17話 ペン子の謎②

 調和の王。それは世界の調和を保つ使命を持つ上位の精霊である。


能力は調和で攻撃手段は持たない。時にペンギンに化け魔王を助け、時に人間に化け仕事を依頼する。そのようにその使命を遂行していた。


最初の世界にて。魔王が最強の魔法使いの死をきっかけに青の魔法陣を都合の良い器に移動させようとする事態が起きる。


その器は剣技に才能があり青の魔法陣を得ることで世界が崩壊に向かう恐れがあった。


調和の王はそれを阻むべく何の取り柄もない雑魚に青の魔法陣を託した。その者が後に器用となることも知らずに。


雑魚な彼女はしぶとく生き、青の魔法陣は元の器に戻った。そしてより悪い事態が起きる。


あの剣技に才能のある男が魔王を貫いた。それにより青の魔法陣がその男に移ってしまったのである。

 




「みんなが頑張ってるのに自分達だけ安全なところにいたくありません!ここから出してください!」


『それはできない。その必要性がない。』


ユリの必死な訴えは調和の王ペン子に届かない。ペン子は断固として要求を受け入れる気はないようだ。


どうすればいい。いや、精霊を従わせる方法が一つある。ユリはユーキとモンペンを見る。


「二度言わせるな。」


--お嬢!兄ちゃんを叱ってやろうぜ!


ユーキとモンペンが戦う意志を見せる。


ペン子は半年もの間ひとりぼっちだった自分を支えてくれた。そんな彼と本当は戦いたくない。でも、エデン達や地上の人々を見捨てることなどできない。


ユリも覚悟を決める。


「調和の王、あなたに勝負を申し込みます。」


精霊との勝負。それに勝ったらその精霊を従わせることができる。この神殿から出すように命じることができるのだ。


『これは参った。その申し出を断る権利は精霊には持ち得ない。だが、その代わり君達が負けたら私に従ってもらうが良いな?』


「構いません。」


『では、勝負の内容だ。5分の間に私に一撃入れることができたなら君達の勝利としよう。』


「え、それで良いんですか?」


勝負の内容が想像の10倍以上優しい。ユリは拍子抜けする。


『気に食わぬか?それではどちらかが果てるまで』


「いいですいいです!それがいいです!是非前者でお願いします!」


『良し。それでは始めよう。』


調和の王は翼を大きく広げ遥か上空へ飛び上がっていった。


「…モンペンって飛べましたっけ?」


--無理!


調和の王への攻撃が届かない。ユリは絶望した。





 ユリ達は予測しなかった事態に大変焦っているようだ。あれこれと必死に論議している。


調和の王はそれを遥か空から眺めていた。彼女達が危ない目にあっても傍観していた時のように。


『すまない。』


天空から謝っても彼女達には届かない。わかっていても謝らずにはいられなかった。


これから訪れる災厄に勝機はない。せめて君達だけでも守ってやろう。それが青の魔法陣を彼女に宿した自分の償いだ。


それにしても前の世界は良かった。魔法使いが本当に死亡している世界だ。雑魚な彼女があの男に置いていかれモンペンと共に自分を頼ってくれたのである。


好奇心から彼女にわざと負けてみた。それはもうとても喜んでいた。「雑魚なのに勝っちゃった」と。彼女に従いモンペンの兄として姿を変え共に新しい魔王を追った。その旅は本当に楽しかった。


しかし、世界は崩壊に向かい彼女は散った。理由は明快。危険な旅を自分が許してしまったからだ。


時の魔石で世界は逆行し再び彼女を守る機会を得た。この世界では絶対に死なせない。閉じ込めてでも守ってみせる。例え、彼女の心を蔑ろにしようとも…!


調和の王がそのようなことを考えていた時、ユリ達が妙な動きを始める。ユーキがユリの猫の体を掴み、モンペンは目を瞑っている。


『何をする気だ?』


ユリの顔は恐怖で引き攣っている。しかし、その男は無情にも振りかぶる。


『まさか!?』


届くはずがない。にも関わらずその男はボールのように彼女を思いっきりこちらに投げた。


「みゃあああああああ!!」


ユリが泣きながら悲鳴をあげる。


『私の宝物を粗雑に扱うなああああ!!この鬼畜性悪魔王があああああ!!』


風に遮られ虚しく落下していくユリの元へ行き彼女を掬い上げる。その体は恐怖のためか気の毒な程震えていた。


『ユリ!ああ、かわいそうに!もう大丈夫だからな!?』


カプ


ユリに手を噛まれた。


「い、一撃です!これで私達の勝ちです!」


調和の王は絶句する。届かないなら誘き寄せる作戦だったようだ。


『フリだったのか…まんまと騙されたよ…しかし、怖かっただろう?あの男はなんて酷いことをするんだ…。』


「ご、ごわがっだでず…。」


ユリを落ち着かせるべくそのまま彼女と空の旅をする。


「でも、言い出したのは私なんです。ユーキは私を信じてくれただけです。」


『…そうか。』


信じ合っている故にこんな危険なことをしたのか。その関係を羨む自分を嘲笑する。


「私はあなたを信じました。きっと助けてくれると。モンペンも同じです。」


『……。』


「ペン子さん、みんなで必ず生きて帰ります。だから、あなたも私達を信じて手を貸してくれませんか?」


調和の王は苦笑した。やはり器用な彼女には敵わないなと。





※追加【登場人物の紹介】

○ユリ一行

ペン子:

黒いペンギン。つぶらな瞳をしている。その正体は上位の精霊で調和の王。END1『器用と、不器用と』の後の仲間。性格は過保護。

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