15話 真相
「あああああああなんと嘆かわしいことか我が王よ!何故この程度のことでそこまで取り乱すのです!?高潔で傲慢で冷血で孤高であるはずの貴方様はどこに行かれたというのですか!?」
「…お前ッ!」
魔力も切れ『スタン』により身動きを封じられたエデンはグレイの姿をしている男の慟哭に嫌悪を募らせていた。この異常な気分の起伏には心当たりがあった。
「ロア、お前はロアなのか!?」
「はい私ですッ…!私のような小物の名を記憶に留めて下さっていたとはッ…!身に余る光栄でございますッ…!我が親愛なる魔王よッ…!」
ロアは一瞬で180度程変わり感激しながら目の前に跪く。まるで、忠実な臣下と王のそれであるが、実際にはエデンが横たわっているため関係は逆のようにみえる。
「何故お前がグレイの姿をしている!?グレイはどうした!?」
ロアの魔物の特性を知りながらも聞かずにはいられなかった。ロアは一気に萎え表情を失う。
「…覚えていらっしゃらないのですか?私は食べることでその者に成り代わる魔物ですよ。」
「馬鹿な、お前がグレイを食べたというのか!お前のような小物にグレイが負けるはずがないだろ!」
「それでは私が今彼の姿をしていることを他にどう説明するのですか?」
「それは…!」
エデンは反論できずに言い淀む。あのグレイがロアに敗北し食われるなど有り得ない。しかし、目の前の光景がそれを肯定している。
ロアは「くくく…」と愉快げに笑みを漏らす。
「彼は素晴らしい能力者ですね。魔力はS。上級の魔法使いのくせに筋力も体力も一流。本当に努力家だったようで。雷特化なんて今時不遇ですけどね。くくくく…。」
「ロアアアアアアアアアアアッ!!」
「くはははははははははっ!!あっははははははっ!!はっはははははははっ!!」
ロアは爆笑する。エデンは怒りでどうにかなりそうだった。グレイは自分の国のことをよく考え血の滲む努力をしていた。なのに彼自身は殺され、それを踏み躙られ、挙句利用されている。到底許されることではなかった。
ロアの高笑いに続き周囲にいる冒険団も笑う。トピアの冒険団はロアの仲間の魔物であることを意味していた。
「何故こんなことをする!お前の目的は何だ!」
「…何って、わからないのですか?あなた様のためですよ。」
「僕のためだと…うああっ!?」
突然痺れて動かない腕をロアに強く踏みつけられる。
「あなた様があああ!!魔物の王という立場にありながらあああ!!己自身を殺しいいい!!勇者ごっこおおおおおおおお!?魔王様ッ!!あなたの役割をッ!!お忘れですかッ!?あなたはッ!!私達魔物のッ!!殺戮の王なのですよッ!?」
「ぐッ…ううッ…!」
ロアは癇癪を起こしたように喚きながら腕を何度も踏みつける。腕が青紫に変色し時折嫌な音が鳴る。激痛に耐え言い返す。
「黙れッ!僕はもう人を殺さない!人を守る勇者になったんだ!」
「今更何を馬鹿なことを。あなたは魔王としてどれほどの人間を殺してきたかお忘れなのですか?」
「!」
ロアが淡々と突きつける。それは向き合うことができていない事実だった。
「許されることではありません!!あれだけの破壊と殺戮を果たしながら堂々と勇者ごっこをするなど!!正気を失っているとしか思えませぬ!!」
「......ッ。」
反論できない。天然勇者の仮面を被り考えないようにしていたことだった。どれだけの人を助けても償い切れない。それ程に魔王として人間を殺めてしまっていた。
苦しげに言葉をなくすエデンに、ロアは朗らかな表情になる。
「だから、あなた様の忠臣であるこの私があなたを目覚めさせて差し上げます。青の魔法陣と魔力SSを頂き、あなたに替わる最強の魔王としてこの世を破壊し尽くしてご覧に入れましょう。」
石化の精霊を宿し青の魔法陣も魔力SSも手に入れたロアは誰に脅かされることもない、まさに最強最悪の魔王である。
能力交換の魔石を探させたのはそのためだったのか。世界の破壊。それだけはなんとか阻止しなければ。
「ぐ…くそ!」
エデンは体を動かそうとする。踏みつけられた腕が痛むばかりで体に力が入らない。魔力も切れており魔法が使えない。
頼りになる仲間も石化してしまっている。
何の手立ても見つからない。
「くそぉ…くそおおおおおおおおッ!!」
勇者は屈服した。
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