9話 魔法使いの謎③
「その日はね、『クライス』の街の宿で皆で休むことにしたんだ。」
エデンはアルマが死んでしまう日のことを語った。
アルマはマイと同じベッドで寝てたよ。僕もベッドに横になって早々に寝たんだ。
油断してたんだと思う。その日まで多忙で疲れてたし、しばらくの間ディーンの声も聞こえなかったからね。今思えば彼の策略だったんだろうね。
『滅べ。忌々しい魔女が。』
「!?」
久しぶりにディーンの声が頭の中で聞こえてね。気がついたら外にいて、すでに遅かった。
アルマのお腹を僕の手から放たれた魔法が貫いてたんだ。
その魔法は『滅びの魔法』って言ってね。当たるとそこから分解されて消滅してしまうんだ。
僕は急いで分解されていく彼女の元へ行こうとしたんだけど、
僕の手が届く前に彼女は散り散りに消えてしまったんだ。
「嘘…嘘だよね…?君が死ぬわけない…そうだよね?返事してよ…アルマ…アルマ…アルマァァァーーー!!」
その時のことは今思い出しても苦しくなる。目の前で彼女が死ぬところを見たんだ。しかも彼女を死に至らせたのは間違いなく僕の魔法だったのだから…。
『漸く煩わしい魔女を消すことができた。次はあの赤毛の女、その次は青毛の男だ。』
「…させない。」
僕は咄嗟に自分の首を斬ろうとしたの。アルマを失って自棄になってたのもあるけど、これ以上仲間を殺されるくらいなら全て終わりにしようと思ったんだ。
でも、躊躇してしまったんだ。
僕は生きていたかった…。
その隙を突くように青の魔法陣が僕から飛び出したんだ。
「あ!?」
『今、破壊の魔法陣が都合の良い者に宿るよう魔法を唱えた。お前が死ぬのは勝手だがその者が次の魔王となるだろうな。お前は無駄死にする訳だ。』
「……くそっ!」
僕が死んだところで青の魔法陣が宿ったその人が次の魔王に代わるだけだ。魔王の素質を持つ者がね。
「…殺すよ。青の魔法陣を宿した者を殺す。その後僕もろともお前を殺してやるからな…!」
こうして、僕はマイとボドーと旅を続けて、青の魔法陣を宿したユリちゃんを殺そうとしたんだよ。
エデンは話を終える。そういえばユリにちゃんとした謝罪をしていなかった。深く頭を下げる。
「謝って済むことじゃないけど…ごめんね…ユリちゃん…君を殺そうとして…本当にごめん!」
「あ、良いですよ。それよりもエデンさんのおかげで色々と整理できました。ありがとうございました。」
「良かったよ…」と苦笑する。誠心誠意込めた謝罪はユリにさらりと受け流された。今はアルマを助けることで頭がいっぱいらしい。
「つまり、私は二つやらないといけないんですね。まずは、アルマさんを魔王から助ける。その後、過去が変わらないようにする。でもそれぞれの方法がわからないんですよね。」
「それだよねー。」
ユリは必死に考えているようだ。エデンも話してる最中に抱いた違和感について考える。
ディーンの話では、都合の良い者に青の魔法陣が宿るように魔法をかけたという。結果、宿ったのはユリだった。しかし、彼女には魔王の素質がないし雑魚であるため簡単に殺せてしまう。最も都合が悪いようにも思える。
そういえば名前が似ている素質のある者が隣にいる。偶然だろうか。エデンはユリとユーキを見比べる。
「もし失敗したらすぐに戻ってもう一回行ってきて良いですか?」
「それはできないと思うよ。時の魔石の反応が薄くなってきてる。次で最後だよ。たぶん。」
「え!?それじゃチャンスは一度きりなんですか!?」
正確には最後にした方が良いである。ユリの中にある時の魔石がおかしい。飲んだせいかユリの魔力に混じり変質しつつあるようだ。何か不具合が起きても不思議ではない。今回で最後にした方が良いだろう。
ユリは懸命に考えを巡らせているようだ。雑魚故か何に関しても一生懸命でなんだか可愛い。
「そういえば、ユーキ、外部の偵察に行ってきたんでしょ?ロアやアリスの動きはあった?」
「…特に。」
「え、ほんと?二日目だよ?」
ロアと一戦交えてから二日経過している。周到なロアであれば何かしら動き出していても不思議ではない。
ユーキは目配せしてくる。言葉にせず何かを伝えようというのだ。
かくして、エデンは「りょーかいっ!」と合点した。
「モンペン、今から僕とお風呂に入ろう!」
--入らない!お前とはやだ!お嬢がいい!
カチン!
「…だ、大丈夫だよ?ほらおいで?照れてないでさあああ!!」
--ぎゃーーーー!!やだーーーー!!
エデンは嫌がるモンペンをなんとか持ち上げる。ユーキに両目でウインクした後、温泉に向かった。
◆
「…やはり天然ザルに察しろと言っても無駄だったか…。」
ユーキは嘆くようにため息を吐いた。ユリをアルマのことに集中させるべく、彼女の前でロアの話をするべきではないと伝えたかった。なのに、あの男は何か別のことと思い違いをしたらしい。
モンペンの叫びがダンジョン中に響き渡った。
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