4章 ユリ編 時の魔石の謎
1話 時の魔石
逃亡生活1日目。ユリ達は今後の方向性を話し合うべく集まった。
ユリの体調はすこぶる良好だった。早起きして朝風呂まで堪能し肌はツヤツヤとしている。
一方男性陣。ユーキはひどい寝癖だ。話し合いの時間に遅刻するほどに熟睡していた。
その隣にいるエデンは目元にクマを残している。昨夜は寝れなかったようだ。
その隣のモンペンは未だに立ったまま寝ている。
ユーキが状況の整理を始める。
「状況は向こうが有利だ。あちらには石化の精霊スコールと上位精霊アリスがいる。そして、能力交換の魔石もある。何か仕掛けられる前に手を打つべきだろうな。」
ユリも整理しながら考える。
ロアは先を見据え策を講じる周到な魔物である。前回は想定外の因子だったユーキがロアの隙をつき重症を与えることができた。黒い霧も浴び近日は身動きできないと考えられる。何かするなら今のうちだ。
「私達には伝説級の宝、時の魔石があります。使えなくなる前にこれを活用できませんかね?」
時の魔石は飲み込んでしまったため数日で消えてしまう手である。ロアが過去で精霊『スコール』を手に入れたように、何かしらに使いたいところである。
自称記憶力の良いペン子の話では、現状が最善らしく過去を変えるべきではないとのこと。本当はロアが精霊スコールを手に入れられないように阻害できないかと思っていたが、それはどうやら良い結果にはならないらしい。
「それでは、私がロアよりも過去に行って、精霊のスコールさんに会い、石化の解除の方法とアリスを倒すヒントを聞いてくるというのはいかがですか?」
ペン子は「キュウ」と頷く。及第点とのこと。
「エデンさん、私ってどれくらい過去に滞在できますか?」
「…。」
「もしもーし?エデンさーん?」
エデンからの反応はない。どこかに飛び立ってしまったようだ。
「…もういいです。魔力が切れて帰れなくなったら怖いので用が終わったらすぐ帰るようにしますね。…私ひとりでできるかなぁ…。」
魔石を飲み込んだ自分だけが過去に行く。とても心細いが、過去で仲間達に会うのは未来が変わってしまう恐れがあり避けなければならなかった。
それに自分が成功しないとこの状況を打開する手は消える。失敗はできない。緊張から体が震えてしまう。
「ユリ、そう気を負うな。どうやったところで雑魚は雑魚だ。」
「え、馬鹿にしてるんですか?」
「事実だろ。」
ユーキの突然の皮肉に困惑する。いや、きっと彼なりに緊張を解こうとしてくれたのだろう。こんな場面でも不器用なところが少し面白い。
「ふふ…わかりました。雑魚なりにがんばってきます。」
ユリは目を閉じて体の内にある時の魔石へ告げる。
「時の魔石さん…7年前…精霊スコールの神殿の近くでお願いします…。」
体が金色の輝きに包まれ、ユリは過去に『転移』した。
この時、ユリは器用にも内心別のことを考えていた。それは、かねてより無意識に願い続けていることだった。
気がつくと、どこなのかわからぬ旅路に立っていた。過去に転移して早々、ユリはかなり焦る。
(こ!?ここここここどこですか!?)
スコールの神殿ではないことは明らかである。これでは移動だけで時間切れとなる。
「にゃあ。」
「わあ!?」
突然の鳴き声に下を見る。足元にちょこんと白い猫が座っており、興味深そうにこちらを見つめている。
(やばい!未来から転移してきたところを見られてしまいました!?明らかに不自然ですよね!?未来が変わっちゃう!?)
パチパチパチパチ
さらに焦っていると、白い猫が転移の魔法上手だねと拍手をくれる。
「あ、えへへ…どうも…って、まさか!?」
白い猫は魔法使いのとんがり帽子を身につけており、目は緑色。その不思議な容姿にある故人が当てはまる。
「アルマさん!?」
「にゃあ!」
白い猫、アルマが返事をする。ユリの目の前にいるのは今は亡き最強の魔法使いアルマであった。
「アルマさん!?すごい!私、あなたにずっと会いたかったんです!」
ユリはアルマを抱きしめる。アルマは突然のことにびっくりするも満更でもない様子で体を擦り寄せてくれた。
(あ、でも、このまま巻き込んだらアルマさんの未来が変わっちゃうかもしれない…!)
と、思ったがすぐさま思い直す。アルマは未来では死んでしまっている。その未来が変わることの何が悪いのか。
ユリはそう強引に考えアルマに協力を仰ぐことにした。
「アルマさん。私、精霊スコールの神殿を攻略したいんです。手伝ってくれませんか?」
アルマはいいよと頷く。
ユリは最強の魔法使いアルマと共に精霊スコールの神殿を目指した。
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