16話 ペン子の謎①
スコールの神殿跡にて。ユリは猫の姿でユーキとモンペンとの半年ぶりの再会を喜んだ。その後、過去でアルマを魔王から助けた後のことを説明する。
アルマの魂がユリに宿った後のアルマの抜け殻となる体をどうするかという問題があった。魂がなければ肉体が滅んでしまう。猫の鳴き声が頭に響いた時、ユリは今の自分がアルマと自分の二つの魂を持っていることに気がついた。そのため、アルマが過去のユリに宿り、抜け殻になるアルマの体にはユリが宿ることになった。自分の体は元々あったアルマの魂と共に未来に戻っていった。その後、ユリはアルマを死んだと見せかけるため彼女の隠れ家に身を隠すことにした。
それから半年後のアリスが活動を始めた頃、ユリは被害を最小に抑えるべく隠れ家から出てアリスを人里から離れた地点へ誘導して回っていたのだった。
「アリスは遊ぶように私を追いかけ回してたんですけど、先程『飽きちゃった』と唐突に姿を消してしまったんです。何か嫌な予感がします。ユーキ達にこのことを伝えたくてこの待ち合わせ場所で待っていたんです。」
無事伝えることができて、束の間でも二人に会うことができて良かった。安堵しているとユーキが意外そうな顔で見つめていることに気づく。
「何か?」
「アリスに追いかけ回されていただと?お前、黒い霧を浴びて平気だったのか?」
「はい、特に。」
「どういうことだ…?」
「半年経ちましたからね。私だって多少なりとも成長してます。こう見えて精神年齢19歳の大人の女性ですよ。」
ユーキは「そういうことじゃねぇ」と頭を掻く。
「さて、私はそろそろ行こうと思います。ユーキとモンペンにまた会えて嬉しかったです。アリスはいつ姿を見せるかわかりません。だから」
「だから何だ。このまま共に行動すればいい話だろ。」
「え?でも、危険です。」
「俺の旅に強引に着いてきた者の言い草ではないな。」
ユーキは譲らない。モンペンに助けを求めるがモンペンもぶんぶんと首を振った。
--お嬢!だめだぜ!ひとりぼっちは寂しいだろ!これからは一緒にいてやってもいいんだぜ!
--それは良いことを聞いた。
--どわぁ!?に、兄ちゃん!?
黒いモンスターペンギンペン子がいつのまにかモンペンの真後ろに寄っていた。
ユーキが警戒し剣を抜こうとする。
「大丈夫ですよ。ペン子さんは味方です。過去でも私達に協力してくれたんです。私が隠れ家に籠っている間も食べ物を持って頻繁に会いに来てくれたんですよ。」
笑いかけるがペン子は無表情で頷きもしない。
「ペン子さん?どうかしましたか?」
ペン子が背を向け「キュウ」と鳴く。すると、彼の前から上空に続く光の階段が現れた。
「え!?これは一体!?」
--君達に見せたいものがある。着いてきたまえ。
ペン子は階段を登っていく。見せたいものとは何だろうか。この階段は一体。ペン子に着いて行こうとしてユーキとモンペンを振り返る。
「…誰に気を遣ってる。」
--楽しそうだな!行ってみようぜ!
モンペンが人間の姿だった頃のように乗せてくれる。もふもふで暖かい久しぶりの感覚。半年ぶりに二人と合流できたのだと漸く実感した。
ユリ達は空からの風景を楽しみながら光の階段を登った。上空であるが不思議と息苦しさも日差しの強さも感じなかった。
雲をくぐると白く装飾された天空の神殿が姿を現した。天井はなく開けた造りである。
神殿の中ではガーゴイル達がチェスをしたりと自由にしている。『ちゃす』『ちゅす』と挨拶をしてくれ戦闘となる様子がない。
光の階段が消失する。
「え!?消えちゃった!?」
--これじゃ帰らんないよ!どうしよう!?兄ちゃん!
帰り道を失いユリとモンペンは焦る。対照にペン子は落ち着いていた。
--心配することはもう何もない。ここまでよく頑張ったな。ここは安全だ。
「ペン子さん?何を言ってるんですか?」
真意が分からずペン子に歩み寄ろうとすると、ユーキが踏み出しそれを制する。
「そろそろ正体を明かしてはどうだ?お前、モンペンの兄ではないんだろ。」
ペン子はユーキを見ない。モンペンとユリを見て困ったように笑った。
--すまない。
突如ペン子の黒いもふもふの体が光に包まれる。
そこから現れたのは白と黒の大きな翼を持つ漆黒の龍だった。
『私がこの天空の神殿の主、調和の王である。』
「ペン子さんが調和の王!?」
過去で精霊スコールに聞いた名前だった。アリスに対抗できる力を持つ上位の精霊であると。
『私の力は『調和』である。私の本来の力は魔力で構成されている攻撃を相反する魔力をぶつけることによってつり合わせ無効とする。つまり、アリスの黒い霧を無効化することができるのだ。ユリが黒い霧の影響を受けなかったのはそのためだ。この神殿の中なら私は本来の力を発揮できる。ここにいる限り君達三人の安全を保障しよう。』
優しいその声は非情に響く。ペン子は自分達をこの神殿に閉じ込めようというのだ。
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