16話 魔石
ロアが石化したマイの懐から迷いなく能力交換の魔石を取り出した。青龍からもらった青色の魔石だ。
「これが能力交換の魔石ですね。」
「……。」
エデンはその様子をどこか遠くに眺めていた。マイが魔石を持っていたこと気付かれていたのか。マイとボドーと三人で下手くそな嘘をつこうとしていたあの頃が懐かしい。
そんな場違いなことを考えていると、前髪を掴み上げられ無理やり目を合わせられた。
「何をぼーとしていらっしゃるのですか?せっかくなのでよくご覧ください。これから新たな魔王が誕生するのですよ。
ほら!!何とか言ってはいかがですか!?もしもし!?聞こえてますか!?今どんな気持ちですか!?」
「…ナントカ。」
ロアはテンションMAXだった。エデンはせめてもの抵抗に目を逸らさない。しかし、瞳には何の覇気もなく、その心はすでに屈服し諦めていた。
何の手立ても見つからない。詰みだった。
ロアはそれを満足げにしばらく見た後、能力交換の魔石を天に掲げる。
「能力交換の魔石に告ぐ。私と我が王の魔法の才能を交換しなさい!!」
破壊に特化した力、青の魔法陣を奪われる。エデンは不甲斐なさに目を閉じる。そして心の中で彼女に謝った。
(君が守りたかったもの…守り切れなかった…ごめん…ごめんね…。)
「却下!」
つるん
掲げられていた魔石がロアの手から離れた。
「へあ?」
魔石を滑るように奪い取ったのはユリであった。意識がないふりを完璧にしながら器用にも魔石を奪うタイミングを測っていたのである。
「ユリちゃん!?」
「却下です!能力交換の魔石さん!ロアと私の雑魚な才能を交換してください!あ、そうだ!ついでに筋力と体力も良いですか?」
魔石が輝きを増す。しかし、発動する前にロアに力づくで奪われる。
「させるか!今のは却下だ!それならばこの娘の魔力SSと私の魔力を交換しろ!」
ユリは器用に奪い返す。
「却下です!魔力はだめです!魔法の才能と筋力と体力!お願いします!あ、そうだ、ついでに石化の力もください!」
「ついでだあああ!?ふざけるなあああ!!手に入れるのにどれだけ苦労したと思ってんだこのガキがッ!!いいからよこせ!お前の雑魚な力などいるかあああ!!」
ロアが再びユリから魔石を奪う。
そのようにロアとユリの間で一つの魔石を奪い合う地味な戦いが続いた。ロアは譲れないし、ユリも諦めない。この土壇場で雑草根性を発揮していた。魔石が二人の間で忙しなく行き来する。
魔石は強く光りを放ち今にも発動しようとしている。周囲はそれに巻き込まれぬよう様子を見守ることしかできない。
この中で一番悲鳴をあげているのは能力交換の魔石である。申請されては却下を繰り返され二人とも言っていることが滅茶苦茶である。どうしたらいいものか困っていた。
「もうこの際何でも良いです!早く交換してくださーーーい!」
ユリはスタミナが限界となり投げやりに叫んだ。
かくして、魔石はその言葉を聞き届け、話題に出なかったある能力を二人の間で交換することにした。
それは『魔石と魔石の能力の交換』である。
奪い合っていた魔石の色が青から金色に輝いた。
「「あ?」」
エデンとロアは間抜けな声が出る。それは伝説級ともいわれる宝の色であった。
信じられない。伝説級の宝が何故ここに。エデンがその魔石の名を呟く。
「…時の魔石?」
それは魔力を消費しながら過去に転移することができる魔石であった。
「はむ!」
ロアが意表を突かれているその間に、ユリは金色に輝く魔石を口に含む。
そしてごくんと飲み込んだ。
「ああああああああああああ!?あああああああああああ!?」
「ひ!?」
ロアが癇癪を起こしながらユリに襲いかかる。
「ぶ!?」
寸前のところでロアはかくんと足が崩れその場に顔面から転んだ。ロアは自分の足を見る。
どこからか飛んできたのか長剣が大腿部に刺さっていた。
「え、痛い…?あ、痛い。痛い時痛いところ痛みが痛くて痛い痛い痛い痛いああああああああああ!!」
ロアは絶叫しながらもんどりうつ。
「触るんじゃねぇ。」
その場に落ちた声はやさぐれた男のものだった。
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