13話 過去② アルマの真相

 半年前、クライスの街にて。


『ここは何処だ?』


魔王ディーンは道に迷っていた。魔女アルマを殺そうしたら謎の雑魚とペンギンに阻まれ、しかも適当に追っていたら現在自分がいる場所すらも見失ってしまったのである。


ここまでしたのだ。この機を逃さず目障りな魔女を消してしまいたい。今日のためにどれだけ辛抱したことか。


あの魔女がいるために自分は弱小なる人格に抑え込まれている。あの魔女さえいなければ今も魔王として健在であるはずだった。なのに、そんなものと仲間だ何だとべたべた触れ合うなど。


疎ましい。忌まわしい。煩わしい。吐き気がする。


無感情の王である自身がそれを感じることもまた気味が悪い。


思考しながら歩みを進めていると、林の近くで後ろを見せている魔女アルマを発見する。雑魚とペンギンの姿はない。何かを察知したのかエデンの人格が急速に浮上する。


『滅べ。忌々しい魔女が。』


肉体の支配権をエデンに奪われる前に『滅び』の魔法を放つ。


魔女の無防備な腹部をその魔法は貫いた。『滅び』の効果により魔女の体が分解されていく。


ディーンは確かな充足感を感じつつ肉体の支配権をエデンに奪われた。





 ユリはアルマと共に林の影に隠れそれを見ていた。


「うまくいきましたね。」


「にゃあ。」


ユリがアルマとペン子と共に考えた作戦とはアルマの死を偽装し、その後未来が変わらないように事象をなぞっていくというものだった。


アルマの死を偽装する方法として、ユリはペン子のお腹にある白い羽毛を全てむしり器用にアルマのぬいぐるみを作り上げた。


即席軽量ではあるがアルマ本人の帽子を被せたその姿は本物の様。暗闇もあり魔王ディーンは本物のアルマと思ってくれたようだ。


少し後ろにはお腹が禿げ哀愁を漂わせているペン子。


少し先にはアルマの帽子を握りしめ泣き崩れているエデンがいる。


胸が痛む。今すぐにでもエデンにアルマが生きていると伝えたい。しかし、未来が変わらないようになぞるとすると、エデンにはアルマが死んだと思わせなければならない。


その時、青い魔法陣がエデンより離れる。変調な動きで飛ぶそれをペン子が慣れた手つきで捕まえた。


(え?捕まえた?捕まえちゃった!?捕まえられるんですねそれ!?)


青の魔法陣は『コシャクナァァァ』ともがき、ペン子の手から懸命に逃れようとしている。


「ペ、ペン子さん、それ捕まえてどうするんですか?」


ペン子は背を向けたまま語る。


--…これはどこの世界でも変わらない。私はこれを…この世界にとって最も都合の良い者に宿すだけだ。


この世界にとって都合が良い。よく意味がわからない。実際青の魔法陣が宿ったのは自分だからペン子は自分に宿してくれるのだろう。


「そういえば、アルマさん。田舎にいる私にアルマさんの記憶が流れてきたんです。何故かわかりますか?」


アルマは難しい顔で話す。記憶は魂に刻まれている。魔力や魔法の才能も同様である。


発明中の魔法であるが、精霊のように魂を移動させその人に自分の能力の一部を宿すというものがある。しかし、魂が二つ混在すると肉体が不安定になるため、どの能力がどう引き継がれるかはわからないとのことだ。


「それじゃ、未来が変わらないようになぞるためには、アルマさんの魂をこの時間軸の私に移さないといけないということですか…。」


魂を移動させるなど考えただけで危険な魔法である。それに、自分に魂が宿るのであればアルマは半年もの間エデン達から離れることになってしまう。


それでもアルマは「にゃあ」と頷いた。


君にずっと会いたかった。君をずっと探していた。半年後、一緒に遊んでくれると約束してくれるなら構わない。そう言っていた。


『ずっと』


ユリはその言葉の意味を悟り絶句する。一回目に過去に行った時のアルマとの出会い。それから何年もの間アルマは名前すら名乗らなかった自分をずっと探し続けていたのである。


過去で人物に接触するとはこういうことである。自分の軽薄な行動がアルマに何年もの間つらい思いをさせたのだ。


「ア、アルマさん…私…なんてことを…本当に」


謝ろうとして止める。アルマがつらさなど感じさせないくらい優しく笑っていた。ユリも涙を堪えて笑う。


「…自己紹介が遅れました。私はユリです。長い間私を探してくれて本当にありがとうございました…!」


ユリはアルマを抱きしめた。最強の魔法使いの体は柔らかく小さい。そして、泣きたくなるくらい優しい暖かさだった。


アルマは「にゃあ」と困ったように鳴く。でも、ユリの中に魂がある間抜け殻となる自分の体はどうすればいいんだろう。魂がなければ肉体は滅んでしまう。そう言っていた。


「アルマさんの体ですか?」


ペン子は背を向けたまま無言である。


ユリの頭に猫の鳴き声が響いた。



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