14話 敵の正体

 赤い雨が現れ1時間半程経過した頃、雨の勢いが緩やかになりやがて止まった。勇者一行のひとり、勇者エデンはひとりでトピアの冒険団の拠点を泥人形から守り戦い続けていた。魔力は底をつき体力も限界である。


水溜まりは赤い色をなくし泥人形達が形を失いただの泥としてその場に広がった。赤い雨が去ったようだ。


「ふぅ、終わったみたいだね。」


冒険団の建物は壁も窓も無事である。中への侵入を防ぐことができたようだ。安堵したのも束の間ぐらりと世界が揺れる。


「う、気持ち悪っ…。」


剣を支えにしてなんとか立つ。魔力切れによる倦怠感とめまいがひどい。少し休みたいところだがまずマイとボドーと合流しよう。


そう考え行動しようとした瞬間。


バチィッ!


「あぐ!?」


不意に電撃が全身に走る。痺れて体の自由がきかなくなり冒険団の拠点の前で倒れた。


「…スタン…なんで?」


エデンは混乱する。これは『スタン』の魔法だ。電撃で体を痺れさせ相手の自由を奪う魔法。詠唱が聞こえなかった。濡れている地面では雷属性の魔法は遠くからでも届かせることができる。それはわかる。


混乱したのは身に覚えのある威力だったからだ。エデンは以前に彼の妹からこれを受け半時は体を動かすことができなかった。


魔法を使うどころか身動きすることもできない。そんな自分にその人物は近づいてきた。


「なんとか間に合ったか。お前はほんとしぶといよな。魔力切れするかとこっちが冷や冷やしたくらいだぜぇ。」


「…グレイ?」


「よう、エデン、お疲れさん。ちゃんと俺達の拠点を守ってくれたんだな。」


グレイは目の前まで近寄り満足げに見下ろしている。冒険団をその後ろに引き連れている。エデンには状況がわからない。


冒険団のひとりが少女を肩に担いでおり乱雑に地面に下ろした。


それはユリであった。意識はすでにないようでぴくりとも動かない。


「ユリちゃん!?ユリちゃんに何をしたの!?」


「落ち着け。ちょっと眠ってもらっただけだ。雑魚のくせに行動力はあるお嬢さんだからな。」


なおのことわからない。魔力SSである彼女を冒険団が探していたのはわかる。では何故そこまで強引に、しかもたったひとりでここに連れて来られているのか意味不明だ。


そこにマイとボドーも冒険団によって運ばれてきた。二人とも石になっていた。それはエデンをひどく動揺させた。


「マイ!?ボドー!?そんな!嘘だ!」


「エデン、落ち着いてくれ。」


「落ち着けるわけないだろ!?マイとボドーが石になったんだぞ!?ユリちゃんをどうする気!?赤い雨の正体は君ってこと!?グレイってこと!?そうなんだよね!?なんでだよ!?なんで君がこんなことをするの!?ねぇなんで黙ってるの!?さっさと答えてよ!グレイ!!」


エデンは一気に捲し立てる。仲間が石にされた。そして、この状況、石化の精霊『スコール』を宿しているのはグレイということだ。彼は魔力Sで上級の魔法使いである。精霊スコールを従える力は十分だった。


「エデン、落ち着いてくれっ…頼むっ…。」


グレイは顔を覆い震え始める。悲痛な声にはっとする。何か事情があるのだろうか。グレイがこんなことをしなければならない特別な事情が。


「君に何があったの…どうしてこんなことをするの…?教えてよ…グレイッ…!」


できるだけ感情を落ち着けて問う。そもそもグレイは何の事情もなくこんなことをする人間ではない。何かあるなら友達として力になりたい。エデンは友人であるグレイを信じていた。


「あああああ…あああああ…。」


グレイは顔を覆ったまま呻き始める。


その時エデンは目の前の友人にあるまじき感情を抱いた。




本態的な『嫌悪感』である。




「あああああああああああ!!ああああああああああああ!!」

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