15話 ロアとアリス
トピアの冒険団の拠点にて。ロアはエデン達の動きを考えていた。
(やれやれ、この策も通じませんでしたか。我らが天然王だけなら釣れると思ったのですが。)
投降しなければ一日一つの街を潰す。勇者ごっこに夢中である天然魔王エデンひとりであれば必ず釣れると踏んでいた。しかし、一緒にいる仲間によって阻まれてしまったようだ。ならば、次の手である。
「アリス。」
『なぁに?ロアお兄ちゃん。』
呼びかけに応じアリスが転移してくる。黒い霧は抑えてくれている。
「アリス、次のゲームを始めましょうか。」
『なになに?どんなゲーム?』
「チーム戦です。あなたと私でネズミを追い詰めるゲームです。あなたにこの国のダンジョンを回っていただきたい。ネズミはそのどれかに隠れていることでしょう。」
『あは!わかった!ユリとの追いかけっこに飽きてきたとこだったの!頑張るね!』
「ユリ…?あの雑魚ですか?」
『中身はね。体は白い猫だよ。』
白い猫。思考が急速に回る。成程、つまり最強の魔法使いが表舞台に現れる可能性があるということか。時の魔石を使って何らかの手を打ってくるとは思っていた。ロアはテンションが下がりため息を吐く。
アリスは無邪気にくるくると踊り始める。
『ネズミさん達を捕まえたらどれで遊ぼうかな。ロアお兄ちゃんをいじめたあの銀髪のお兄ちゃんに乗り移ってみようかな。そうだ、乗り移ったらお兄ちゃんでユリと遊んであげよう。それが一番楽しそう。』
アリスは恍惚とした顔で踊り続ける。
『お兄ちゃんの手であの雑魚な体をゆっくり壊してあげるの。優しく折って刻んで砕いて潰して捻ってもいで死にそうになったら回復してあげて何度でも何度でも繰り返してあげるの。きっと楽しいよ。』
ロアはドン引きする。よくもまあその可愛い顔でそんなことを思いつくものだ。
「楽しそうで何よりです。ですが些か悪趣味ではないですか?」
『あくしゅみ?どういう意味?アリスわかんない。』
アリスはわざとらしく首を傾げる。本当に、よくやるものだ。
『ロアお兄ちゃんも楽しそうだね。』
「そう見えます?」
『見えるよ』とアリスが座っている背後から肩に巻きつく。まるで心の動きを捉えようとしているかのようだ。
楽しいわけがない。自分は忠臣であるにも関わらず敬愛なる魔王を追い詰めようとしているのである。
先日の身も心も打ちひしがれ芋虫のように地面に転がっている姿を思い出す。胸が痛まないわけがない。
「ぷ…くくくくくく…くはははははははははははははっ!!はっははははははははははははっ!!」
何故か気持ちが高ぶる。アリスも『ほらね』と笑う。楽しいわけがないのに笑いが止まらない。自分でもよくわからなかった。
『ありがとう。ロアお兄ちゃん。私を出してくれて。おかげでとても楽しいよ。私すっごく寂しかったの。』
最悪と言われている虚無の女王アリスを世に放つ。我ながら思い切りの良いことをした。
精霊は何十年もの間神殿に封印されているため強い寂寥感がある。アリスは最悪と敬遠されていたため尚更だ。それに、ただでさえ幼い心の持ち主である。それを利用しない手はない。
アリスを味方にするために無知な旅人をアリスの元に誘い乗り移らせた。そのように、まずはアリスを信用させる。
後はアリスを様々な人物に乗り移らせ上級の魔法使いシロナに近づける。アリスがシロナに乗り移ったらオマケのように兄であるグレイも手に入った。
グレイは生気を奪う黒い霧を浴びているのに「妹を解放しろ」だの「俺の国に手を出すな」だのずっと繰り返していた。大した精神力の持ち主だ。
面白かったから生きたまま食らったが。
我が王エデンが気を許している友人グレイ。言わばこの姿は魔王にとって痛恨の剣であり盾である。
アリスは生きたまま食らう行為に感激したようだった。精霊アリスの秘宝『時の魔石』を授けてくれた。それによりスコールの石化の能力も手に入れることができたのだ。
「礼には及びません。私は私の夢があってしたことですから。」
『うん、そうだね。私にもあるよ。私の夢。一緒に叶えよう?』
アリスが甘く囁く。
『ひとりひとりに甘美な絶望を。』
「世界に辛酸な絶望を。」
アリスが頬にキスをする。まるで仲の良い兄妹のようだ。
そっちが最強を切り札とするならここからは存分にこの最悪な精霊を利用させてもらう。
最強と最悪どちらがこのゲームを制するか。
さあ、始めましょうか。
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