9話 勇者一行③ 帰還

 エデン、マイ、ボドーら勇者一行は能力を自在に入れ替える魔道具『能力交換の魔石』を手に入れ、赤い雨の対策を本部としている『トピア』の冒険団の拠点へと戻った。


出立の準備を整えているグレイに鉢合わせる。


「ありゃ?グレイ、どこか行っちゃうの?」


「お、エデンか。近くの街が赤い雨にやられたらしい。石化した人々を片づける応援に行こうと思ってな。」


エデン達が魔石探しをしていた間も赤い雨は街を襲っていたようだ。エデンは憤りを感じ拳を強く握りしめた。


「…悠長だったね。ごめん。僕らも一緒に行くよ。」


「今帰ってきたばかりだろ?少し休憩していけよ。」


労ってくれた後、グレイは神妙な面持ちで続ける。


「…それに、赤い雨は神出鬼没だ。いつどこに現れるかわからない。それならば戦力は分散しといた方がいいだろう。エデン、俺が戻るまでこの拠点を守ってくれないか?」


「いいけど。」


また口癖が出た。友人であるグレイの頼みとなると断れずつい引き受けてしまうのである。


グレイは「頼んだぜ」と満足げに笑う。


「それはそうと、能力交換の魔石は手に入ったのか?」


「あ、うん。見つけたよ。」


「ほう!さすが仕事が早いな!どれ、見せてみろよ!」


マイが「いいだろう!」と懐に手を入れようとする。エデンは素早く反射しその手を止めた。


「ぴぎゃ!?」


「…お前ら何してんだ?」


グレイに不審な目で見つめられる。エデンはマイの手を握ったまま固まる。急いで取り繕うとするも言い訳が思いつかない。


「あ、その、えっと、なんとなく手を繋ぎたくなって…。」


「たらし過ぎないか?」


さらに不審な目を向けられる。


「ん?持ってるのは俺だったかな?どこやったかな?」


グレイは意味不明な連中を放置し期待を込めてボドーに注目する。ボドーはマイペースに自分の懐を探し始める。


もたもたもたもた


もたもたもたもた


能力交換の魔石が出てくる気配がない。グレイはいっきに萎えたようだ。


「…もういい。行ってくる。帰ってくる時までに見つけといてくれよ?」


「うん、ごめんね。行ってらっしゃい。」


エデン達はグレイの出立を見送った。



 グレイが見えなくなった頃、エデンは肩の力を抜き気を緩める。


「…ナイスフォロー。ありがとね、ボドー。」


「ん?何だ?俺が何かしたか?」


ボドーは平常運転だ。エデンは苦笑する。


これは作戦であった。エデン達は能力交換の魔石を使う時まで誰にも見せず渡さないつもりだった。


この作戦を発案したのはボドーである。慎重な彼は青龍の宝物を冒険団に渡すより自分達が持っていた方が安心だろうと考えたのである。


能力交換の魔石はマイが持っていた。前もって秘密にするように言っていたのに「いいだろう」と即見せようとしたためエデンは内心とても動揺した。ボドーがフォローしなければグレイにバレてしまうところだった。


今後も同じことがあっては困る。勇者としてちゃんと注意しなければ。エデンはマイに詰め寄る。


「はうあ!?」


「マーイ、だめでしょ?僕らだけの秘密だよって言ったよね?忘れちゃったの?」


「うわあああああ!!すすすすまなかったエデン!!わかったから!!ははははは離れてくれ頼む!!」


マイは真っ赤な顔をして必死に謝る。わかってくれたようだ。いつのまにか手を握ったまま彼女を壁際に追い詰めてしまっていたらしい。



 勇者一行は赤い雨の情報を確認しつつ冒険団の拠点に滞在し体を休めた。

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