11話 勇者一行④ 雨

 エデン、マイ、ボドーら勇者一行は『トピア』の街の冒険団の拠点に滞在し朝を迎えた。


冒険団のロビーで寝ようとしたところ「勇者様御一行にそんなところで休ませられない」といって一際豪華な部屋に通された。


エデンはベッドから起き上がり欠伸をする。マイとボドーはまだ寝ているようだ。いつものように周囲、布団の中、服の中、足元を見る。


彼女の姿はない。


当然だ。アルマはもういない。仲間と一緒にいたいという自分の間違った選択が彼女を死なせた。魔王ディーンに殺させるタイミングを与えてしまった。


それはどれだけの人々を救っても晴れることもない事実なのである。


膝を抱き俯く。


「…ごめん…ごめんね…アルマ…。」


マイとボドーがまだ寝ていることを良いことにひとり呟く。こんな弱々しい姿など誰にも見せられない。人々に希望を与えられるべく明るく強い勇者でいなければ。


なのにどうしてもアルマの死を受け入れられない。心に雨が降っているようだ。


彼女に会いたい。みんなで旅をしていたあの頃に戻りたい。時を戻せるなら戻したい。


物思いに沈んでいるとパタパタと窓から雨の音が聞こえてくる。


窓に滴る雫が赤色である。


「!?これもしかして!?」


「「赤い雨だああああ!!赤い雨が現れたぞーーー!!」」


気づいたと同時に拠点中に伝令が響く。


たちまちに拠点の中が慌ただしくなる。冒険団のメンバーには住民の避難を手助けする役割があった。エデン達も雨具を装備して外に出る。


すでにたくさんの泥人形が冒険団の拠点を包囲していた。この拠点を狙っているようだ。泥人形達の数が多くこれでは街へ進むことができない。


「私に任せろ!」


直ちにマイが突っ込もうとする。エデンは反射しその手を掴み止めた。


「はわあ!?また!?」


「マイ、突っ込んだら危険だ。雨に当たっちゃうよ。」


突っ込んだ勢いで雨具のフードが取れ頭がさらされたりでもしたら石化は避けられない。マイは衝動を堪えてくれる。


これだけの数の包囲を崩すには遠方からの魔法が有効だろう。制御に自信はないが仕方ない。


「ここは僕がやるよ。」


「勇者が魔法を使うだと!?みんな!顔を隠して身を守るんだ!」


ひとりの冒険団のメンバーが呼びかけると全員が身を守る姿勢となる。エデンの魔法は強力である。魔王の力であるとバレてはいないようだが制御が下手であることはどう言う訳か知れ渡っているようだ。


「…失礼過ぎじゃない?もしかしたら成功するかもしれないじゃん。」


ふてくされながら手に青の魔法陣を出現させる。


『炎』


ドゴォォォォン!!


「あれ?」


横一文字に火炎の渦が現れる。天から地面に炎柱が立つイメージをしたはずだった。


その炎に泥人形達は巻き込まれ焼け散る。地面も焼かれ水が蒸発し泥人形が召喚される様子はない。


街へ向かうなら今である。


「えっと…泥人形はうまく一掃したよ!僕が魔法で!僕が残ってこの拠点を守る!みんなは街の人達の避難を手伝ってあげて!」


冒険団は歓声を上げながら勇者に拠点を任せて街へ駆けていく。


マイとボドーはその場に残っていた。


「マイ、どうしたの?早く街に行って?」


「エデン、お前は間違ってない。私はお前と仲間になれて幸せだ。」


「あ、うん、それは良かったよ?」


光栄であるが何故今それを?

エデンはマイの真意がわからずキョトンとする。


「エデン、お前のせいじゃないからな?そんなに自分を責めることはないからな?」


「あ、うん。ありがとう?」


ボドーからは何故か励まされる。やはりその真意がわからない。


「エデンはひとりで『トピア』の冒険団の拠点を守るんだよな!?俺たちは街で戦うからな!?」


「あ、うん。よろしくね?」


ボドーが不自然に確認する。何やらいつも以上に不思議な二人である。マイとボドーは笑い人々を避難させるべく街へ向かっていった。


二人が去ってから程なくして朝の言葉を聞かれたことに思い至る。


「…なにこれ滅茶苦茶恥ずかしいんだけど。」


恥ずかしさのあまり手で顔を覆ってると拠点の周囲に泥人形達が再び湧いてくる気配がする。


投げられた複数の泥を剣で素早く叩き落とす。泥人形を倒すには魔法か魔力を込めた攻撃が有効だ。赤い雨が降っている間当面戦うのであれば魔力の消耗をできるだけ抑える必要がある。


魔力の消費が激しい魔法に頼る余裕はない。


「誰に喧嘩売ってんのかわからせてあげるよ!」


エデンは剣を振るいひとりで拠点を守り続けた。

 


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