13話 勇者一行⑤ 勇者一行の瓦解


 勇者一行が滞在する『トピア』の街では、赤い雨が襲撃してから一時間程経過していた。街に住んでいた人々は雨の中安全な建物に向かって避難しようとするものの泥人形達が体当たりや泥を投げつけたりなどして襲撃するためその避難は難局していた。


勇者一行のひとり、格闘家ボドーは剣士マイと共に街の人々を守りながら泥人形達と戦っていた。雨具を身につけた上から鉄製のグローブを装備した攻撃。これにより雨や泥の侵襲を気にせずに泥人形を拳で倒すことができていた。


「エデンはひとりでトピアの冒険団を守ってるからな!?俺たちは街で戦ってるからな!?」


ボドーは逐一状況を声に出し確認する。体力にも魔力にもまだ余裕があった。


その背中を守るようにマイは魔力を込め剣を振るう。息は乱れふらつきが見られる。雨や泥に注意しながらの戦い。体力だけでなく精神も相当に消耗する最悪な環境下だった。


「く…!キリがない!いつまで続くんだ!?」


「マイ?大丈夫か?少し休んだ方がいいんじゃないか?」


「…いや、まだ大丈夫だ!」


マイは背中から離れない。不意打ちを懸念し守ってくれているようだ。


その時、遠くから窓の割れる音が響いた。


建物の窓が泥人形に体当たりされ壊されていた。そこには逃げ遅れたのか幼い少女の姿があった。マイの妹であるリンと同じくらいの年齢に見える。


「ボドー君!すまないがあとは頼んだぞ!」


マイは突っ込んだ。ボドーは思わず手を伸ばしたが止めることはできなかった。ここにいるのが自分ではなくエデンならあの神がかった反射神経でその腕を掴めたのだろうか。


気がついた時にはマイは少女の元におりその前の泥人形を斬り伏せていた。


あまりに速く突っ込んだためマイのフードは脱げており雨の中頭を晒していた。剣を振った姿勢のまま微動だにしない。その後姿から察した。


マイは石化したと。


「…そこの君、大丈夫か?落ち着いてこっちにおいで?雨具はしっかり着けるんだよ?」


ボドーは努めて穏やかに少女を呼んだ。内心は叫び出したかった。だが、それよりもマイが捨て身で助けた少女を無事避難させる事が優先だった。


少女は雨具をかぶりそろそろと寄ってくる。今にも泣き出しそうな顔だ。


「ねぇ、お姉ちゃんは?お姉ちゃんは大丈夫なの?」


「ああ、全然大丈夫だからな?お姉さんは…色々と遅いだけだからな?」


女の子は「そうなんだ」と笑う。マイが聞いたら怒っていたことだろう。遅いのはお前だろうと。


避難所に走る人々に合流し少女を託す。


「さぁ、気をつけて避難するん、だよ?」


堪え切れずぎこちない言い方となった。少女はぺこりとお辞儀をして大人と共に避難所へ走っていった。


「オアアアアアアアアアアア!!」


少女が見えなくなった瞬間ボドーは激昂した。抑制してきた全てが爆発したのである。


怒りに任せ泥人形達を次々に殴り倒していく。強烈な突きに泥人形の体は木っ端微塵に破裂し、俊敏な猛攻に泥を手にすることもできなかった。


勇者一行の青髪の格闘家は気が遅く自信のない性格である。それと同一人物であるとは思えない程の激しい戦いぶりであった。いつもはどこか抜けている顔は憤怒で引き結んでいる。


「こっちに来てくれ!応援を頼む!」


冒険団のひとりから呼ばれる。ボドーはその方向に走った。


その時である。


「がっ!?」


建物の影に隠れていた何者かにより峰打ちを受けた。昏倒し赤く濡れている地面に膝をつく。膝から徐々に感覚がなくなっていく。石化が始まったようだ。


足から石化が始まり立つことができなくなったボドーを冒険団達は黙って見下ろす。峰打ちを仕掛けたのは冒険団であった。


「…どういうことだ?何故冒険団が俺を攻撃した?」


冒険団のひとりがフードをおろす。雨にさらされているのに石化する様子はない。


石化の対象は一つの種族を指定することになる。雨に当たっても石化しない。つまり目の前の者達は人間ではないことを物語っていた。


「冒険団の中に魔物が潜んでいたのか!?俺達をはめたのか!?」


周囲の冒険団がその問いに答えるように笑う。


「トピアの冒険団は人に化ける魔物に支配されていたのか!?拠点の者全員なのか!?」


ボドーが必死に確認するためこの場にいる冒険団の全てが笑い声を上げる。『トピア』の街の冒険団の全てが魔物に成り代わっていたことがわかった。


ボドーは顔の直ぐ下まで石化が迫ってきているのを感じた。唾を飲み込み恐怖に耐える。


「エデンはトピアの冒険団でひとりで戦い続けているからな!?エデンはトピアの冒険団でひとりで戦い続けているからな!?」


壊れたように同じ言葉を繰り返すボドーを冒険団に化けた魔物達は腹を抱えて笑う。


ボドーは口が石になり喋れなくなるまでその言葉を繰り返した。


そして、意識を途絶えさせたのだった。

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