6話 未来
エデンと別れた後、ユリは就寝室の布団に潜り込み深く自己嫌悪していた。
(ああ…私はなんてことを言ってしまったんでしょう…エデンさんの気持ちも考えずに…本当に救いようのない雑魚ですね…。)
しかし、そう思いながらもやはりアルマの生きてる未来を諦めたくない。
それにこんなに追い詰められている今が本当に最善な状況なのかも疑わしい。
エデンがそうしたように自分もアルマが魔王に殺されない未来はどのようなものなのか、想像してみることにした。
アルマが生きていることで勇者一行が魔王ディーンをなんとか倒しエデンを救う。勇者一行がロアとアリスをなんとか倒しグレイとシロナを助け出す。そんな幸せな未来である。
「……。」
そこで気づいた。
その幸せな未来にはユリ一行は登場しなかった。
アルマが死ななければアルマの魂がユリの元へ行かないため、ユリが田舎を出ることはない。
ユリと出会わないことでユーキはひとりで旅を続け心を閉ざしたまま人や魔物を殺し続ける。
モンペンや勇者一行に出会うこともない。
エデンが苦悩の末アルマの未来を諦めた理由だった。
ユリは無意識にアルマの未来と自分達の未来を天秤にかけていたのである。
「……!!」
体中の体温がいっきに失われ震える。なんてことを考えていたのだろう。容易く未来を変えようなどと自分は神にでもなったつもりなのか。雑魚の分際で。
「ユリ。」
不意に布団の外から声をかけられる。ユーキの声だ。
「あ、す、すみません、起こしてしまったのですね。どうかしましたか?」
ユリは布団をかぶったまま返事をする。その様は人に触れてほしくないカタツムリである。
「エデンとの話は聞こえていた。お前はアルマを助けたいのか?」
「……さあ…わかりません…。エデンさんは違うらしいですよ…。」
答えたくない。自分達の未来とアルマの未来。どちらを選ぶことなどしたくない。エデンのように考え続け苦悩の果てに選択する力もない。エデンがアルマの未来を諦めるなら自分もそれにならう。そんな雑魚な思いだった。
「そうか。それで、お前はどうしたいんだ?」
「…!?」
ユーキは淡々と尋ねる。自分がどんな思いで言っているのか考えてもくれない。ユリは配慮ができないユーキに強い嫌悪感を抱く。
「わからないって言ってるじゃないですか!これ以上話したくないです!もう放っておいてください!」
身を守るように布団の中に閉じこもる。これ以上誰も傷つけたくないし傷つきたくない。何も考えたくなかった。
「ユリ。」
「……。」
「…ユリ、俺には何でも言え。」
ユーキが静かに続ける。
「些細なことでもいい。無理難題でもいい。お前のやりたいことを俺は知りたい。それを俺も考えよう。だが、お前が言わなければ不器用な俺にはわからない…。」
ユリは空いた口がまさに塞がらなかった。以前の彼なら何を言ったところで無視されることが多かった。
「…な、なんでそこまで…?」
「…それが俺のやりたいことだからだ。」
そういえば、最近の彼は自分が何をしたいかよく聞いてくれる。つい先日もグレイを助けたいという自分の意思を汲んでロアを殺すのを止まってくれた。助けられる可能性などないかもしれないのに。
「……っ。」
ユリは涙を堪えられなかった。どんなに突拍子もない自分の考えでも耳を傾けようとしてくれる。こんなにも弱く折れやすい雑魚な心でも大事にしようとしてくれている。そう感じたのである。
「…本当は…アルマさんを助けたい…。でもできないんです…。アルマさんの未来と私達の未来のどちらかを選ぶことになるんです…。私には…とても選べません…。」
「俺達が揃えばなんでもできる。そう言ったのはお前だ。」
その言葉は目の前の問題に立ち向かう一振りの勇気を与えてくれた。
布団の中でもう一度考える。
どうする。
アルマの未来と自分達の未来。
どっちを選ぶ。
自分はどうしたい。
ユーキは待っている。
考えて考えて考えた。
布団から顔を出す。
「どっぢも選びだいでず…。」
「…随分と欲張りだな。」
究極の無理難題にユーキは苦笑した。
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