11話 過去① 恐怖の一行
過去にて。気がつくと、ユリは『クライス』の街の中に立っている。時間帯は深夜で目の前には勇者一行が休んでいた宿がある。
(日時良し場所良し。今回はうまくいったようですね。とりあえずアルマさんを連れ出して事情を伝えましょう。)
ユリは宿の鍵をピッキングし器用に忍び込んでいった。
勇者一行の休んでいる部屋に侵入する。寝ている一行を起こさないように静かにアルマのベッドへ進んだ。
(え?視線?)
何か異様な視線を感じ後ろを振り向く。
「!?」
そこにはベッドから起き上がりこちらを見ている勇者一行の格闘家ボドーの姿があった。
(ボボボボボボドーさんいつのまに起きて!?)
怖い。とてつもなく怖い。ボドーが暗闇の中こちらを凝視しているだけでも怖いのに起き上がる気配が全くなかったことも恐怖である。
「誰かいるか?いるよな?」
「いません。あっ。」
全身の血の気が引く。いないものがいませんなんて答えるはずがない。
「そうか?そうなのかな?」
ボドーは納得したのかイビキをかき始めた。
ベッドから起き上がったままである。
(え?ええ!?何が起きてるんです!?怖過ぎですよボドーさん!?)
ユリは心折れそうになりながらもなんとか持ち堪えアルマのベッドに進んだ。
アルマはマイの枕元で寝ている。そっとアルマを抱き上げようとした時、ユリの腕が突如掴まれる。
「ーーッ!?」
間一髪で悲鳴を堪える。自分の腕を掴んでいたのは勇者一行の剣士マイだった。
「気を…抜くなよ…。」
そう言い、マイの腕は離れた。
(寝言!?寝言ですよね!?やだもう怖いです!)
ユリは味方であるはずの勇者一行に襲われつつ、なんとかアルマを外に連れ出すことに成功した。
宿の外に出た時、ユリは心折れていた。夜空を見上げ涙ぐむ。
(帰りたい。でも頑張らなきゃ。)
涙を拭いながら束の間の癒しを求めて腕の中のアルマを眺める。目をキュッと結び気持ち良さげに寝ている。それに癒されていた時、
大ボスは背後に近づいていた。
『そこの弱者。』
「はひ!?」
真後ろからの声に心臓が飛び出る程に驚く。足元を見るとすぐ後ろにエデンの靴がある。
(エデンさん!?いや、この声はディーン!?エデンさんはディーンに支配されてしまっている!?だとしたらこれからどうすれば!?)
とりあえずアルマを守らなければ。慌ててアルマを服の中に隠す。
「な、ななななな何か?」
『白い猫を連れ出したな?』
「い、いいえ。」
『そうか?』
全身にディーンの怪訝な視線が突き刺さる。ユリは戦慄しながら気付かれないようにと祈ることしかできない。緊張はクライマックスを迎えた。
ぺろ
「ひゃうん!?」
急な湿った感触に全身が跳ねる。
ボトっとアルマが地面に落下した。
「にゃ?」
『「……。」』
かなり微妙な沈黙が訪れる。全員状況の処理に時間がかかっているのである。
『出産祝いをくれてやろう。』
先に処理を終えたディーンが破壊の力である青の魔法陣を手に出す。
『炎』
強力な炎の渦が迫る。エデンから自分達への攻撃。アルマは何が起きているのかわからず未だに呆然としている。
ユリはアルマを抱きしめ背に庇った。
--やはり、どの世界でも君は君なのだな。
その声に振り向く。黒いモンスターペンギン、ペン子が立ち塞がっていた。ディーンの強大な『炎』の魔法を全身で受け止めている。
『!?』
「ペン子さん!?」
ペン子はダメージを受けている様子はない。炎がペン子に当たる直前で消失しているようだ。
--ここは一旦退くとしようか。
ペン子はディーンが意表を突かれている隙に、ユリとアルマを抱え逃げた。
ユリ達はひとまず建物の影に隠れる。
「ペン子さん。ありがとうございました。あの炎を受け止めるなんてあなたは一体何者なんですか?」
--名乗る程の者ではない。それに今は時間がないはずだ。その猫を生かすのだろう?
「は、はい。」
ユリは首を傾げまくっているアルマに、自分が半年後の未来から時の魔石を使ってやって来たこと、そしてできるだけ未来を変えないようにアルマを魔王から助けたいことを説明する。
「それで、その魔王の正体が、実はエデンさんなんです…。」
ユリは言い淀みながら伝える。自分を殺そうとしている魔王がエデンである。大切な仲間が自分を殺そうとするなど信じたくないだろう。
アルマは動じなかった。
(あれ?まさか…)
アルマはエデンが魔王であることを知っていたのだ。
アルマはユリに言う。自分が死ぬのならその摂理を変えるべきではない。しかし、エデンには殺されたくない。殺されてしまったらエデンはその後苦しみ続けるだろう。
自分とエデンを助ける方法を教えてほしい。そのためならなんでもする。とアルマ。
--君のためなら。 とペン子。
「二人とも!ありがとうございます!」
こうして、ユリは過去にて最強の魔法使いアルマと謎のペンギンペン子と手を組んだのだった。
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