2話 過去① スコールの神殿

 ユリは最強の魔法使いアルマと共にスコールの神殿を攻略することになった。


アルマの『転移』の魔法により一瞬でスコールの神殿の目の前に移動する。


「え!?これがスコールの神殿!?もう着いたんですか!?」


精霊の神殿は隠されているはず。なのにアルマは造作なくその目の前に転移してみせた。


アルマは得意げに鳴く。精霊の神殿は異質な魔力が立ち込めているのでなんとなくわかるとのことだ。


遠く離れた地点の魔力を感知するなど容易いことではない。


「アルマさんって本当に凄いですね…。」


アルマは褒められでれっとする。照れ隠しするように魔法使いの帽子を深く被った。



 スコールの神殿の地面は泥でぬかるんでいる。神殿の中を泥人形達が屯している姿があった。恐らくこの地面の泥も泥人形と同様に石化させる力があるのだろう。


ユリは靴だがアルマは素足である。このまま進むことはできない。


「私のカバンでアルマさんの靴でも作りましょうか?」


アルマは大丈夫と手で制す。そして緑の魔法陣を手に出した。


『氷』


魔法陣から氷が広がっていき、神殿の地面、壁、天井を覆う。その辺に屯していた泥人形も巻き込まれ氷漬けになる。


「え、すごい!一瞬で凍らせるなんてさすが最強の魔法使いですね!」


アルマは得意げである。最強の魔法使いの魔法はやはり凄まじかった。しかし、この最強の魔法使い、実はとても不器用なのである。


ツルン!ズテン!コロン!ズテン!


アルマは自分で凍らせた地面の上を歩けず大苦戦しているようだ。


「アルマさん、大丈夫ですか?よければ抱っこしますよ。」


アルマは大丈夫と断りなんとか前に進もうとする。手足をバタバタと動かすもののどういう訳か後ろに進んでいく。


『浮遊』の魔法で空中に浮こうとしたところをユリが抱っこする。


「にゃあ!?」


「魔法を使い続けるのは疲れるでしょう?少し休んでてください。」


器用なユリにとって氷の上を進むことなど簡単だった。すいすいと滑るように進んでいく。


腕の中のアルマが「にゃあ…」と弱々しく鳴く。不器用でごめんねと謝っていた。


「謝る必要なんてないですよ。魔法は得意なのにそれ以外が不器用さんだなんてかわいいじゃないですか!」


ユリの周りは不器用で愉快な仲間達だらけ。皆どこか抜けている。それが愛しいと思うのだ。


「不器用で良いんですよ。誰にでも苦手なことはあります。自分だけでなんとかしようとしないでこういう時は仲間に頼ってください。」


得手不得手は補い合えばいい。半年ユーキと旅をしてそう思うのだ。


アルマは魔法使いの帽子をぎゅっと深く被った。どんな表情をしているのかはわからなかった。



 ユリ達は神殿の最奥に到着する。


その部屋の中央に赤い光を放つ石の狸が仁王立ちしていた。これが精霊スコールである。


『ほう?ここまで何の代償もなく辿り着くとはなかなかに現金なやつらだな。我がこの神殿の主、石化の精霊スコールである。貴様ら、ここに何をしにきた?』


戦闘はできるだけ避けたい。ユリは慎重に言葉を選ぶ。


「お聞きしたいことがあってここに来ました。あなたの石化を解く方法を教えて頂けないでしょうか?」


『なるほど。つまりお前は我に何の代償もなくその問いを投げかけ何の代償もなくその答えをもらえるとでも思ってここに来たのだな?なんと現金なやつらか!まさか我がそのような有償なことを無償で教えるわけがなかろう!我の石化は我の力でのみ解除できることなど金貨100枚渡されても言わんぞ!』


「え、今なんて?」


スコールは口滑ったことに気づいていないようで地面に手をつく。その地面から巨大な泥人形が召喚され唸りを上げた。


動揺していると腕の中にいるアルマが魔法を唱える。


『氷』


氷が襲いくる泥人形を飲み込み身動きを封じた。


『ほう!なかなかに骨があるようではないか!まぁこれで終わりだと思っているのならあまりにも現金過ぎるがなぁ!』


スコールは手を上に掲げる。神殿の天井に雨雲が集まっていく。赤い雨を降らせるつもりのようだ。


「アルマさん!あの雲を散らすことはできませんか!?」


アルマができるよと『風』の魔法で雲を霧散させた。


『…。』


手を天に掲げたまま悲しげに固まるスコールが残された。


アルマは「にゃあ?」と首を傾げる。もう終わり?それじゃこちらから攻撃していいかな?と尋ねているのである。


『むむっ!なんとたった今天に召します現金な神より天啓が降りた。なかなかに現金なお前達の問いになんとか無償で答えてやってくれとのことだ。ははははは!随分現金な神よなぁ!まぁ本当は有償であることだがこの際やむを得ん!さあさそこに座って我の有償な答えを無償で聞いていくが良い!』


スコールはふんぞり返りながら負けを認めた。

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