4話 過去② 手紙
過去にて。ユリはアルマと共に精霊スコールに勝利した。
精霊スコールは『そんなことまで無償で聞こうというのか!?』『現金過ぎるぞ!?』と非難しながらも、饒舌に全てに答えた。
精霊スコールの石化はスコールの力でのみ解除可能。つまりスコールを宿しているロアにだけ石化した人々を解除することができるとのことだ。
精霊の対抗策については、精霊と宿主との契約を終了させることができれば、精霊を再び神殿へ封印することができるらしい。
精霊と宿主との契約とは、精霊との勝負に勝利した者がその精霊を従えることができるというものだ。
虚無の女王アリスの場合は神殿に足を踏み入れた人間の生気を黒い霧で奪い、勝負することなくその体を乗っ取ることができる。あまりに凶悪な能力であるため誰も神殿に近づかないはずだった。
『そんなアリスの神殿に行くとは、随分と現金な輩がいたものだなぁ!はっはははは!』
ご機嫌なスコールに対しユリとしては辛辣だった。ロアやアリスが自分から契約を終了させるはずもない。
やはりなんとかして二人を倒す必要があるようだ。
「スコールさん、最後に教えてください。アリスの黒い霧に対抗する方法ってないんですか?」
『現金にも程があるぞ!そんなことを言ったら我が消されかねん!
あるに決まってるだろう。精霊の力や魔法を打ち消す力を持つ上位の精霊がいるからそいつを使役すればいいだけのことだ。名は『調和の王』だ。神殿の場所は知らん。』
「え?あ、そ、そうなんですね。教えてくれてありがとうございます。その、消されないように気をつけてくださいね。」
ユリはスコールに深く深く頭を下げた。彼の無事を祈った後神殿から脱出した。
スコールの神殿の前にて、アルマがユリに相談したいことがあると言う。
「え、人にうまく変身できないんですか?アルマさんが?」
「にゃあ…。」
アルマは俯く。人間に変身するというのは高度な調整が必要である。最強でも最強に不器用なアルマは苦手なようだ。
「そうなんですね。それじゃ、できるように一緒に練習してみましょうか!まずは私に変身してみてください!」
「にゃう!」
ぼん
アルマはユリの姿に変身する。しかし、猫耳、尻尾は生え、髪の毛は白く、瞳は緑のままである。
「ふむふむ。髪と瞳は目を瞑るとして、猫耳と尻尾が生えていては人間には見えませんね。」
「にゃあ…。」
「うまく隠すことはできませんか?これ。」
ユリはアルマの尻尾をにぎにぎと触る。アルマの体がビクビクっと跳ねる。
アルマは尻尾と耳が敏感である。そうとは知らないユリに容赦はなかった。
「ぶにゃあ!?ふにゃあ!?」
「お!尻尾が縮こまってきました!良い調子ですよ!今度は細くしてみましょうか。こんな感じに。」
シュッシュッシュッ
「うにゃあ!?」
「おお!良い感じです!それでは今度は短くしてみましょう!こんな感じに!」
ギュ〜!
「にゃああああああああ!?」
「さぁ!!もっと!!こう!!」
アルマにとって拷問のような特訓がしばらく続いた。
夜になる頃、アルマはなんとか尻尾と耳を隠すことができるようになった。
「なんとか形になりましたね!髪と目の色が少し不思議ですけど、ちゃんと人間に見えますよ!」
「にゃあ!」
アルマは自分の姿を何度も確認している。とても気に入ってくれたようだ。目と髪の色が違うが自分と瓜二つな容姿だった。
アルマとの出会いはユリに強い思いを抱かせていた。
アルマとの冒険はとても楽しかった。彼女の魔法をもっと見たい。彼女に未来でも会いたい。
(アルマさんが死んでしまう未来を変えたい…。)
そのためには、全てを伝える必要がある。
自分は未来からやってきたと。六年と半年先の未来で、アルマは魔王に命を狙われるから用心してほしいと。
しかし、口で言って信じてもらえるだろうか。その場では信じてもらえても六年以上先の話である。忘れてしまうかも。
ユリはカバンから四つ葉のクローバーの手紙を出した。手紙で残すことにしたのである。※
アルマがそれは何?と尋ねる。
「あ、えっと、協力してくれたお礼に手紙を渡したいと思って…。後ろを向いててもらってもいいですか?」
アルマは慌てて後ろを向く。気になるのか尻尾がそわそわと揺れている。
(あ、れ…?)
急に視界が暗転する。
(魔力切れ…?そんな…待って…アルマさんっ…)
◆
背を向けながらアルマは少女との未来に思いを馳せていた。
一通りだけだけど完璧な人間になれるようになった。しかも彼女とそっくり。これで彼女と一緒に憧れていた人の世で遊ぶことができる。
そういえば、彼女の名は何というのだろう。まだ聞いてなかった。
振り向くと何も書かれていない手紙が落ちていた。
彼女の姿はなかった。
※手紙
『外伝6 片手が離れないダンジョン① ユリとマイver』でユリが手に入れた四つ葉のクローバーの手紙です。
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