12話 ユリ一行④ ユリ一行の瓦解
その頃、モンペンは冷たい地面の上で目を覚ました。どこかの街の中だ。欠伸をしながらむくりと起き上がる。
--ふぁぁ。よく寝た。おはよーお嬢!
--おはよう。ようやく起きたか。心配したぞ?
--うわぁ!?お嬢じゃない!?なんだお前!?
挨拶を返してくれたのはちんちくりんのお嬢ユリではなく、自分より図体が大きくつぶらな瞳をした黒いモンスターペンギンであった。
--なんだとは失礼な物言いだな。私は君が起きるまで隣で守っていたんだぞ?
--そうなのか?よくわからんがありがとな!誰かさん!
--誰かさん!?
黒いペンギンは「キュウキュウ!」と抗議するように鳴き続ける。しかし、モンペンの関心はすでにそこにはない。お嬢ユリの姿を探し周囲を見回していた。
--お嬢がいない。お嬢はどこだ?
昨夜モンペンはグレイの『雷』の魔法によって生死を彷徨うほどの深手を負っていた。モンペンの脳はそれについてほんの一部しか記憶していない。
なんだかとても痛かった気がする。それだけである。
お嬢ユリとはここ最近ほとんど一緒だった。お嬢に抱きつかれると嬉しいしお嬢と一緒なら嫌いなお風呂もそこそこ楽しかった。その彼女がいないとなるととても心細くなる。
--どこに行っちゃったんだよお嬢…。お嬢に会いたい…。
しかし、彼女の臭いは足元に落ちているナイフだけだ。これではどこに行ってしまったのかわからない。
モンペンはそのナイフを悲しげに見つめ続ける。
黒いペンギンは同調するように「キュウ…」と切なげに鳴き、励ますべくその体に手を伸ばした。
--あ、そうだ!
モンペンがサッと立ち上がったため、その手は虚しく宙を切る。
--弟のところに行こう!弟ならなんとかしてくれるはずだ!
モンペンはユリのナイフを咥え、ユーキと合流するべくスコールの神殿に颯爽と走っていった。
ショックを受け手を伸ばしたまま固まる黒いモンスターペンギンがその場に残された。
程なくして、モンペンはスコールの神殿に到着する。モンペンは気づかなかったがスコールの神殿を覆っていた黒い霧は消失していた。そのため無事進むことができたのである。
臭いを頼りに周辺を探していると木にもたれるように座っている弟分ユーキを見つける。
見つけた!と弟に突撃し頭を猛烈に擦り寄せ喜びを全身で表現する。背後の木よりメキメキと音が鳴った。
「........。」
しかし、弟分ユーキからの反応はない。目は陰りただ地面を力なく見つめている。
この時、ユーキは高濃度の黒い霧を浴びたことで生気をなくし廃人となっていた。
そうとは知らず、モンペンはよいしょと自分の頭に弟の手を乗せてみる。撫でられると自分が元気になるように自分を撫でれば弟も元気になる。そう思ってのことである。
しかし、その手は力が入ることはなくずるっと滑り落ちていった。元気になるはずなのにおかしい。モンペンは首を傾げる。
弟分ユーキの顔をはたいてみる。モンペン自身はそんなつもりはなかったが勢いのある平手が決まり、バチン!となかなかに大きい音が鳴る。
しかし、弟は顔を顰めることも声を上げることもない。はたかれた勢いのままに顔を横に向かせただけだ。
--弟?
モンペンの口からポロッとユリのナイフが落ちていった。
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