力を振り絞り手を前に翳した。



      『調和アレキサンダー



彼女から波紋が広がっていき、黒い霧が中和され消失した。


「これは、調和の精霊の力…?」


何故アルマに。状況がわからないがしめた。黒い霧がなければアリスを捕まえることも可能だった。


しかし、アリスの無邪気な笑顔は崩れない。


『あらら。もっと遊びたかったのに。ざーんねん。』


青龍から精霊アリスの黒い光の粒子が抜けダンジョンの壁をすり抜けていく。


アリスは生気を奪った相手の体を自由に乗り移ることができる。近くにシロナの体でも置いておいたのだろう。


青龍はぐうぐうと寝ている。短時間だったからか意識は大丈夫そうだ。


「アルマ、アリスを追うよ!」


「にゃあ!」


アルマをおんぶしてダンジョンの入口に走る。


「!?」


エデンはアリスを追うのをやめ絶句した。ダンジョンの入り口に石のかけらが10個程落ちていた。



石化したモンスターペンギンの体の一部である。



どれも目や頭等の致命的な部位ばかりだった。


手紙が落ちている。


『親愛なる魔王様


明朝アヴァロンの王国の『セントラル』に来てください。

来なければこの魔物達の石化を解きます。


あなたの忠実な僕 ロア       』


何の関係もないモンスターペンギン達が石化された挙句人質にされた。はらわた煮えくり返るほどの怒りとはこのことだろうか。


「最悪…!」


エデンは手紙を握り潰した。



 

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