18話 シロナ


 時は現在に戻る。『トピア』の冒険団の拠点にて、ユーキはユリを襲おうとしたロアに剣を投げ寸前で阻止した。


「ああああああああああああ!!何なんですか誰ですかあの男はあああああああああああ!?」


ロアは大腿に刺さった剣を抜くこともできずに絶叫しながら転がる。その場にいる魔物が銀髪の青年に注目した。


「キエエエエエエエエエ!!」


その隙を突くようにモンペンが魔物達に巨体を生かした突進を決める。強い衝撃に数人が空を舞った。石化したマイとボドーの前に行き周囲を威嚇する。


--俺の友達に触るな!


その顔は日々もぺっとしている彼と思えない程に吊り上がっている。


ユーキは剣を投げ素手であるにも関わらず魔物の中を悠然と進む。視線はロアを真っ直ぐに捉えたままである。魔物達は怯えたように道を譲った。


「はああああああ!?何通してんですかあああああ!?あなた達馬鹿ですかあああ!?」


ロアの抗議に魔物達はお互いの顔を見合わせる。しかし、誰も動かない。


その銀髪の男の眼は相手をそれだけで射殺すことができるのではないかと思うほどに鋭く、その背中からは今にも破裂しそうな殺気が溢れ出ていた。


それを刺激しないように魔物達は自分の保身に走っていたのである。


ユーキは転がっているロアの目の前に立つ。


「は、はじめましてだな。俺は、エデンの友人の、グレイだ…。」


ロアが泣きながら演じる。


「それがどうした。」


ユーキは凍てつくほど冷ややかにそれを見下ろした。


ロアを貫いている剣がそのまま振るわれ、大腿が大きく切り裂かれる。


「ぎゃあああああああああああああああ!!」


ロアは血を撒き散らしながら再びもんどり打つ。気は発狂し目が白黒と点滅している。


さらに無機質にその剣が振るわれる。


「待ってください!」


ユリの制止に剣はロアの首の寸前で止まる。ロアは口から泡を出し気を失った。


「…なんだ?」


「…こ、殺さないでほしいです…可能性はないかもしれないけど、グレイさんを助ける手立てを探したいんです…。」


ユーキの気迫が怖くユリの声は震えてしまう。それに咄嗟に止めてしまったけど助けられるのか自信がなかった。


「……わかった。」


「え?」


ユーキが素直に剣を下ろしたため、ユリは戸惑う。



『ロアお兄ちゃんをいじめちゃだめだよ。』



「「!?」」


その時、突然少女の声が空に響く。ユーキがすぐさまユリとエデンを肩に抱える。


「わお、ユーキ力持ちっ!」


「わ、急にどうしました!?私、歩けますよ!」


エデンとユリが声をかけるものの、ユーキの表情は険しかった。


「歩いている余裕はない!あれが来る!モンペン、逃げるぞ!」


--わかったぜ!でもマイとボドーを忘れちゃだめだぜ!?


モンペンは石化したマイを背中に担ぐ。石化しているせいかずしりと重い。マイだけで精一杯だった。


--手を貸そう。


--どわぁ!?


モンペンは突然の声に驚く。黒いモンスターペンギンがいつのまにか駆けつけてくれていたようだ。


--兄ちゃん!?


--君はまだまだ幼いな。どれ、この男を持てばいいんだな?


モンペンの兄はボドーを担ごうとする。


しかし、なかなか担げない。お互いにもぺ?とする。


--ぐにゅるるるるるーーーー!!


結果、モンペンが石化した大男ボドーをなんとか背負い、モンペンの兄がマイを背負い逃げることになった。





 ユリは走るユーキに抱えられながら動揺していた。ユーキの様子が尋常ではない。何を警戒しているのだろうか。


「なんだろう…何か来る!」


同じく抱えられているエデンも異様な雰囲気を感じているようだ。


かくして、それは『転移』してきた。


『私の魔石、返してよ。』


不機嫌な声が響くと同時に黒い少女が姿を現す。少女から黒い霧が放たれあたりの正常な空気を急速に侵食していく。その周囲にいた魔物達の声が黒い霧に飲まれ消失した。


黒い霧は逃がさないというように逃げるユリ達一行に迫る。


「エデンさん、あれは何ですか!?」


「…あれは虚無の女王『アリス』。上位精霊だよ。そしてあの体はグレイの妹のシロナちゃんだ。口調が全然違う。シロナちゃんの精神は上位の精霊であるアリスに食われてしまったようだね…。」


エデンは悲しげに黒い霧を見つめる。グレイは体を食われ、シロナは精神を食われている。そんな二人をどうやって助けられるというのか。


「エデン、まだ転移の魔法は使えないのか!」


このままでは逃げ切れないと悟ってか、ユーキがエデンに声をかける。


ユーキは人間二人を担ぎ、ペンギン達は石化した人間を担いでいる。逃げる足の速さより黒い霧の迫る速さの方が上だった。


魔力が切れてから時間が経っている。多少は回復しているんじゃないか。ユリは希望を込めてエデンの返事を待った。


「うーん、もうちょっと?いやあと少しかな?あともう少しでいけると思うからあともうちょっと待ってね。」


イラッ


エデンの悠長な態度はその場にいる全ての者をイラ立たせた。


「待てるか雑魚ザルが!」


「え、できないんですか!?雑魚過ぎなんですけど!」


--わかったぞ金髪小僧、お前は雑魚だ!


--役に立たない君の名は『ザコ』に改名だな。


カチカチカチカチン!


実はエデンにはこの中で一番強いという自負があった。それなのにこの場にいる全員から雑魚呼ばわりである。


「くっそだらぁぁああ!!」


『転移』


ブチ切れたエデンは魔力を奮起させ、魔法を唱えることに成功する。


一行はアルマのお墓のダンジョンへ『転移』し、黒い霧から逃げることに成功した。






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